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異世界転生少女ののんびりスローライフ〜何も起こらなすぎて逆に暇です〜

作者: 魁星

 


 とある辺境の村。この外れにある1つの木でできた小屋に、扉をドンドンと叩く音が響く。


「店主はいるか! 急ぎ頼みたいことがある!!」


 1人の男が、小屋の前で何度も何度も扉を叩きながら声をあげる。加減を知らないのか、段々と蝶番が歪んでいることには気づかない様子だ。


「はぁーい!! 普通に空いてるから入ってください!! 普通に店に入るように入ってください扉が壊れるでしょうが!!」


 小屋の中から、少女のような声が響く。その声色は苛立ちを含んでいる。当然だろう。


「あいわかった! では失礼する!」


 男は扉を叩くのをやめ、ようやく小屋へと入る。よく見れば、扉には『OPEN』と書かれた木の札が、歪んで掛かっている。叩かれすぎて曲がったようだ。


 男が小屋の中に入れば、そこは小さな店舗スペースとなっていた。男の肩くらいまでの棚が2つ並び、棚と両脇の壁に、所狭しと小瓶や小さな雑貨、お菓子の入った小袋などが並んでいる。


 その奥に立てられたカウンターには、1人の少女が店番として立っている。少女はカウンターに頬杖をつき、男をジト目で見つめている。


「私はエルクェイト王国、王都第十二兵団所属、ザントール・レガ──」


「あ、そういうのいいんで」


 少女によって、男の名乗りはキャンセルされる。ザントールと名乗った男は、一瞬不服そうな表情を浮かべると、すぐに取り繕い懐から1枚の羊皮紙を取り出す。


「雑貨屋・エンゼルスレイの店主、ウルリカ・グ──」


「王都から来たってことは、依頼のハイポーション30本ですよね? 用意してあるんで、持って行ってください。代金はもうもらってるんで大丈夫です」


 またもや口上キャンセル。ザントールはやはり不服そうな表情を浮かべるが、話が早いと判断したのか、少女がカウンターの下から取り出した、それなりに大きな麻袋を手に取李、中身を確認する。どうやらしっかりと依頼分のハイポーションが入っていたようだ。


「……感謝する。 して、貴殿の名はなんという?」


 まだ聞いていなかったと思い至ったのか、ザントールは少女に名を問う。少女は一瞬呆れたような表情をみせ、すぐに何か諦めたようにため息をつく。


「……私が、店主のウルリカ・グロールです」


 ザントールは、まさか目の前の、まだ十代前半に見える少女が店主とは思わなかったようで、驚き目を見張る。


「あいや、これは失礼した店主殿! 王都第十二兵団を代表して、協力に感謝する!!」


(私しかいないのに、) (普通気配とかで気づく) (でしょ、王都の兵士) (ならなおさら)…………まぁ、きちんと対価はもらってるんで。これからもよしなに」


 小声でつぶやいたところはどうやらザントールの耳には入らなかったようだ。なんともご都合主義な聴力である。


「ではこれにて失礼する。創世神の加護が在らんことを」


 と言い残し、ザントールは帰って行く。雑貨屋・エンゼルスレイは再びいつもの静寂に包まれる。


「はぁ〜〜…………蝶番直さなきゃ……」


 どっと疲れた様子で、店の裏から工具セットを持ち出し、歪みまくって若干取れ掛かってしまった蝶番の修繕を始めた。


「あんの、クソ堕天使め…………」


 自分をこの世界へ(・・・・・・・・)呼んだ存在へと(・・・・・・・)恨言を吐きながら。



 ◆◇◆◇◆◇



 私、ウルリカ・グロールは、所謂転生者である。


 生前は日本という国で学生をやっていた……らしい。


 というのも、私は前世における自分のパーソナルな記憶がほとんどない。一般常識や、学校で学んだ知識、あとは社会情勢や無駄に仕入れた雑学などは普通に覚えているのだが、自分のこと、例えば家族や友人関係などはほとんど覚えていない。なんとなく、そこそこの高校に通っていて、それなりの成績で、部活とかも含め普通に青春をエンジョイしていたような気がする。まぁ、友人関係は男子校だったので(・・・・・・・・)男ばかりと関わっていたのだが。


 ────そう、私は、所謂TS転生をしたのだ(・・・・・・・・・)



 どれもこれも、全てはあのクソ堕天使のせいだ。



 ◆◇◆◇◆◇



「ごめんなさ〜い、間違って殺しちゃいました☆」


 てへぺろ、とでも効果音が付きそうな超絶軽い調子で、僕に向けてありえない言葉を放つ。


 絶世の美少女というべきな美貌の、十代後半くらいと思しき少女だ。特異な点としては、その背中に6対12枚の、純白の翼が生えていることだろう。触ればとてももふもふしそうだ。


 そんな少女が、こんなことを言い放つ。全く情報を処理できなかった。


「いやぁ〜、本当はあなたの隣に立ってた男……あれ、悪魔が化けてたんですけど、あっちを殺そうとしてたんですよぉ〜。でもあのクソ悪魔が事象干渉して、あなたの方に私の攻撃を逸らしたんですよぉ〜」


