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第26話


 翌朝。

 クランド様はすでに私の部屋にいない。

「……」

 クランド様が横になっていた場所を見て、ちょっと切なくなる。

 それと同時に。

 あの時の激しいキスを思い出し、顔が熱くなった。

 クランド様の余裕ない感じがものすごくドキドキして。

 私も答えるのに必死で……。

 さ、最後までいっちゃうのかと思ったっ!

 きゃーっと、私は枕に顔をうずめる。

「……」

 ああ、それなのに……っ。

 いつの間にか、寝ちゃってっ。

「……」

 小さなため息が漏れた。

 残念だったような、安堵したような、複雑な心境。

 クランド様が出て行くときも、本当は気が付いたんだけど寝たふりしてた。

 寂しいって引き留めたら、クランド様はもう少し一緒にいてくれたかもしれない。

 でもそれはできないから。

 窓から出ていくクランド様の背中を見送りながら、今度はいつ会えるかな。と、考えてしまう。

 私たちの婚姻が認められても、実際に一緒になるのはずいぶん先の話。

 あの一週間を経験してしまったおかげで、

 クランド様と過ごしたあの一週間が幸せすぎて。

 離れてる時間が、長く感じる……。

「……」

 手紙……?

 ベッドから抜け出た私は、机の上の紙に気が付いて手に取った。

 そこには、クランド様の字で夕方に来る旨が記されている。

 今日も会える……っ。

 ことに喜ぶ私。

 単純だな、と、感じながらもベルを鳴らす。

「……お目覚めですか?」

 呼ばれたアンが顔を覗かせた。

「おはよ、アン。おばあ様は?」

「はい。昨晩、旦那様と一緒にこちらにいらしてますヨ。朝食をご一緒されますか?」

「うん、お願いね」

「ハイ、急ぎますね」

 と。

 アンの高速身支度が終わると、

 私は食堂に急いだ。


「おばあ様!」


 食堂では、両親とおばあ様、ライアンお兄様がすでに待っていた。

「体調が悪いとお聞きしました! 大丈夫なんですか?」

「おや、私は元気だよ」

 おばあ様は挨拶もそこそこに抱きつく私を驚いたように受け入れる。

「そうなんですか?」

「お前の晴れ舞台だからね。私はまだまだ元気だよ」

「……?」

 晴れ舞台?

 お披露目パーティーの事かな?

 とにかく、良かったっ。

「お会いできて、嬉しいですっ!」

 と、込み上げる喜びをいっぱいに広げていた。



 その日の午後。

「……」

 私を尋ねてきたのは、リナだった。

「……お話があって、来たのでしょ?」

 なかなか口を開けないリナに、私は話すように促すが、リナはモジモジしたりでなんだか言いにくそうだった。

「……来客予定がありますからあまり時間がありません。言いにくいのであれば、改めて明日にも時間を取りましょうか?」

「……っ!」

 私の提案にリナは無言のまま、その不安に満ちた瞳で私を見上げる。

 そして。

「キール様を!」

「ん?」

 キール?

「お姉さまがキール様をなんとも想っていらっしゃらないことを知ってます! だから、その……」

「……」


「キール様を好きになっても、よろしいでしょうか……っ!」


「……っ!」

 勢いよく告白したかと思ったら、リナは恥ずかしさのあまりその場にうずくまってしまった。

 私は私で、あまりにも唐突で、しばらく目をパチパチさせる。

 え、あれ? キールは何も伝えてないの?

 うまくまとまったような話、してたよね?

 え? 

 そっちはそっちで、話がまとまってる状態じゃないの?

 なんでわざわざ私に言いに来た???

「……」

 あ……。

 クランド様と私のことはお披露目会まで内緒だって、国王陛下に言われてたっけ。

 そうなると、リナの中でまだ私はキールの婚約者なんだ。

 と、私はリナを見下ろし、苦笑する。

「それは、良かったです」

 と、微笑む私を、リナは不思議そうに見上げた。

「どうして……?」

「あ……」

 リナが求めてた反応ではなかったのかな?

 苦笑してしまう。

 私はリナに手を差し伸べると、立つように促した。

 普通なら、人の婚約者を好きになってもいいかなんて馬鹿げた質問をする令嬢はいない。

 って、もう好きなんでしょ?

 リナなりの誠意? 

 それとも……、自分が選ばれたとの優越感に浸りに?

 ともかく、この行動力はすごいな、と、感心してしまう。

 自分の心に素直で、羨ましい。

 しかも、可愛いし。

 キールが好きになる気持ちもわかるよ。

「お姉さま、でも、キール様はお姉さまの婚約者ですよね?」

「……」

 潤んだ瞳が私を見ている。

 うーん。

 何が言いたいんだろ?

 何を求めている?

 好きになっていいかと聞いてきて、好きになってはいけないと、返事がもらいたいんだろうか?

 あ、悲劇のヒロイン、気分なのか?

「……。私が、キール様を想っていないことはよくご存じでしょ?」

「……はい」

 不安そうなリナに、私はにっこり微笑んだ。

「それに、キール様がリナに想いを寄せていることは周知の事実です。私は、リナを応援します」

「……お姉さまぁ」

 うるうる瞳で、リナは私に抱きついてきた。

「教えてくれてありがとう。これで私も、堂々といられます」

「……?」

「今度の皇太子妃のお披露目会、リナも参加されますか?」

「あ、はい。辞退した身ですが、参加してほしいと皇太子殿下が」

「皇太子殿下が?」

「はい」

「……」

 殿下から直接? なぜ?

「ではリナは、キール様のエスコートでパーティーに参加してもらえますか?」

「え……? でも……」

 驚くリナに、私は微笑んだ。

「そうね、周りになんて言われるかわからないけど、すぐに平気になるから心配しないで大丈夫よ。キール様も一緒にいてくれるだろうし。堂々としていらして?」

 と、にっこり微笑む私に、リナは納得できない様子のままウィリアムズ家を後にした。



「今、リナ嬢の馬車とすれ違いましたが……」

 クランド様が不思議そうに私を見た。

 入れ違いでクランド様が尋ねてきたので、私はそのまま玄関でお出迎えしていた。

「……、キール様を好きになってもいいかって、確認しにいらっしゃいました」

「え?」

「可愛いですよね」

 にっこり笑う私に、クランド様は複雑そうな顔をする。

「リナ嬢、一人でですか?」

「ええ」

「キールが君の婚約者だと思ってるんですよね?」

「はい」

「……なかなかな、方ですね」

 あっけに取られるクランド様に、私は微笑む。

「それが、リナですから」

「……?」

 聞き取れなかったように、クランド様は不思議そうに私を見た。

「いえ。……クランド様は、今日はどのようなご用事でしたか?」

 思えば、正面から堂々と私を尋ねてくるのはめずらしい。

「ああ、そうでした。とりあえず、お部屋に行ってもいいですか?」

 と、私の手を取り、手の甲にチュッとキスをした。


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