超ポジティブ令嬢はへこたれない
ポジティブに超を付けてみたかった。
※令嬢視点ではなく、令嬢の父視点です。
公爵家令嬢マリアンヌは周囲への過酷ないじめで評判だった。
泳げない者は容赦なく池へと突き落とし。
おとなしい令嬢の机には蛙や蛇などを仕込み。
騎士志望者は男女問わずに魔物の群れへと放り込む。
彼女の家は筆頭公爵家。
それも、他国との交易の要であり、また関係の良くない他国との緩衝地域でもある。
そのため、公爵家当主の発言に対しては王でさえ頭ごなしの拒否はできない。
しかしその地位も、マリアンヌの言動によりかなり揺らいでいた。
そして本日、マリアンヌの被害者の親達連盟での公開裁判が開かれることとなった。
一体どうしてこのような状況になってしまったのだろうか。
何かトラブルを起こしたという話が耳に入る度、娘のマリアンヌには度々注意をしてきた。
そのたびに娘は「人に迷惑を掛ける行いは行わない!」と言い、嘘発見の魔術も反応を示さなかった。
娘に危険が及ばないよう、娘がやらかさないよう、見張りのメイドを常に付けていた。
しかし何の対策にもならなかったようだ。
今回、マリアンヌの所業についてついに王家が動くこととなり、さらには被害者の多さから公開裁判となってしまった。
もはや、爵位を返上し、これまでに得た財を放出することで何とか命を嘆願することくらいしか出来ないのだろうか。
「皆の者、静粛に!静粛に!!!」
カンカンカン
裁判長が入廷して鐘を鳴らすと、それまで騒音のように騒がしかった広場が一気に静まりかえった。
そして裁判長はゆっくりと広場全体を見渡し、最後にマリアンヌを見つめ、
「それではこれより裁判を開始する」
公開裁判が開始された。
「まずは被告人、ヒイロ公爵家令嬢マリアンヌに尋ねる。そなたは二ヶ月前にヨスガ男爵家令息ヨルルを池に突き落としたことに間違いは無いな?」
「はい!」
裁判長の質問に対し、間髪入れずにいつも通り元気よく返事をするマリアンヌ。
当然、周囲はざわつき出す。
反対に私の顔色は少し悪くなる。
「次に、一ヶ月半前にネルル子爵家令嬢コネルの机に毒ガエルを仕込んだな?」
「はい!」
またもや元気よく返事をするマリアンヌ。
周囲のざわつきは更に大きくなる。
私の顔色も更に悪くなる。
「そして一ヶ月前、コネネ伯爵家令嬢コネコを階段の踊り場から突き落としたな?」
「はい!」
当然のように元気よく返事をするマリアンヌ。
周囲のざわつきには悲鳴が混じり始めた。
私の顔色だけで無く胃も悲鳴を上げ始めた。
「それから三日前、タヌル辺境伯家令息トンヌをウルフの群れに突き出したな?」
「はい!」
今までで一番良い笑顔で返事をするマリアンヌ。
周囲のざわつきは最高潮となり、甲高い悲鳴も所々で上がっていた。
私の顔色は最高に真っ青となり、胃だけでなく頭でもこれ以上無いほど悲鳴を上げていた。
「静粛に!静粛に!!!」
カンカンカン
周囲を落ち着かせるために、声を上げて鐘をたたく裁判長。
これにより多少の落ち着きを見せる人もいたが、多くはまだざわついていた。
私の顔色と胃と頭は何も変わらずに悲鳴を上げ続けていた。
一体どうして、このようなことに・・・
何度自問しても答えは出ない。
執事に相談しても「問題ないかと」としか言わないし。
監視役のメイドに相談しても「問題ありません」としか言わないし。
本当にどうしてこのようなことになったのだろう。
この世界に『転生』してから早三十数年。
時には度を超さない程度に知識チートで金儲けをし。
時には武力チートで魔王に挑むも半死半生で故郷へ戻り。
なんだかんだで没落寸前の公爵家を筆頭格まで立て直した。
しかし、どうやら私の娘は私以上にやんちゃだったようだ。
ここまで元気よく認めてしまってはお家降格は確実、最悪取り潰しも。
あとはマリアンヌの自由を何処まで守れるか、だな・・・
そして裁判長による確認は続き、それに対して元気いっぱいに肯定をするマリアンヌ。
そしてついに判決、というよりは公爵家に対するペナルティ、を言い渡す段になり、予定とは違い裁判長はマリアンヌに対して問いかけをしてきた。
「しかし、マリアンヌ嬢。そなたの発言には嘘は無かった。であれば本来、相当の悪意が含まれていなければならない。しかし、この真実の宝玉はそなたの発言が真であることと同時に、誠意もある、と示している。何か心当たりはないか?」
裁判長のその発言に、多くの人は激怒した。
これだけのことをして、何一つ悪いと思っていなかったのか、と。
しかし、一部の人、特に真実の宝玉の効果を知っている者は逆に顔を青ざめた。
宝玉が示す誠意・悪意とは、単に本人がそう思っている・思っていないにとどまらないことを知っているからだ。
そして本日一番の喧噪の中、マリアンヌは相変わらず元気よく答えた。
そして皆は理解した。
これまでの出来事など、単なる前座でしか無かったということを。
「はい!お池のことは、親友のヒデューちゃんに教えて貰いました!貴族たる者時間通りに動くのが当たり前!濁流程度に阻まれることなどあり得ない!故に貴族は濁流の中でも優雅に泳げなければいけないと!」
「「「「「!!!!!」」」」」
一体この子は何を言っているの???