 何を言っているのかさっぱり理解できない。僕は確か、いつもと同じように、高校へ向かおうと、家の最寄り駅のホームに立って電車を待っていたはずだ。いや、確かに隣には妙に暗い雰囲気をまとった背の高い男性もいたと思うが……


「それで〜、まぁそりゃ一度放った天撃を止められるわけもなく〜、あなたにクリーンヒットしちゃいました☆」


 軽い。とにかく軽い。一応、段々と情報は噛み砕けてきたが、まだ理解できない……いや、理解したくない(・・・・・・・)


「多分周りからは、不自然にあなたに向かって雷が落ちたように見えたと思いますよ〜。まぁ余波であのクソ悪魔も消し飛ばせたんで、コラテラルダメージですね☆」


「コラテラルで済まされるかぁーーー!!!!」


 つい、叫んでしまった。いや、これは仕方ないと思う。ただでさえ殺されたのに、それが必要経費(コラテラルダメージ)と言われたら、流石に我慢ならない。


「おおうおおう、魂だけになっても元気ですねぇ〜……まぁ、その魂も私の天撃で16分の1くらい消し飛んじゃったんですが」


「は?」


 は?


「ん〜、意識に問題がないとすると〜……あ、記憶野みたいですね〜、消し飛んだの」


 記憶野……あれ、そういえば、自分に関することが全然思い出せない……あれ、僕は…………?




 ん、まいっか。



「え、いやいやいや、嘘ですよね?? 自分の存在がわからないんですよ? 普通『まいっか』で済みませんよね?? 精神化け物ですか???」


「失敬な。聞く限り、もう戻らないんでしょ、記憶。だったら考えたって仕方ないじゃないか。幸いか、学校のこととか、家族や友人がいたっていう記憶はあるし、それだけでも十分だ」


「うーわぁ、この年でそんな割り切れるとか、一体どんな経験を……あっ、えっと…………お、思い出さない方がよかったかも、ですね、これは…………」


 え、なんで僕の人生そんなに憐れまれてるの? 逆に気になってくるんだが……


「いえ、知らない方がいいです。これは、本当に、知らない方が、いい、です…………」


 天使(仮称)が顔を真っ青にしてつぶやく。僕の人生、そんなにも悲惨だったのだろうか……


「ん゛ん゛っ、まぁともかくとして、せめてものお詫びとしてあなたを異世界へ転生させてあげようと思いまして〜」


「テンプレか」


 超常存在に誤って殺されて、異世界転生。いかにもなテンプレだ。


「はい。そのテンプレです。ま〜、お詫びの意味も込めて、所謂チートを授けましょ〜」


 来たか。まぁ、無難なやつにしてゆっくり目立たないように生活すれば──


「では私からのプレゼントとして……『地球におけるあらゆる知識』と『想像したものを完全に再現して現出できる魔法』、および『あらゆる魔法を扱える才能』『無限の魔力量』『超大出力の魔力放出量』、また『不老不死の肉体』『無制限の記憶容量』『異世界におけるあらゆる知識』を与えましょう☆」


「アホかぁーーーーーっ!!!!!」


 チートどころの騒ぎじゃねぇーーーーっ!!!!


「それじゃ、行ってらっしゃーい☆」


「は? ちょまっ、このクソ堕天使があああああああああ!!!!!!」


 そうして、僕は異世界へ落とされた────



 ◆◇◆◇◆◇



 そうして、この世界に降り立った私は、3日間も、落とされた森の中を彷徨い歩き続け、ようやく辿り着いた辺境の村でしばらく過ごし、改めて与えられた力の凄まじさを思い知り、村はずれに雑貨屋を構えることにしたのだ。『ウルリカ・グロール』という名も、この時つけたものだ。『ウルリカ』は女性名の1つ、『グロール』は『恨み』の意味をもつ。あのクソ堕天使への恨みは忘れない……とか言いつつ、今となっては癖のように恨言をつぶやくだけで、実は恨みの感情自体はほぼなくなっている。もう、恨むのもめんどくさくなった。


 ちなみに、この時のコネクションで、今でもちょいちょい王都の知り合いから注文が入る。村に徴税にきた兵士が魔獣に襲われているところを偶然助けて以来、稀に勧誘を受けながらも長く交流している。かれこれ十数年の付き合いだろうか。彼も今は王都の精鋭の一員として数えられるくらいには出世したようだ。


 ついでに言えば、私はアホみたいな性能をした武器とか、馬鹿みたいな効果の薬品を作ったりはしていない。幸いというべきか、『異世界におけるあらゆる知識』を与えられたおかげで、この世界の平均的な性能や効果を知ることができたのだ。私はそれよりちょっと効果を高めにして、ほんの少し安めに売っている。これだけでも、どこかの物好きや、どこかしらから噂を聞きつけた客が時々やってくる。クソ堕天使に与えられたチートで、生活には全く困らないため、雑貨屋もほぼ趣味みたいなものだ。


