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姉の為に。  作者: たかだひろき
第八章 【天の塔】編
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第四話 【暫時の和解】




「いつでも構わんよ」


 老人は穏やかな雰囲気と、その雰囲気とは似ても似つかない明確な戦闘態勢を崩さないまま言った。

 これから戦おうとしているとは全く思えないが、老人が本気を出せばこんなものではないのは先の圧倒的なプレッシャーを受けたから知っている。

 油断をすれば間違いなく瞬殺され、例え初っ端から全力でかかっても拮抗できればいい方だ。

 個々で比較すれば隔絶した実力差は、どう足掻いても埋められない。

 そこの差を、俺と結愛の連携でどこまで埋められるか。

 それだけがこの戦いの勝敗を分ける唯一の要因だ。


「葵くん……」


 結愛が俺を握る手を少しだけ強めながら見上げて呟いた。

 不安を隠そうとしているのだろうが、俺を見据える瞳には微かにそれが宿っているし、握る手も本当に僅かにだが震えている。

 射殺すような気配とは違う、されど圧だけで殺そうとするかのようなプレッシャーを体感させられれば否が応でも不安や緊張はするだろう。

 正直に言えば、俺だって怖さはある。

 あんな、文字通り人外の放つプレッシャーを受けてヘラヘラしていられるほどの胆力もなければ実力もない。

 でも、と俺は結愛の手を優しく強く握り直して頷く。


「結愛のカバーは俺がする。覚えてないだろうけど、今までずっとそうやってきたんだ。だから、大丈夫」


 俺のことを忘れてしまった結愛は、十中八九覚えていないだろう。

 けれど間違いなく、俺たちはそうやってきた。

 例えそれが現実などではなく、ゲームの中でだけの関係だったとしても。

 脳ではなく、身体が覚えているはずだから。


「――わかった。信じるよ?」

「おう! 任せとけ!」


 しっかりと俺の機械の右手を握ってきた感触を確かめつつ、ここまで待ってくれていた老人へと向き直る。

 俺たちが覚悟を決め、戦闘へと意識をシフトさせたことを理解した老人は、構えを解かないまま俺たちの動きを待つ。

 言った通り、本当にいつでも構わないのだろう。

 ならば、俺たちが主導権を握ってこの戦いを支配する。


「――」


 真正面に立つ俺たちに半身の状態で構えたままの老人の背後へ転移し、結愛が握る『無銘』を背中へと叩き込む。

 しかし、瞬く間に振り向いた老人の手によって『無銘』は軌道をずらされ、勢い余った『無銘』は老人ではなく地面に深々と傷跡を残した。

 『無銘』による攻撃を無力化され一瞬の隙を見せた刹那に、老人は結愛へと右の拳を叩き込む。

 当たればどこであろうと致命傷になりかねないそれを、結愛は持ち前の反応速度で以って躱す。

 頬を掠ったがダメージは皆無で反撃を凌ぐことに成功したが、慌てて躱したことで体勢が悪くなる。

 その隙をカバーする形で、結愛の背後から俺が打撃を叩き込む。

 “鬼闘法”、“身体強化”込みの左足で、頭、脇腹、太ももを狙って繰り出した打撃は、老人の左手でいとも容易く防がれた。

 次ぐ反撃を転移で躱し、再び睨み合う形へと戻る。


「どう?」

「反応はできるけれど、あの練度の攻防を崩すのは難しいかな」

「まぁ……だよなぁ」


 竜人としての肉体スペックもさることながら、武術の練度が桁違いに高い。

 『無銘』の軌道を拳でずらすのは割と難しい。

 その難しいはずの一手を最初の判断で選び、容易く成し遂げるという事実こそが、老人の技術の高さを示している。

 俺も結愛も、地球にいた頃に武術を習ってはいたが、この世界のように殺し合いという実戦で鍛えられたわけでもない技術では足元にも及ばない。

 まして相手は人間よりも遥かに長い時を生きる竜人だ。


「……よし。結愛はとりあえず、剣速をもっと引き上げることだけを意識して。防御も回避も、俺が全部カバーするから」

「私が攻撃、葵くんが防御ってことね?」


 結愛の確認に頷いて、俺は竜人へと向き直る。

 俺たちの作戦会議を待ってくれているのか、一見油断しかないように見える、しかし隙の無い立ち姿で待ってくれている。


