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第27話


「……クランド様、これは?」


 お部屋に並べられた二着のドレスを見て、私はクランド様を見上げた。

 クランド様はみんなを下がらせると、私を見てにっこり笑う。

「どうかな? ユリナに似合うと思うんだけど」

 似合うって言われても。

 私の目の前にある二着のドレスを見て、言葉を失う。

 ひとつは、薄紫色の生地と白いレースで出来た上品な舞踏会仕様のドレス。

 今度のお披露目会用だってわかる。

 もうひとつは。

「……これって」

 見覚えのあるデザイン。

 何でこのドレスがここに……?

 驚きを隠せない私の顔を、クランド様は覗き込む。

「うん、ユリナが選んだ花嫁衣裳です」

「……」

「覚えていませんか? ライアンの結婚式の時」

「覚えてます。覚えているので、驚いてるんです……。だってっ!」

 混乱している私に、クランド様は微笑んだ。

 目の前にあるのは、真っ白な、ウェディングドレス。

 耳によみがえる、ライアンお兄様の声。

 

『お前だったら、どれがいい?』


 って――……。

「だってっ! あれはもう二年以上も前のっ」

 ただの、参考程度に聞いたんだと思ってたのに?!

「そうだね。全く同じではないでしょうが、今流行りの感じにはしてくれてると思うよ」

「……いつから?」

「ん?」

「私がクランド様に告白した頃では、このドレスたちの仕立ては間に合いません」

「……本格的な工程は、後からでも十分でした。もともと、必要なものは今日に間に合う時期に手配していましたし」

「……」

 そんな答えが聞きたいのではないという瞳が、クランド様にも伝わったようだ。

 クランド様の困ったような笑顔に、胸が痛んだ。

 なんで、そんな辛そうなの……?

「俺が、君を好きだと気が付いたときから、その日から、ユリナの18歳の誕生日に結婚式を上げるため、準備してきました」

「……私の、誕生日? え、来週ですか?」

 困惑する私に、クランド様は苦笑する。

「嫌、ですか?」

 私は切なそうなその笑みに、何も言えない。

 突然すぎて、言葉にならなかった。

 そんな私に。

「久しぶりに、お庭にでも行きましょうか?」

 と、クランド様は私の手を引いて、部屋を後にした。


 日も陰ってきた夕方、ひんやりとした空気が頬を刺す。

 久しぶりに、この場所にやって来た。

 クランド様と過ごす、特別だった場所。

 読書やおしゃべり、野犬にも襲われた。告白も、した場所。

「……」

 最近、いろいろあってこの場所に来ることがなかったな。

「ここで、ユリナに話しておこうかと」

「……?」

「何から話そう?」

 私を覗くその瞳が、切なく揺らぐ。

 なんでそんなに泣きそうなお顔なの?

 私がさっき、答えなかったから?

「……じゃあ、私とクランド様の関係は、みんな知っていたんですか?」

「そう、ですね。ライアンと公爵夫妻は俺の気持ちを知っていました。協力もしていただきました」

「え? でも、ライアンお兄様は私たちのこと知った時驚いてませんでしたか?」

「……うーん、うまくいったことを伝えるの忘れてて」

「え?」

「嬉しすぎて、ユリナとの時間を優先していたので、ライアンには言いそびれて」

 あはは、と苦笑するクランド様に私の顔が引き攣る。

「ちょっとすねてたね。後は、兄としての複雑な心境?」

 座ろうか、と、クランド様は私をベンチに促した。

「……じゃあ、お父様とお母様は?」

 腰掛ける私を見届けて、クランド様も隣に座る。

「公爵夫妻には、あの野犬事件の後にお願いに行きました」

「……」

「キールだけじゃなく、自分にも権利はあるはずなので、と」

「その時には……婚約の内容を知っていたんですね?」

「知っていたと言うより、前お話したように気が付いたって言う方が正しいかな。だから、それを確かめる意味でも、公爵様にはお話しする必要があったので」

 クランド様はまっすぐ見つめる私の頬に触れるのを躊躇った。

 ためらった手を、下ろしてしまう。

「俺にもチャンスが欲しいと申し出たら、公爵夫妻は快く頷いてくれました。婚約内容については国王陛下の元結ばれたものでしたので、約束の日が来るまでは婚姻は成立しない。逆に、それまでにユリナを振り向かせなさいと言われて」

