第14話 女装（？）チャレンジ
昼食の後は、下着に続いてわたしの服を見る事になり、また店員さんに相談するところから始める。
「次はフミナ様の服ですね、承りました。好みや希望などはございますか？」
「なら、動きやすい服を……」
「はいは～い！ 可愛いのをお願いします。そういうファッションあったよね？ この店でも取り扱ってるでしょ？」
「え、ええ。勿論ありますし、最近力を入れ始めたものの一つになります」
「なら、それでお願いね」
わたしが店員さんの質問に答えようとしたところ、那月さんが強引に横入してきて、話をまとめてしまう。
思わず唖然としてしまったけど、流石に納得できないので、那月さんに抗議する。
「待って下さい。わたしの服ですよね？」
「そうだよ」
「なら、わたしの希望を聞くものじゃないでしょうか」
わたしの言い分は正論だと思うけど、那月さんは困った様に苦笑する。
「え～、だってフミナの希望を聞いたら、野暮ったい格好になりそうじゃない？」
「良いじゃないですか、動きやすくて。そもそも、冒険者ってそう言うものじゃないんですか？」
「うん、まあそうなんだけどさ。街中くらいは可愛らしい格好でも良いと思うよ。一回、騙されたと思って着てみて」
「……那月さんがそう言うのでしたら」
那月さんに推されると、わたしも強くは言えず、結局は従ってしまう。
そのまま店員さんの後をついていくと、やたら可愛い系の服が並んでいる売り場へと辿り着いた。
「流石にこれは……」
「フミナ、見てみて」
やたら女の子！ って感じの服を見て固まっていたところに、那月さんから声が掛かる。その声に振り向くと、彼女は比較的落ち着いた、清楚な感じの服を手に持っていた。
「これとかフミナに似合いそうじゃない？ 落ち着いたデザインだし、露出も控えめだしでどうかな？」
「そう……ですね。この位なら大丈夫かと」
「だよね！ なら早速着てみようよ。店員さん、似た様な雰囲気のがあれば、他にもお願いしま～す」
そう言うと、那月さんはわたしを試着室に押し込んでしまう。
渡された服はスカートとセットになっていたけれど、スカートの丈が長めな事もあるのか、意外と抵抗感を感じない。
とりあえず試すだけ、と自分を納得させつつ、その服に腕を通す事にした。
「おお～、すっごく似合うね！ 予想以上だよ！」
「……どうも」
いざ服を着てみると、それは確かにわたしに似合っていた。
姿見を見た時に自分でも驚いたし、那月さんからの称賛も満更でもなく感じてしまう。
「どう？ 良いでしょ」
「そう……ですね。少々心許なく感じますけど……」
「野暮ったい旅装より絶対良いって！ それに、街中ならこれが普通！」
「そうでしょうか？ いざというとき少々動き辛いのと、防御的な弱さは気になりますが……」
「……一体、何と戦う気なのさ」
スカートが心許なく感じたのと、そこから戦闘時の不備を考察していると、那月さんに突っ込まれる。
……いけない。格好まで女性らしくされたせいで、心が現実逃避したのか、思考があらぬ的な方向へ飛んでしまっていた。
この世界の危険度的に、街中でも気を抜かないのは大事だけれど、変に警戒し過ぎるのも良くないと考え直す。
「まあ、気を取り直してさ、次いってみようよ」
「次、ですか？」
そう言って近くのテーブルを見ると、沢山の服が積まれており、その下には様々な靴が揃えられていた。
「フミナもさ、可愛い格好は気分上がるでしょ。気に入った服だって見つかるだろうし、どんどん試してみようよ！」
その物量に一瞬慄いてしまったけど、那月さんに勝てる気もしないので、大人しく従う事にする。
それでも服や靴を試着していくと、服装によってわたし自身の雰囲気も変わるし、中には自分でも良く似合うと感じるものもあり、段々と楽しくなってきた。
下着を選んでいるときは恥ずかしさが先行していたけど、服ならその心配もないのも大きかったのかもしれない。
「ふふっ、フミナも楽しそうで良かったよ」
「……そうですね。わたしも正直驚きました」
「普段は結構クールだけど、こういうとこ、フミナも女の子だよね。可愛い一面が見られて良かったよ」
「…………え」
女、の子？ 可愛い？ ……誰が？
那月さんにそう指摘され、思考が女子そのものになりつつあった自分に気付く。
「え？ どうしたの、フミナ？ 大丈夫？」
「……はい、問題ありません。ふと気付いた事があって、ちょっと落ち込んだだけですので……」
女子として生きる事を考えると、馴染んできたという事も出来るだろうけど、わたし自身のアイデンティティーはまだ追い付いて来なさそうだった。
そんなこんなでわたしが凹んでいる間に、那月さんは支払いを済ませてしまう。
