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第9話

「……本当に、君は」

 と、私の目の前に降りてきたクランド様が苦笑する。

「心配ばかりかける」

 まっすぐと私に向けられる瞳から、目が離せなかった。

 クランド様の片腕が私の太ももに回ったかと思うと、

「きゃっ」

 私はクランド様の腕に座っているような状態で持ち上げられた。

 クラウド様は私を見たまま、

「少し、おとなしくしていてくださいね」

 と言うと、私を持ち上げたまま、反対の手で剣を持ち、盗賊たちの相手をしていた。



「……」

 きもちわるい……

 あのまま、ぐるんぐるん回されて、気分が悪くなっていた。

 必死にクランド様の首にしがみついてはいたけれど……

「大丈夫?」

 申し訳なさそうにクランド様が私の顔を覗いている。

 私は青ざめた顔で微笑んで見せるのがやっとだった。

 あれから少しして、アンがライアンお兄様たち騎士を連れてきた。

 ほぼ全員を皇太子殿下とクランド様のお二人で気絶させていたため、お兄様たちの対応はただ盗賊団を縛り上げ、連れていくだけだった。

 お兄様の指示で半分は盗賊たちを連れていき、半分は皇太子殿下の護衛にまわる。

 皇太子殿下とアイリスが、別部隊の騎士団長に何か言われているのが見えた。

「まったく」

 呆れるライアンお兄様の声が聞こえる。

「私は……大丈夫です」

 と、答える私に、

「お前は被害者だろっ」

 と、さらに呆れられた。

 それを見ていたクランド様は苦笑しながら、私の耳元で囁く。


「夜、会いに行くね」


「……っ」

 囁かれた甘い声に顔が火照るのがわかって、私は慌てて抱えていた足に顔をうずめた。

 そんな私を見て安心したように笑うと、クランド様はライアンお兄様を見る。

「ライアン」

「ん……?」

「ユリナを……」

「……わかった。後処理は他の奴らに任せるよ」

 クランド様はライアンお兄様が頷くのを見届けて、

「またね」

 と、皇太子殿下とアイリスの所に戻って行ってしまった。

「……皇太子殿下。持ち場を離れた無礼を、お許しください」

 と、跪いて謝る声が聞こえる。

「いや、まいたのはこっちだしな。いいタイミングだった。帰るぞ」

「ハッ」

 騎士たちの答える声がする。

「……」

 ふと、アイリスが心配そうにこちらを見ているのに気が付いた。

「……」

 私が笑顔で手を振ると。

 アイリスはホッとしたように、勢いよく頭を下げる。

 お互い無事でよかったと、笑顔を交わした。

 皇太子一行は、アイリスと共に去って行った。



 帰りの馬車の中。

「……」

 そっか、物語の中の騎士は、クランド様とかライアンお兄様だったのね。

 二人も一応、登場人物だ……。

 私がぼぉっと考え事をしていると、ライアンお兄様が突然、尋ねた。


「……お前、クランドとなにかあったのか?」


 と。

「え?」

 ライアンお兄様の探るような瞳が私に向けられる。

「……なにかって?」

 なに?!

 内心焦る私を見透かすように、ライアンお兄様はジッと私を見ていた。

「……」

 その目、怖いんですけど。

 でも。

 クランド様と、両想いになりました……。

 なんて、言えないよ。

「なにも、ありませんよ?」

 と、引き攣る顔が、白状しているようにも思えたが、とにかく白を切るしかない。

「……まあ、いい」

 ライアンお兄様は私から目を逸らし、馬車の外を見る。

「あいつは昔から、お前のことが目に入っても痛くないほど可愛がってたからな。無理もないか」

「……どうゆう意味?」

 目を見張る私に、ライアンお兄様は軽いため息をもらした。

「……かなり、怒ってたな」

「……?」

「気がついてないのか? あ、あー、抱きかかえられてたから見えてないのか」

 はぁ~、と、ライアンお兄様は大きなため息をついた。

「怒ってたんですか? クランド様が?」

「ああ、とんでもなく。あの盗賊たちも、よく峰打ちで済んだもんだ。大けがしててもおかしくない剣幕だったぞ」

「……」

 そうなんだ……。

 心配ばかりって、言われたもんな。

「まぁ、あいつが家によく顔を出すのは、大半がお前目当てだしな。今更、あいつが何しても驚かないが」

「え? ……お兄様に、用事があったのでは?」

「そんな訳はないだろう。同じ職場なんだし」

「……え?」

 呆然とする私に、

「で、何言われてた?」

「……?」

「何か耳元で言われてただろう」

 ムッとした顔で、お兄様は私を見る。

 どこまで、見られてるんだろ。

「……」

 夜来るって言ってたけど、どうゆう意味なのか。

 お屋敷は夜にはしまっちゃって、お父様の許可を得ないと入れないだろうし。

 事前に話がいってるとも思えないし。

「……」

 忍び込んでくる……?

 漫画の世界でもあるまし……はは……。

 ここは絵本の世界でした~~~……。

「……心配していただいただけです」

 と、言うと、ライアンお兄様は疑いのまなざしを向ける。

「ほ~お……」

 さ、さっきから、なんなの?

 ハッキリ聞けばいいのに……。

「……」

 いや……っ!

 はっきり聞かれても、どう答えていいのか……。

 困った。

「……ふ~ん」

 え? え? なに?

 お兄様は不審がった視線を送ってくる。

「……」

 お兄様、もしかして、気が付いてる……?

 私たちのこと?

 えー……っ?!

 急にのぼせてきた気がする。

 顔が、熱い。

「……」

 様子をうかがうようにしばらく見られたが、ライアンお兄様はそのまま目を閉じ、黙る。

 うろたえる私に気が付いていただろうに、お兄様それ以上何も言わなかった。



 その夜。

 昼間の事件を受けて、ウィリアムズ公爵家には王宮から使いが来ていた。

 お父様はその対応で忙しそうだ。

「……」

 なんか、おおごと?

 お父様、何言われてるんだろ。

 ベランダから王宮から来た使いが帰って行くのを何気に眺めていると、

「寒くない?」

「……っ!」

 クランド様の声がして、私は驚いて振り返る。

 そこには、ベランダに近い木から軽やかに移るクランド様の姿があった。

 本当に忍び込んできたの?!

 公爵家に?!

「前からこの木が使えるとは思ってたんだけど。本当に、いい位置にあるよね。忍び込んでくれって言わんばかりに」

 と、暗闇に紛れる騎士の制服を着たクラウド様は、今上ってきた木を振り返り見る。

「ど、どうやって敷地内に入ったんですか?!」

 驚きを隠せない私に、クラウド様は平然と答えた。

「ん? 使用人の男の子が喜んで開けてくれたよ」

「え?!」

「日頃の行いがいいからかな? みんな協力してくれるよね」

 クランド様がふふっと笑う。

 そして。

「さっき、アンちゃんにも会ったから、当分部屋に誰も近づけないでくれるって」

 と、クランド様はにっこり微笑んだ。


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