8. バーバラの思い込み
これは、バーバラが学園に入学する前に、なぜ王子殿下に見初められると思い込んでしまったのかのお話です
私、バーバラ・ノーフェスは、アルスメリア王国の北の端、ノーフェス領のノースウェークと言う街で生まれ育った。
もう少し北に行けば、頂上に万年雪を頂く山脈が連なり、夏は涼しく冬は雪に閉ざされるような土地柄だ。
ノーフェス領は広大な土地を有し、酪農や農業が主な産業だが、夏場は避暑地として、王都の貴族がやって来たりする。
別荘を持っている貴族も多いので、その管理を請け負ったりもしている。
その中には王家の別荘もあり、国王御一家が訪れる事もあった。
もちろん王家の別荘も、我が家で管理していた。
私と弟は、管理責任者としてご挨拶に上がった祖父母や両親と共に、国王御一家にご挨拶する機会を頂くことが出来たのだった。
「よくおいで下さいました。国王陛下、王妃殿下、王子殿下。
何か御座いましたら、何なりとお申し付けください」
そう、祖父がご挨拶すると、
「ああ、ありがとう。とても良く管理されているな。
しばらく滞在する予定なので、よろしく頼むよ」
そう陛下に声をかけて頂き、私達一家は深く腰を折り
「ありがたきお言葉を頂き、この上なく喜ばしい限りで御座います」
お祖父様がそう言うと陛下は、
「顔を上げなさい。
今回は、私達王家の者しか滞在しないので、それほど大掛かりなものは必要ない。今回は舞踏会も開かないから、そのつもりでいてくれ」
陛下にそう言われた祖父は
「かしこまりました。仰せのままに」
そう言って胸に手を当て礼をする。
私は、そんな祖父の後ろで、王子殿下の美しさに見惚れていたのだった。
(なんて美しい少年なのかしら……。あんな美しい少年は見たことないわ。もっとお近づきになりたい)
私はそう思っていたが、それ以来、お会いすることは出来なかった。
「お祖父様、王子殿下って、とってもお美しい素敵な人なのね。私も王都に行けば、王子殿下と親しくなれるかしら?」
「ああ、そうだな。バーバラはとても美しいからな。王子殿下もお前を見れば、すぐに求婚したくなるさ」
そう、私の頭を撫でながら、お祖父様が言う。
「本当に? 私、成人したら王都の学園に行くのですよね? その時に王子殿下に会えれば、私、王子殿下と結婚出来るのね」
「ああ、バーバラはどんな女の子より可愛いからな。絶対バーバラの事を好きになるさ」
私はそうお祖父様に言われ、有頂天になったのだった。
私は祖父母や両親に、そんな風に、美しい、可愛いと言って育てられたので、私より美しい女の子など、この世にいないと思っていた。
確かに私は、自分で言うのも何だが、とても美しいと思う。
銀の髪にアイスブルーの瞳、肌は透けるように白く、細い腰が胸を強調させている。
ただ細いだけではなく、普段は乗馬をするので、それなりに筋肉も付いている。
我が家は領地が広いので、馬での移動が常なのだ。
そして、野生動物に出くわしたりすることもあるので、その対処法として、剣の使い方も教わっていた。
流石に大型動物は一人では倒せないが、それなりに剣は使えるのだった。
また貴族の別荘が多くあるので、盗賊に狙われたりする事もあり、領民達も、みな剣の扱いには長けていた。もちろん女子供もである。
庶民が行く我が領の学校では、剣術の授業があるくらいだ。
もちろん警備隊も常駐しているが、面積に対しては少ないだろう。
広い領地の管理は、分割して親族にも手伝ってもらっている。
私が年頃になると、領地の管理を手伝ってもらっている、叔父の息子である従兄弟から、求婚されたりもしたが、私は王都に行って王子殿下と結婚するからと言って断ると、
「は? 何を言っているんだ? 王子殿下は公爵家のご令嬢と婚約されたよ。知らないのか? こんな田舎の伯爵令嬢など相手にされるものか」
彼にそう言われたが、
「あら、それは王子殿下がまだ私と出会っていないからよ。私に会えば私を好きになるに決まっているじゃない」
私がそう言うと、
「王都に行けば、お前程度の女なんか、掃いて捨てるほどいるんだ。お前など、王子殿下の目に留まるわけがないだろう。身の程を知れ」
そう捨て台詞を残して彼は去って行った。
(全く何を言っているのかしら? お祖父様があれほど私を美しいと言って下さっていたのだから、私より美しい人など、そうそう居るはずがないじゃない)
「ねぇ、お祖父様……」
私は天を仰いでそう呟くのだった。
私の大好きだったお祖父様は、去年亡くなった。その前の年にお祖母様が亡くなって、まるでその後を追うようにして。
お祖父様は私の憧れ、理想の男性だった。
お祖母様のことを、それはそれは大切になさって、いつも、何処に行くのも一緒だった。
天真爛漫なお祖母様を、いつも優しい瞳で見つめていた。
私のことは、お祖母様にそっくりで、世界一美しいと言っていた。
私は、お祖父様みたいな人と結婚すると、昔は言っていたが、王子殿下に出会ってからは、王子殿下と結婚する事を夢見ていた。
そんな私を両親は、
「バーバラが美しいのはわかっていますが、王子殿下にはすでに婚約者がいるのですから諦めなさい」
「王都の学園に行って、王子殿下やその婚約者に失礼な事をしてはいけないよ。不敬罪に問われたら牢屋に入れられてしまうからね」
そんな風に両親には諭されていたが、
(王子殿下だって、私を見れば私の方がいいと思うに決まっているわ。
お祖父様、私、必ず王子殿下と結婚してみせますわ)
そう心に誓い、王都の学園に向かう準備を進めるのだった。
お読みいただきありがとうございます。
おじいちゃんは、バーバラが可愛くて仕方なかったのですね。そしてある意味、バーバラはとても素直だったと言う事です。まあ、思い込みも激しかったわけですけどね。