「うん、良い買い物だったよ。あ、それはそのまま着て行こ！」
「分かりました。その、ありがとうございます」
「可愛いし、めっちゃ似合ってるよ！」
「……どうも」
かなり精神と時間が削られたけど、何とか衣類の買い物も終えられそうと思ったところ、まだ足りないものがあったのか那月さんは店員さんに問いかける。
「それじゃ、店員さん。ここって加護付きの旅装って置いてます？」
「はい。取り扱い点数は少ないですが、丁度フミナ様に似合いそうなのが一つございます」
「へ～、見せて貰って良い？」
「那月さん、ちょっと待って下さい」
何故か、冒険用の服まで揃えようとする那月さんに対し、疑問を感じて待ったをかける。
「どしたの？」
「旅装なら、今あるので大丈夫と思いますけど……」
「でも、あれってちょっと丈夫なだけの服でしょ？ 加護付きのやつの方が絶対良いって！」
「そうなんですか？」
加護とは服などの装備品へ付与された魔法の事で、武器なら攻撃力、防具なら守備力や耐性を高めるなどの効果がある。
但し、その分価格も高額になるため、そこまでは不要と思っていたけれど、那月さんはその必要性を説き始めた。
「フミナなら大丈夫かもしれないけど、あるに越した事はないよ。動きやすさだって、間違いなくこっちの方が良いし」
「そうなんですね」
「それにね。加護付きを装備していれば中級以上に見られるから、絡まれ辛くもなるはずだし」
「……なるほど。そういったメリットもあるんですね」
冒険者ギルドではいやらしい男共に絡まれたけど、わたしが初心者同然の格好をしていたので、良いカモと思われた面もある様だった。
そう思わず納得していると、店員さんが加護付きの旅装を持ってくる。
「こちらになりますが、如何でしょうか」
「おお～、可愛いね。確かにフミナに似合いそう」
「これって……」
それを見て、わたしは思わず固まる。
確かに可愛いと思うけど、妙に日本の学校の制服っぽいデザインだった。
どうやら、過去の転生者が残した影響は思った以上に大きいらしい。
「どしたの？ ね、着てみようよ」
「……そうですね、分かりました」
日本を想起させるデザインなだけに、わたしも少し戸惑ったけど、結局は那月さんに押し切られて試着してみる事になった。
但し、着てみて気付いたけれど、これまでの服と違って妙にスカートが短い気がする。
「凄く似合うね。今までのも可愛かったけど、これはフミナのための服って感じがするよ」
「それは良いんですけど、スカートの丈が短くありませんか？ 色々な意味で心許ないんですけれど……」
何と言うか、守られていない範囲が広く、色々と見えてしまいそうな不安もある
し、そもそも森や藪を歩いたら足が酷いことになりそうに思う。
「あ、それは大丈夫。加護が付いていれば、下手な服より耐性あるから」
しかし、思った以上に加護は万能で、その心配はいらないらしい。
「とは言っても、やっぱり丈が短いのは不安です。足が見えてしまいますし」
「え～、良いと思うけどな～。フミナの足、白くて綺麗だし」
「何見てるんですか……」
そう言ってスカートを抑えつつ、那月さんにジト目を向けていると、店員さんから思わぬ提案があった。
「スカートの丈が不安でしたら、下に何か履かれては如何でしょうか。こちらなどは下着もカバーしますので、不安もなくなるかと」
「なるほど。試してみても良いですか？」
店員さんが持ってきたのは黒色のタイツらしきもので、足全体を覆うし、下着も見えなくなるから丁度良さそうに思う。
那月さんはちょっと不満そうな顔をしていたけど、こればかりは譲れなかったので、自分の意思を押し切って履いてみた。
「うん。これなら激しく動いても大丈夫ですし、良いと思います」
「では、こちら二点お買い上げで宜しいでしょうか」
「はい、お願いします」
そう言って、店員さんから提示された金額を見て、わたしは驚く。
この旅装は１００００アウルム……金貨十枚もするらしい。
わたしの持ち合わせで払える額ではないため、思わず固まってしまったけど、那月さんはさして気にせずに会計を済ませてしまう。
「その、こんな高いの良いんでしょうか……」
「気にしないで。加護付きなら安い方だし、それでフミナの安全が買えるなら悪くないでしょ」
「……分かりました。ありがとうございます」
「それよりさ、さっきの服に着替えようよ。この旅装も悪くないけど、今日は買い物の日だから、普通の服装で楽しもう！」
那月さんはそう言うと、わたしを再度試着室に押し込む。
わたしからすると、どれも非日常の服装だけれど、そこには彼女なりのこだわりがある様だった。
買い物を通じて、少しずつ女性化してきている自分に戸惑うＴＳ少女の図。