 たまーに、近くで危険な魔獣が出たとかだと、討伐の依頼も受けたりはするが──


「たっ、大変なんだ!! 村に魔獣が……あっ」


 こんなふうに、依頼が来ることもある。でも、せっかく直した扉をまた壊すのは本当にやめてほしい……



 ◆◇◆◇◆◇



「ありがとうございます魔女様……」


「だから魔女様はやめてくださいって、何度も言ってるでしょう」


 無事に村を襲ってきた魔獣、アースドレイクというティラノサウルスみたいな見た目をした亜竜を倒した。一般的に聖銀(ミスリル)級冒険者──Bランク冒険者が複数人対処に当たるくらいの脅威なので、対処が難しいというわけではないが、吹けば飛ぶような小さい村からしてみれば、十分壊滅の危機だ。


 ちなみに、私はよく、『悠久の魔女』だったり『賢神』『魔神』とかって呼ばれる。所謂二つ名というやつだ。小っ恥ずかしいことこの上ないが、この世界の文化的には、二つ名がつけられるというのは大変な名誉らしい。その二つ名がいくつもついていたら、それはもうすごいことらしい。実感はないが。


「魔女様、これはほんの些細なお礼ですが……」


 と言って村の長老が差し出してくるのは、おそらく村中からかき集めたのだろう有り金全てだった。


「いえ、それは受け取れません。報酬はあとで国からせしめ……受け取るんで、それはあなた方で使ってください」


「ですが、それではわしらの気が済まないのです」


 うーん、まぁ、あまり言い方はよくないが、この村を結構な回数助けてきた自覚はある。でも、この金は彼らが冬支度をするのに必要だろう。さて、どうするか……


「……あ、そうだ。あのアースドレイクの肉を使って、宴を開きましょう。それで、みんなで飲んで騒いで、楽しみましょう」


「……よろしいのですか? それでは、わしらまで……」


「いいんですよ。最近あまり人と話して、いなかった、ので……」


 自分で言ってて悲しくなってくる。どうせ私はぼっちですよーだ…………


「で、では、急いで酒宴の準備をいたしましょう!」



 そうして、今日は一晩中、飲みまくり騒ぎまくりで、とにかく楽しみ尽くした。



 ◆◇◆◇◆◇



「……暇だな」


 いつもの日常。やることがなさすぎて暇になる。


 こういう時は、魔法でプラモとかを造り出して組み立てたり、魔法で食材を出して料理をしたり、以前造り出したオーディオ機器で音楽を流したりするのだが、どれもこれも一通り済ませてしまっている。ソリティアとかをやっていても虚しくなるだけだし、パソコンを造ったところで通信できないし、ポータブルゲーム機とかを造ってゲームを遊ぼうにも、この数百年で大抵の大型タイトルは遊び尽くして完クリしている。


 なまじ、最近に楽しいことがあったりすると、余計に暇が身にしみてくる。不老不死を終わらせる方法はないわけではないが、わざわざ自殺するほど思い詰めてるわけでもない。


 かといって、自分から俗世に関わっていく気もない。それほどの気力もないし、何より人に話しかける勇気がない。なんてったって、前世からの筋金入りなコミュ障だからね。


「……リアルにモビ◯スーツとか造ってみようかなぁ」



 ◆◇◆◇◆◇



『暇を持て余した神々の遊び』なんて言葉があるけど、超常的な技能をもった暇人が本気を出すと、大変なことになるんだなって、今身をもって感じている。


 ……私の目の前には、1機のモビ◯スーツ……原点であり頂点であるあの機体が完全再現されて佇んでいる。


 地下に専用ドックを制作し、そこで本気を出して機体を造った。結果、絶対に世に出してはいけない兵器ができてしまった。


「…………壊すか」


 次の瞬間には、危険すぎる兵器は跡形もなく消え去っていた。



 ◆◇◆◇◆◇



「……暇だなぁ」


 結局、また暇になる。


「……エ◯ァでも造るか」



 ◆◇◆◇◆◇



 以下略。



 ◆◇◆◇◆◇



「…………暇だなぁ」


 やっぱり、アニメの兵器系はどうしてもオーバーテクノロジーになってしまう。でもやっぱり、男のロマンは捨てきれない。今は女だけど。


「……数学でも極めてみようかな」



 ◆◇◆◇◆◇



 1時間後


「………………」


 私は屍になっていた。


 知識を与えられたところで理解していなければ何にもならない。


 つまり、何にも分からなくて詰んだ。


 数学は、諦めた。



 ◆◇◆◇◆◇



「…………暇、だなぁ」


 極めるものも何もない。この地を離れるつもりもない。


 けどまぁ、なんだかんだで今の生活が気に入っていたりはする。


 暇だけど、穏やかな時間を過ごすのは、結構自分の性に合っているようだ。


 コンコン、とノック音が響く。


「すみませーん、噂を聞いて来たんですけど、やってますかー?」


 どうやら、また新しい客がやってきたみたいだ。


「いらっしゃいませー、雑貨屋・エンゼルスレイへようこそ」


 今日も、私は変わらない日常を歩んでいく。




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