マリアンヌを除く皆がそう思った。
いや、違った。
マリアンヌの側に居たメイドだけは何の反応もしていない。
「そして私はヒデューちゃん監督の下、濁流の中で泳ぐ練習を何度もしました!おかげで今では大木や大岩が流れてきても問題なく泳げるようになりました!でも、やはり慣れていない子には濁流は心臓に悪いのでは、とも思いました。そこでまずは池から!と思い、泳ぎが苦手なヨルルくんを池に入れて泳ぎの練習をしてもらったのです!」
「「「「「・・・・・」」」」」
誰も言葉を出せなかった。
ヒデューちゃんとは、ラウム侯爵家の令嬢のことだろうか?
あそことは商売でやりあったなぁ、懐かしい。
「それから、マニーちゃんからは、貴族たる者ちょっとやそっとの事で動じてはいけない!と教えて貰いました!例え机の中から猛毒蛇が現れたり、大事なドレスがビリビリに破られていようとも、動じてはいけないと!」
「え、ちょっとマニー・・・???」
あ、マニーちゃんとはフーム伯爵家の令嬢だったのか。
フーム伯爵の顔色が凄く悪い。
フーム伯爵は魔物討伐に力を入れていて、よく凶暴な獲物を取り合ったなぁ。
「そしてわたしはマニーちゃん監督の下、様々な不意打ちを何度も経験しました!でも私はどうしても反応してしまったので、発想を変えて常時私の周囲1kmを魔法で完全に把握することにより、不意打ち対策を行えるようになりました!でも、最初から大切なドレスが破られたり猛毒蛇が出てくるのはショックが強すぎると思い、臆病なコネルちゃんは、触ったらちょっとピリッとするだけの蛙から始めることにしようと思いました!」
え、今マリアンヌちゃん、さらっととんでもないこと言わなかった???
私でも一時的に周囲百mくらいが限界だよ???
「そしてダビバ君からは、貴族たる者様々な場所に行くことになり、時には高い所もある。たかが高い所から落ちた程度で周囲を騒がせては貴族失格!と教えて貰いました!」
そして周囲のざわつきは完全に無くなり、今や広場はマリアンヌの独演会となりつつあった。
ダビバ君はローニ公爵家令息だったかな。
武器開発が盛んな家だったが、私の知識チートの方が上だったために悲しいことに・・・
いや、ちゃんとフォローはしたよ?
「そしてわたしはダビバ君監督の下、時計塔の窓から落ちる訓練をしました!最初は着地に失敗して地面にめり込んでしまったけれど、今では魔法で重力を操作することにより何事も無かったかのように元の窓へと戻れるようになりました!でもやはり最初から時計塔だと怖い、と思って高所恐怖症のコネコちゃんは階段の踊り場から始めることにしました!」
「「「「「時計塔の窓!?!?」」」」」
あそこって確か高さが地上250mを越えて・・・
いやちょっとまて、今さらりと重力魔法とか言わなかったか?
現在は使い手がいなくなった伝説の魔法だぞ!
魔法チートな私でも習得できなかった魔法だぞ!?
