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第7話


「ユリナ様! ユリナ様! ユリナ様―――ぁ!」


「?」

 部屋の外から私の名前を連呼するアンの声がだんだんと近づいて聞こえ、私は部屋の扉を開ける。

 扉を開けたとたん。


 ふわっ


 と、花の香りとピンク系のお花でまとめられた、両手で抱えるほどの花束が私の腕に飛び込んできた。

「……アン、これは」

 驚く私に、アンは興奮気味に言葉を重ねてきた。

「クランド様からです!」

 アンは嬉しそうに、ぴょんぴょんと跳びはねている。

「昨日、キール様がティーパーティーを台無しにしてしまったお詫びとのことでしたが……。違いますよね? 違いますよねーっ!」

 この侍女、アンは、私が幼い時から一緒に過ごしてきた、一番身近な存在。

 私を姉のように慕い、妹のように可愛がり、自分のことのように感情を共にする。 

 とてもカンがいい子で、私がクランド様に想いを寄せていることも、すぐに気が付いた。

「私は! 断然、クランド様()ですから!」

 と、平気で言えちゃうぐらい、キールに対してはいい感情を持っていない。

 廊下ではしゃぐアンを、私は慌てて部屋に押し込んだ。

「もう! 他の人にバレるじゃない!」

 と、小声でアンに言うが、

「何おっしゃってるんですか! お屋敷のメイドや使用人たちは、みんなキール様のこと目の敵にしてますよ?」

「へ?」

「あたりまえですよ! ユリナ様にあんな態度をとられるキール様に、好意なんてあるわけないじゃないですか! しかも、ユリナ様主催のティーパーティーをぶち壊した張本人です! 昨日で絶対、キール様、嫌われてます」

「……」

 まあ、そうか……。

 アンの勢いに押されつつ、納得する。

「ですから! みんな、ユリナ様とクランド様の応援してますので」

「はい?」

「クランド様、絶対! ユリナ様のこと、お好きですよね?」

「……」

 目を丸くして言葉を失う私に、アンはニヤッと笑う。

「昨日のユリナ様のご様子を見れば、クランド様と何かあったんだろうって、バレバレですよっ」

「……」

 私は恥ずかしくなって、花に顔をうずめる。

 アンは嬉しそうに、満面の笑顔で私を祝福する。

「ユリナ様! キール様なんかより絶対、幸せになれますから!」

 と、そして。

「婚約なんて、破棄できますよ!」

 と、ファイティングポーズする。

 聞かれてたんだろうか、庭での出来事……。

 そんな風にさえ疑ってしまうこと言われてますが……。

「……」

「クランド様が味方になったら、もう、こっちのものですね~~~」

 アンはそういいながら、鼻歌交じりにお花を飾る花瓶を準備し始めた。

 婚約破棄。

「……」

 そんなこと、できるのかな。

 と、私はアンが飾ってくれた花をぼーっと見つめる。

「あ、そういえば、もうすぐリナの誕生日よね?」

「ハイ。パーティーの招待状も来てますよ」

「……」

 キールにエスコートを頼めば、彼が参加する大義名分ができるか。

 物語のお話も進むことだし、準備はしなくちゃね。

「ユリナ様?」

 突然立ち上がった私に、不思議そうにアンは声をかける。

「プレゼント、用意しなくちゃ。買い物に行くわよ」

「あ、ハイ!」

 アンは嬉しそうに準備に取り掛かる。

 めったに外出しない私は、侍女のアンにとって不満らしい。

 彼女は、買い物好きな女の子だから、私の買い物には、いつもしっぽを振ってついてくる。

「……」

 しかし、リナへのプレゼントは何にしたらいいのか、全くと言っていいほど浮かばなかった。

 彼女はなんでも持っているだろうし。

「……」

 馬車を降り、あてもなく街をぶらぶらする。

 物語はどこまで進んでいるのだろう?

 リナの誕生日パーティーは、結構見せ場が多かった気がするし……。

「……」

 うーん、ストーリーに関係ない人物だからな……。

 大体の残りの流れとしては、今度のリナの誕生パーティーが終わったら、近いうちに皇太子妃の選抜が行われるはず。

 で、皇太子妃のお披露目パーティーで、エンド。

 だったよね?

 考え事をしながら歩いていると、

「ユリナお姉さまっ!」

 と、急に声をかけられた。

「……アイリスさん!」

 声がかけられた方を見ると、笑顔で駆け寄ってくるアイリスの姿が見えた。

 ああ、ヒロイン。周りが輝いてます……。

「お買い物ですかぁ?」

 少し息を切らせて、アイリスは嬉しそうに私の前までやって来た。

 ぱぁ~あああああ……と、お花でも咲き出しそうな笑顔ですね。

「アイリスさんも?」

「はいっ!」

 ニコニコしているアイリスに、私も思わずニコニコしてしまう。

「ああ、昨日はごめんなさいね。せっかく来てくださったのに、あんなことになってしまって」

 と、苦笑する私に、とんでもない! と、アイリスは首を振る。

「私こそ! 遅れてしまってすみませんでした」

「そんなこと気にしてませんから、大丈夫ですよ」

 と、私は微笑んだ。

 遅れてきたからって、怒るようなことでもないし。

 私より、皇太子殿下の方が重要だし。

「……」

 アイリスがここにいるってことは、何かの場面だろうか?

 何か、あったかな?

 ヒロインが街に買い物……?

 そう思いながらも、私はふと浮かんだ疑問を口にする。

「アイリスさんはよく、皇太子殿下に呼ばれるのですか?」

 と。

 私の疑問に、アイリスの表情が固まった。

 あれ?

 聞いてはいけないことだった?

「答えたくなければ、いいんです」

 と、慌てる私に、アイリスは恥ずかしそうにした。

「あの、……内緒なんですけど、実は私、皇太子殿下にダンスを教わってまして」

「……え? ダンス?」

 予想もしてなかった答えに、私は驚いた。

「はい。その、私、養子なんです」

「え?!」

「クラーク伯爵さまの遠縁ではありますが、元は平民なんです。だからその、教養が足りなくて」

「……」

 あまりの衝撃に、私は言葉を失った。

 ヒロインに、そんな設定があったとは思わなかったからだ。

 しかも、アイリスはその内容を簡単に言ってのけた。

「そんなこと、私におっしゃって大丈夫ですか?」

 元平民。そんな事実は、人を貶める恰好の餌だ。

 リナが知ったら……、大変そう。

 ゾッと身震いしてしまう。

「……ええ、お姉さまなら大丈夫です。こう見えて私、人を見る目があるんです」

 と、アイリスは無邪気な笑顔を浮かべる。

「なので、今日はいつもお世話になっている殿下に、なにかお礼がしたくって」

 恥ずかしそうに告げるアイリスを見て、思わずキュンとしてしまった。

 ああ、恥じらう姿も絵になるのね。

 その時だった。

「アイリス……っ」

 急にアイリスを呼ぶ、明るい声が聞こえる。

 

 皇太子殿下っ?!


 が、嬉しそうに声を上げる姿が見えた。

 それと同時に、私の脳裏に物語の一部が思い出される。

 え、もしかしてこれって……。

 街に出かけたヒロインが暴漢に絡まれてる所を、お忍び中の王子様が助け出すシーン、……では? 

 ベタベタな展開だけど。

 物語に関わらないはずの私が、


 どーしてこんな危ない場面に遭遇しなくちゃならないのよ―――っ!(泣)


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