11.オスカーとバーバラ
明けまして、おめでとうございます。
昨年中は本編、番外編、小話をお読み頂き、ありがとうございました。
今年初の投稿です。皆様に楽しんで頂けたなら嬉しいです。
今年も頑張りたいと思いますので、どうぞ宜しくお願い致します。
今回の小話は、オスカーが自覚なくバーバラを気に入っているというお話です。
オスカーはある土曜日に、ウィンスター邸にシルフィとバーバラの剣の試合を見に行った。
シルフィの剣技は何度か目にしたが、バーバラが剣を使えるとは知らなかった。
どんなものかと思っていたが、やはりシルフィの圧勝だ。
シルフィは俺から見ても筋がいいと思う。
そんな風に呑気に観ていたら、試合の終わったバーバラが俺の前にやって来て、剣を教えて欲しいと言う。最初は断ったが、あまりの熱心さに根負けして、毎週土曜日に指導する事になった。
(取り敢えず、来月の試合までの3回を見てやれば気が済むだろう)
俺はそんな風に簡単に考えていたのだった。
* * *
「おはようございます。今日はよろしくお願い致します」
そう挨拶をするのはバーバラとリリアだ。
リリアはバーバラの付き添いで一緒に来たのだが、何故かカールとルーク、レイとエミリー、エディとシルフィまで来ているではないか。
冷やかしに来たのなら、とっとと帰ってもらいたいが、まあ、居るからには練習相手になってもらおう。
そう思い、指導を始めるが、基礎は出来ているようなので、実践形式で鍛練する。
今までは伯爵令嬢という事で、あまり激しい鍛練はしていなかったようで、基礎体力と持久力が足りない。
俺は、やるからにはビシバシやるタイプだ。
これが厳し過ぎると思うなら、もう来週からは来なくなるだろう。
なんだかんだ言っても、大事に育てられた貴族のご令嬢だ。
すぐに根を上げるだろうと、俺は高を括っていたのだった。
「では、今日はこれまで!」
そう言って、俺は今日の鍛練を終えた。
バーバラは床に座り込んで、立てずにいるので、相当堪えているのだろう。
「あ、ありがとうございました」
バーバラは座ったままではあるが、ハァハァ言いながらもきちんと挨拶をする。
「俺の指導は厳しいだろう? もうやめたらどうだ?」
俺がそう言うと、
「こ、こんな事ではシルフィアナさんに勝てませんわ。まだまだ諦めませんわよ!」
そうバーバラが言うから、
(へぇ、思ったより根性あるじゃないか。だがこの厳しい鍛練に耐えられるかな?)
と、俺は密かに思ったのであった。
まだ座り込んでいるバーバラを、このまま放っておく訳にもいかないので、
「大丈夫か? 立てるか?」
そう言って、バーバラの腕を掴んで立たせようとしたが、
「す、すみません。まだ、立てそうにないので、暫くこのままでお願いします」
そう言うが、この鍛練場に置いていく訳にもいかないだろう。
「動けないなら、応接室で休んでいくといい」
そう言ってバーバラを抱き上げると、
「きゃっ。な、何をするんですか! 下ろしてください」
バーバラはそう言うが、
「立てもしないのに何を言っている。大人しくしていろ」
俺は溜め息をついて、そう言ったのだった。
応接室には皆も一緒に来たので、
「今、お茶の用意をさせるから、ゆっくりして行くといい」
そう言って、一度部屋を出て、メイドにお茶の用意を頼み、応接室に戻ると、何故か皆一斉にこちらを見る。
「な、何だ? 何かあったか?」
俺がそう言うと、
「いや、女性に無関心なお前にしては、珍しいなと思ったのだ」
とエディが言う。
「それは、あまり関わりの無い女性なら無関心でいるが、バーバラはエミリーやシルフィの友人だ。知らん顔も出来ないだろう」
そうは言ったが、バーバラはこの厳しさに嫌気がさして、もう来週からは来ないだろうと思っていたのだった。
* * *
もう来ないであろうと思っていたバーバラは、次の週もやって来た。
「今日もよろしくお願いします」
そう挨拶をする。
「先週はへばっていたので、もう来ないだろうと思っていたが、なかなか根性はありそうだな」
