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最終話

 

 そして。


 お披露目会、当日。


「ああ良かった。綺麗だよ、ユリナ」

 

 クランド様が、予定より少し早く私を迎えに来てくれた。

 部屋まで案内され、着飾った私の姿を見るなり眩しい笑顔を向ける。

 そんな私も、タキシード姿のクランド様は初めてで……。

「……っ」

 素敵ですっ! クランド様っ!!

 後光がさしてますっ!

 言葉にならない気持ちと、胸の高鳴りがいっぱいに広がる。

「キールは、ちゃんとリナ嬢のエスコートをしに行ったよ」

「わざわざ確かめたのですか?」

「一緒に発表でもしてあげられたら、あの二人に非難は集まらないのにね」

 と、少し申し訳なさそうでもある。

 私は王族。キール達は貴族なので、扱いは違って当然だけど?

「今更な気もしますが?」

「うーん。二人をたきつけたのは自分なので、少し心が……」

「……え?」

 私はクランド様からこぼれた言葉に耳を疑った。

「たきつけた?」

「……ああ」

 と、クランド様はまた申し訳なさそうに小さくなった。

「キールにも幸せになってもらわないと、俺が困る。それに」

「……」

 今度はまっすぐと私を見下ろした。

「正直、キールに嫉妬していました」

「え?!」

「ユリナを独り占めしたかったですし……」

 私の前でうなだれるクランド様を見て、苦笑する。

「そんなに余裕がないようには見えませんでした。クランド様はいつも大人で、私の前を行く人だったので」

「……今は?」

 不安げな瞳が向けられて、私はドキッとした。

 あの日、あのお庭でクランド様がある意味の告白をされてから、その表情が優しい大人なクランド様だけではなくなった。

 不安なことも、嬉しいことも、怒ることも、その表情に見える。

 私の気持ちの変化なのか、クランド様の変化なのか、わからない。

 でも、お互いに歩み寄った結果な気がして、私は嬉しい。

「一緒に並んで歩んでいってくれる人です」

 にこっと微笑む私に、クランド様はホッとした表情を浮かべる。

「クランド様のタキシード姿、とっても素敵です」

「……っ」

 顔を赤らめて視線を逸らすクランド様に、私は驚いた。

 わっ、照れてる?

 か、かわいいっ!!!!!

 って、こっちまで照れてしまう……。

 私は改めて、ドレスを見た。

 クランド様のタキシードとコーディネートされたドレス。

 紫は高貴な色。

 今日のお披露目会に引けを取らないように用意された、はず。

 クランド様との初めての舞踏会。

 みんなの前に堂々と二人で出られる初めての会。

「緊張、してますか?」

 王宮に向かう馬車の中で、なせかクランド様の膝の上に座らされている私。

 その私を覗き込むクランド様のお顔が視界に飛び込んできた。

「……緊張してます」

 と、私は視線を逸らす。

 ただでさえ、見慣れないタキシード姿のクランド様は、いつもと違う雰囲気にドキドキするのに。

 お顔が近すぎて……。

「クランド様は……? 緊張されたりするのですか?」

「そうですね。今日は、しますね」

「えー、意外ですね」

 ふふっと笑うと、クランド様が照れたようにムッとしたお顔になった。

「この時を、ずっと待っていましたから」

「?」

「こうして、堂々とユリナの隣に居られる日を」

 優しく嬉しそうに微笑むクランド様に、ドキッとしてしまう。

「……私も、です。それに、……みんな、私の婚約者はキール様だと思っているでしょうから、少し楽しみです。皆さん、どんな反応するか、見て教えてください」

 特に、リナの反応が楽しみだと思ってしまう私は、意地悪だろうか。

「……それは、難しいですね」

「? どうしてですか?」

 キョトンとする私に、クランド様はまっすぐな瞳を注ぐ。

「俺は、ユリナしか見えませんから」

「~~~」

 また、そんなことをっ。

 私が真っ赤になって何も言えなくなっているのを見て、クランド様はますます笑顔になった。

 ちゅっと、軽くお互いの唇が当たるキスをする。

「これからは、人前でも堂々とイチャイチャできるね?」

 そう私の耳元で囁いたクランド様は、少し照れくさそうに意地悪な笑顔を浮かべていた。

 そして、私の体を支えたまま、丁寧に甘いキスをする。

「ん……んっ」

 こぼれる吐息と声に、クランド様は私から離れるとくすっと微笑んだ。

「キスでとろんとしちゃうユリナ、可愛いっ」

「……っ」

 言葉にならない言葉を発している私を抱きかかえたまま馬車を降り。

 クランド様はゆっくりと私を地面に下す。

 王宮の一角で行われている、皇太子妃お披露目会。

 遅れながら、私たちは会場に向かう。

 国王陛下に紹介されて、私たちの正式な婚姻がみんなに知らされるのだ。

 ある意味、予想通りの皇太子妃の発表より、私たちの方が与える衝撃は大きいかもしれない。

 国王陛下も、むしろそれを楽しんでいるのだから。

「いつまでも顔を赤く染めていると、みんなに変な風に思われますよ」

「へん……って?!」

 慌てる私に、

「さあ、行きましょうか」

 と、クランド様が手を差し伸べた。

「はいっ!」

 私はクランド様の手を取り、二人並んで歩き出す。

「そうそう」

 思い出したようにクランド様は声を上げる。

「?」


「初夜は次の朝起きられないぐらい、めちゃめちゃに愛してあげますね」


「……っ!」

 と、私にそっと耳打ちをしたクランド様は、体中を真っ赤に染めた私に満足そうに微笑んだ。



 絵本の物語は、だいぶ違った形だった気はするけれど、ここで終わり。

 でも、私とクランド様の物語も、この絵本の登場人物の物語も、まだまだ進んでいく。

 この先ずっと、私の知らない出来事がいっぱい。

 予想できないこともいっぱい。

 だから、数年後に生まれる私たちの娘が、私と同じ転生者だったとしても不思議じゃないよね?

 でもそれはもちろん、クランド様には秘密。

 娘との楽しい昔話も、娘のこれからの物語も。


 みんな、みんな、別の物語(おはなし)

 

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