第24話
三年ぶりだっ!
ライアンお兄様の部屋に集まった懐かしい顔ぶれに、私は喜んだ。
目の前に座るロキお兄様と、可愛い弟、リアム。
ロキお兄様がなかなか帰って来られないので、こうして兄弟集まるのは3年ぶり。
リアムは長期休暇のたび帰ってくるが、この時期の少年は成長が早い。
弟の成長した様子に、思わず微笑んでしまう。
友理奈の世界なら、中学生ぐらい?
今日だって……。
「俺は、反対だからね!」
リアムの大きな声が、ライアンお兄様の部屋に響き渡った。
「……」
私の微笑みが引き攣った。
反対するの?
思春期だから???
「お前が反対してどうなる。これは事後報告だ」
呆れるライアンお兄様に、リアムは叫ぶ。
「姉さんの相手がこんな……」
キッとリアムは私の隣に座るクランド様を睨んだ。
「こんな年の離れたおじさんだなんてっ!」
「……」
え?
お、おじさんですって?!
耳を疑う発言に、言葉を失う私。
あっけにとられる私の横で、ズーンと、クランド様が静かに落ち込んでいくのが目に見えた。
「……」
ああ……、意外にクランド様、お年を気にされてるのよね。
私は小さなため息をついた。
それに、リアム君。
「クランド様はライアンお兄様の同級ですよ。それは言い過ぎでは……?」
「……っ!」
ハッとしたリアムは、恐る恐るライアンお兄様をうかがい見た。
当のライアンお兄様は、目をつぶり、腕を組んだまま黙っている。
その様子がまた、怖いのだ。
リアムの横では、ロキお兄様が久しぶりのおうち時間を堪能しているようで、目の前に広げられた我が家の茶菓子を一人、楽しんでいる。
「……」
相変わらず、ロキお兄様はマイペースなお方だ。
「……で?」
ライアンお兄様の低い声がして、リアムの肩が大きく揺れた。
「お前は、キールの方が良かったとでもいうのか?」
と、鋭い視線がリアムに向けられる。
「……、キール?」
顔を引き攣らせたリアムは考え込む。
リアムとキールは、すれ違うように寄宿学校に進学している。
二人にあまり接点はないが、
「……ああ、あの、嫌な奴」
長期休暇で帰って来るたび、私とキールの仲は目撃しているはずだった。
「ん~……、あいつは論外だね」
「では、マークの妾になれと?」
「っ!」
ギロッとさらに強く睨まれて、リアムは押し黙った。
妾こそ、論外よね。
ピリピリした空気の中で、ライアンお兄様が大きなため息をつく。
ビクつくリアムは、目を泳がせながら黙っていた。
「反対も何も、ユリナは幼い頃にバーナード侯爵の令息と婚約した。お前が反対してもどうにもならん」
「……そうだけど」
と、小さな声でリアムは口をとがらせる。
「クランドかマーク、キールの三人の中からしか選べんが、クランドの人となりは俺が一番良く知っている。もし他の婚約者がいたとしても、クランドは劣りはしない」
「……」
ライアンお兄様の言葉に、クランド様の小さな息が漏れる。
私はチラッとクランド様を盗み見た。
どうやら、落ち込みから浮上してきたようで安心。
おじさんって言われて、相当ショックだったのね……。
「けど……っ!」
しかし、懲りないリアムの言葉は続く。
「20歳の時に10歳の女の子を見初めるものだよ……? 気持ち悪いよ」
納得できないと、リアムはむくれてしまう。
その例えは確かにちょっと引くけど。
「……気持ち悪い、ねえ」
私の横で呟かれた言葉に、悲しみを感じる。
はぅ……また、落ち込んじゃったよっ。
「だいたい、姉さんはこの人のどこが好きなのさ」
ん? 急に何を言い出すかと思えば。
私はリアムを見て答える。
「顔」
「へ?」
即答する私に、リアムは呆然とする。
「キラキラした、この、お顔? が好き」
と、私はリアムに怒りを隠さず、にっこり微笑んであげる。
クランド様をおじさんや気持ち悪いと言った償いを、どうさせようか……っ。
怒りの笑顔におののいているリアムの横で、ロキお兄様が一人吹き出した。
「ああ! そうだね! ユリナって昔から美形に弱かった! うん、俺はいいと思うよ」
部屋中にロキお兄様の笑い声が響く。
「……」
そんなに笑わなくても、と、思いながら私は俯いた。
私の横で、クランド様も笑っているようだ。
「……ご機嫌、戻りました?」
こそっと尋ねる私に、クランド様は頷いた。
「うん、ありがとう」
「……嘘でも冗談でも、ないですからね」
「うん、知ってる」
「……?」
知ってる?
キョトンとする私の思考を遮ったのは、ライアンお兄様のため息だった。
「まあともかく、両親も国王陛下の許可も下りた。これは決定事項だ」
「……じゃあさあ。クランド卿は姉さんのどこが好きなの? いつからそんな感情になったのさ」
リアムは最後の抵抗に出たようだ。
不機嫌にクランド様の気持ちを聞き出そうとしている。
それ、私も聞きたいけど、内緒って……。
「……」
私は隣にいたクランド様を見た。
「内緒にしてたかったのにね」
と、クランド様は私を見て微笑む。
「俺は最初、ユリナをただ可愛い妹みたいに思っていた。弟の婚約者だとの認識もあったしね。でも、いつからかな。皇太子妃候補が決まって、いろいろと周りが騒がしくなってきた頃だったと思うけど、急にユリナが大人のレディになったと感じたことがあってね」
「……」
あ、それって……友理奈の記憶を思い出したせい?
それはそうよね。
十代そこそこの女の子が、いきなりアラサーの記憶を思い出したんだもの。
大人びて見えただろうな。
「そう思ったら、ユリナから目が離せなくなってしまった」
「……」
ジッと見つめられる瞳に、ドキッとする。
「それに、君は俺の顔が一番好みだと言ってたしね」
「えっ!」
驚いて声を上げてしまう。
恥ずかしくなって、自分でも顔が赤くなっていくのがわかった。
「聞いてたんですか?!」
薬で寝てると思っていたのに……?!
クランド様は私の頬にかかる髪を耳にかけながら、にっこり微笑む。
「うん、聞えちゃった」
「……」
うそ……、今更ながら、めちゃくちゃ恥ずかしんですけどっ。
「あー……、もう。わかったよ。俺が悪かったです」
耐え切れなくなって、リアムは降参と言わんばかりに両手を上げる。
そんなリアムの顔も、真っ赤だった。
「だから、そんなに見つめ合ったり、イチャイチャするのは二人だけの時にしてくれる? 見てるこっちが恥ずかしいわ」
と、目をつぶり、ソファーの背もたれに埋もれた。
「……」
イチャイチャって……。
私は無言で俯き、クランド様はそんな私を見てニコニコしていた。