俺がそう言うと、
「シルフィアナさんだってやっているのですから、私に出来ない事はありませんわ。ほーっほっほ」
と、バーバラは高笑いをする。
まあ、いつまで続くものかと思うが、厳しい鍛練に負けずに来たのだ。今日もビシバシ鍛えてやろう。俺はそう思うのだった。
たが厳しい鍛練にも音を上げずに、バーバラは毎週やってきた。
俺もバーバラの事を、「なかなかやるな」と、ちょっと見直していた頃だった。
その日は、バーバラの動きがいつもより緩慢に見えた。
そろそろ嫌気がさして来たかと思っていたが、俺の剣を受けたバーバラの体が傾いだと思ったら、そのまま倒れたのだ。
驚いて駆け寄ると、バーバラは意識を失っているので抱き起こす。
「バーバラ! 大丈夫か? バーバラ!」
バーバラの名を呼ぶが反応が無い。
俺は何故か、このまま目が覚めなかったらどうしようと、思わず取り乱してしまい、バーバラを抱き上げ急いで客室に運ぶのだった。
バーバラに触れた体温が随分高く感じた。
額に手を当ててみると熱があるようだ。それもかなり熱い。
俺は急いで医者を呼んだのだった。
一緒に来ていたリリアに、
「バーバラは朝から熱があったのか?」
そう聞いてみたが、
「少し食欲が無いようでしたが、あまり普段と変わりありませんでしたので、私も気づかずにいました」
そう心配そうにリリアが言う。
一緒に鍛練に来ていたカールとルークも心配そうにしている。
医師に見てもらうと、ただの風邪のようで一安心だ。
まだ熱があるようなので、今日と明日は、このまま此処で療養するように手配し、リリアにも一緒に居てもらう事にする。
眠るバーバラの頬に手を当て、ちゃんと目覚めてくれよと、心の中で祈るのだった。
リリアの部屋も隣に用意したが、リリアはずっとバーバラの側に付いていた。
俺は、何故か気になって、何度もバーバラの様子を見に来てしまう。
次の日、目覚めたバーバラには、しっかりと叱っておいた。
「体調が悪い時はキチンと休むように。何かあってからでは遅いんだからな」
そう言って厳しい顔をしたが、
「すみません……」
とシュンとなってしまったバーバラが、何だか可哀想になってしまい、思わず頭を撫でてしまったのだった。
次の土曜日は、バーバラから鍛練をお休みすると連絡があった。
久しぶりにゆっくりと過ごせると思っていたが、何だか落ち着かない気分になってしまう。
ひょっとして、バーバラはまだ体調が悪いのだろうか。
生徒会で会ったリリアは何も言っていなかったが、高熱を出した後だ、まだ本調子には戻っていないのかも知れない。
俺も気が付かずにビシバシ指導してしまったからな。
部屋の中をウロウロしながら、
(これはやはりお見舞いに行くべきだろう)
そう考えて部屋を出ようとしたら、メイドが俺を呼びに来た。
「奥様がお茶会に出席するようにとの事です」
そう告げられ、思わず舌打ちしてしまうのだった。
仕方なくお茶会が開かれているサロンに向かうが、少し顔を出したらすぐに退席してお見舞いに行こうと、そう思っていたが、サロンにいる客人に驚く事になるのだった。
「バーバラ……。体調が悪いのではなかったのか?」
「ごきげんよう、オスカー様。私、体調が悪いなんて言いましたか?」
そう返されて、確かに理由は言ってなかったと思い出す。
「いや、体調が悪くないならそれに越した事はない」
そう言って、空いているバーバラの隣の席に座る。
今回のお茶会のメンバーは、母上にエミリーにレイ、カールとルークとリリアとバーバラだ。
何故母上が、リリアとバーバラを呼んだのかはよくわからない。
だが、元気そうなバーバラの顔を見て、俺は何故かとてもホッとしたのだった。
次の週はまたいつものように、バーバラが鍛練にやって来た。
(よし、今日もビシバシやるぞ)
そう思う心は晴れやかだ。
そんな風にバーバラが毎週やって来る事を、実は結構楽しみにしているのを、オスカー自身はまだ気付いていないのだった。
お読みいただきありがとうございました。