「……約束の日?」

「ユリナの18の誕生日。その日に婚姻をするために、国王陛下との謁見の日がユリナの選択の日」

「……それも、婚約の内容に?」

「含まれてました。それと、あえてキールが婚約者だとの世間の認識はその日まで変えるつもりはないとも、言われました」

「……どうして誰も、本人である私に何も教えてくれなかったんですか?」

「公爵様は一年前に伝えるつもりだったようですが、俺が黙っているようにお願いしました」

「え? どうして……っ?」

 困惑する私を、今度はぎゅっとクランド様は抱きしめる。

「俺はただ、キールとの結婚が嫌で俺に逃げるような選択は、してほしくなかった」

「……逃げる? キール様との結婚が嫌で……?」

 クランド様の気持ちを知らないまま謁見の日を迎えて、選択を迫られていたら、私はどうしていただろう?

 キールを選んでた?

 クランド様?

 私はきっと、どちらも選べなかったはず。

 逆に前もって婚約の内容を知らされたら?

 私は迷うことなくクランド様に真っ先に想いを伝えていたはず。

 でもそれは……。

「……」

 クランド様から見たら、仲が悪いキールとの結婚を嫌がって、クランド様に言い寄る女に見える。

「ユリナが自分から俺を選んでくれたって思いたかったんだっ! そうでもしないと、自信が持てなくて」

「……」

 いつも私をからかって、余裕たっぷりな雰囲気を出してるクランド様が?

 自信が、ない……?

「だからこれは、俺のエゴだってわかってる。君を振り向かせる自信はあったけど、君の口から聞かないと動けなくて。なかなか言い出してくれないから焦った。君を好きだって自覚してからの三年は、本当に長くて……。今すぐにでも君を連れ去ってしまいたいのに」

「……」

 どうしてそんな余裕がない表情になるの? 

 今までそんな顔、見せたこともないのに。

 私だって、こんなにクランド様が好きなのにっ!

「わ、私は、クランド様が好きです」

「……」

「今更、過去のことを振り返っても仕方ないので、もういいですけど。今ではもう、クランド様との未来以外考えられないのでっ!」

「……っ」

「クランド様の背中を見送る日々は、寂しかったです。だからっ」

 私はまっすぐとクランド様の瞳を見返す。

「婚姻が思ったより早いことは驚きました。けど、クランド様と一緒になれるなら大丈夫です。……クランド様。私、ユリナ・ウィリアムズは、クランド・バーナード様の妻になることを、心から望んでいます。ですから……あっ」

 私の口を、クランド様の唇が塞いだ。

「ん……っ」

 吐息が漏れて、クランド様が離れていく。

 クランド様は切なく微笑んだ後、私の前で跪いた。

「……ユリナ」

 私の手を取ると、薬指に指輪をはめる。

 控えめながらも、しっかりとダイヤモンドが輝く指輪だった。

「クランド様……これって」

「これから先の未来、ずっと、君を愛することをここに誓う」

「……」

「君の力となり、支えとなり、君と一緒に、幸せになりたいと思う」

 まっすぐ見つめられる真剣な瞳に、胸が高鳴った。

「俺と結婚、してください」

 苦しくても、どこか安心する鼓動。

 胸が、温かくなる。

「……ひとつ、お願いがあります」

「?」

「今度、何かするときは、内緒にしないで一緒に準備してくださいね。私も、クランド様と一緒に、幸せになりたいですから」

 そう言って微笑む私に、クランド様のお顔にいつもの笑顔が戻った。

「はい」


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