「そしてオーパ君からは、貴族たる者たかが魔物ごときに後れを取ることはあり得ない!と教えて貰いました!」
ああ、これはもうオチが読めた。
魔物の群れに放り込まれたというのだろう。
そういえば確か、オーバ君はオルル公爵家令息だったな。
魔王討伐戦線ではオルル公爵と私が競い、彼は結局魔王城へはたどり着けなかった・・・
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・まてよ?
これは私たちへの嫌がらs
「そこでわたしはオーバ君監督の下、お城の地下にあるダンジョンに一人で潜る訓練をしました!そして昨日、ついに踏破できるようになりました!でもあのダンジョンは数が多すぎたので、騎士志望のトンヌ君はまずは周辺で最も弱いウルフ数匹から始めようと思いました!」
「「「「「・・・・・」」」」」
あー。
うーん。
他の貴族からの嫌がらせとかどうでも良くなったよ?
あのダンジョン、私のフルメンバーでもまだ踏破していないんだけど???
と言うか言い伝えだと、最奥に居るのは世界を滅ぼそうとして封印された邪神なんだけど!?!?
女神様言ってたよ、チート満載の私が最高のメンバーと共に最高まで鍛えたら倒せるだろう、って。
ちなみに他の人たちは、騎士団選抜組ですら10階層にたどり着けていないからね???
「わたしは沢山の友人達から、貴族がどういう者なのか教えて貰いました!だからわたしも、他の友人達に教えなければと思いました!」
広場に居た人間は、マリアンヌとお付きのメイドを除き、完全に顔を青ざめ、言葉を失っていた。
そうしてどのくらい時間が経ったのであろう。
「証拠は・・・、それを示す、証拠は、あるのかね・・・?」
裁判長は、裁判長としての矜持からか、何とか再起動した。
しかし、普通は証拠とか出せないだろう。
普通なら。
しかし、マリアンヌには常にメイドを付けていた。
そう。
『撮影と護衛』に特化したメイドを。
「証拠はこの魔映器に録画されております」
お付きのメイドが動き出した。
次々と問題の瞬間を映し出す魔映器。
そのたびに周囲はざわつき、時折悲鳴が混じる。
そして全ての証拠場面を映し終え、メイドは再びマリアンヌの側へと戻った。
私はメイドへとアイコンタクトを送る。
「なぜ、私に報告しなかったのだ?」
メイドは私へとアイコンタクトを送る。
「問題があれば報告しなさい、でしたので問題なしと判断した為に報告いたしませんでした」
私は険しい顔をしながらメイドへとアイコンタクトを送る。
「どう見ても問題しか無いだろう???」
メイドはあきれ顔をしながら私へとアイコンタクトを送る。
「一連の事件において、お嬢様は何一つけがを負わず、トラウマにもならず、むしろ成長の糧とされました。問題あり、とは判断できませんでした」
私は天を仰いだ。
うん。
我が娘には健やかに育って欲しいと願っていたが、育ちすぎだろ、と思いながら。
こうして公開裁判は終わった。
いくつかの家が取り潰しとなったが、我が家はお咎めなしとなった。
途中で国王の浮気が発覚し、王妃が女王に即位しそうだが我が家には関係の無いことだった。
いや、マリアンヌが原因だから関係ないことは無かった。
まさか王城内の秘密の部屋まで把握できるとは・・・でもうっかり喋ってはいけないよ?
そして私は父として、もう少し娘とのコミュニケーションを増やそうと心に誓ったのであった。
ただ、娘よ。
どんなにせがんでも、二人きりであのダンジョンには潜らないからな?
裏設定。
妻は魔王様です。
魔王討伐に行くも一目惚れ。何度もボコられながらアタックしてゴールイン。こっそり結婚。
結果として魔王国と和睦できたので、その功績で筆頭格へ!
生まれた娘は父と母のチートのかけ算だった!!!
メイドはお手洗い室以外いつでも陰から見守っています、録画機と共に。
助けようと動く前にマリアンヌが解決してしまったので、文字通り撮影しか出来なかったのです。
※2021/11/24、私の作品で初めて日間50位以内にランクインしました。皆様にお読み頂き幸いですm(_ _)m
※2022/2/28、異世界文芸日間10位、週間35位にランクインしていました・・・(゜Д゜)
多くの方にお読み頂けた上、過分な評価いただきありがとうございますm(_ _)m
※2022/3/1 異世界文芸日間2位、週間16位・・・多くの応援を頂きまして、ありがとうございますm(_ _)m
※2022/3/30 ジャンル別月間8位・・・多大なご評価を頂き、ありがとうございますm(_ _)m