「悪いな。待たせた」

「構わんよ。主らの実力を発揮させるのも今のワシの役目じゃからの」

「んじゃ、俺と結愛でこれからもっと面白いもん見せてやるよ」

「それは楽しみじゃな」


 そう言って、老人は流れるように構えを取る。

 結愛の手を握り、再び転移で老人の背後に回る。

 しかし今度は、二人同時にではなく結愛だけを老人の背後へと飛ばした。

 俺の意図を理解したらしい結愛は迷う素振りなく、老人を頭から両断せんと『無銘』を振り下ろした。

 一度目のリプレイを見せつけられるように、再び『無銘』がいなされ地面に痕を残した。


 が、リプレイはここまで。

 結愛を転移させたのとほぼ同時、老人を挟んで結愛の対角に飛んだ俺は結愛への追撃を攻撃と言う手段で防ぐ。

 『無銘』はなく、竜人の硬い外皮を突破する手段はない。

 だからか、老人は俺の攻撃の防御よりも結愛への追撃を優先した。

 けれど、老人にダメージを与える手段が外皮の突破を前提としているなんて、いったい誰が決めたのか。


「――爆拳」


 技のイメージを脳内で構築し、言葉にすることでよりイメージを鮮明化。

 拳を引き、胴を捩じり、腹と尻に力を入れて両足を踏ん張って。

 “鬼闘法”と“身体強化”で引き上げた身体能力の全てに回転の威力を上乗せし、放つ。

 拳に伝わる鉄の板でも殴ったのかと錯覚する硬さと痛みを拳で味わいつつ、イメージを解き放つ。

 刹那、衝撃が拳から老人の肉体へと伝わったのを、放った拳が感じ取る。

 そして、確実なダメージとなったのは、結愛への追撃が中断されたことで証明された。

 血反吐こそ吐かなかったが、口からは空気が漏れ、僅かによろけて隙ができる。


「セェエエエァアアアッ!」


 俺の言葉を信じ、一切の防御を捨てて攻撃へと転じていた結愛は、咆哮を上げて『無銘』を斬り上げた。

 俺が想定していたよりもいいダメージが入ったのだろう。

 体勢を崩し、斬り上げられる『無銘』を認識しているはずの老人は、鈍い反応で『無銘』を躱さんと頭を傾けた。

 しかし、意識を攻撃へと全力で注いでいる結愛の『無銘』は躱しきれず、確かに頸を捉えたが、両断には至らず、若干の金属音を鳴らしながら上空へと弾かれた。

 畳みかけようと脚に力を籠め跳躍するが、老人の背中から生えた一対の翼が空を打つと、見た目からは想像もできない風が空を取り巻き、追撃を阻止された。


「ごめんなさい。一番のチャンスだったのに」

「いんや大丈夫。ほら見てみ。確実にダメージは入ってる」


 頸を両断できなかった結愛が謝罪するが、その必要はないと老人を指差して説明する。

 翼を何度か羽ばたかせながらゆっくりと地上に降り立った老人は、頸の辺りには『無銘』の傷跡が確かに刻まれ、俺の“爆拳”のダメージを抑えるように背中に回した手で打撃を与えた辺りを擦っている。

 その二つが、今の一連の攻撃が無意味ではないことの証明であり、謝罪が不要な理由でもある。


「……発勁――いや、寸勁じゃったか? 小さい力で大きな効果を齎すという武術の技……ワシが会得できなかった技じゃな」

「正確には違う……というか、発勁とか寸勁とかの定義は曖昧らしいから俺にもわからんが、ともあれ今のは衝撃を体の中へ与える技だ」


 地球で培った技術が老人の持つ技術に及ばないとは言ったが、全てが無駄とは言っていない。

 こうして確かに、老人へとダメージを与えられた。

 もちろん、老人が俺の放つ攻撃を大したことがないと高を括っていたから成功したわけだが、成功は成功だ。

 二度目はそう簡単に通じなくなったが、それは老人が警戒する手札が増えたと言うことでもある。

 更には、老人は今後、老人が知らない技術、あるいは老人が知る中で老人にダメージを与えられる技術を俺が会得している可能性を考慮しなければならなくなる。

 一瞬が大切になってくるこの戦闘において、その思考は大きなものだ。


「ふむ。人間はいつも面白い技を生み出す……興味深いのう」

「……そんなに話せるってことはもしかして効いてない?」

「いいや、確かに効いたとも。だが生憎と、長い時を生きていればこれと同等のダメージを喰らったことくらいあるのでな」

「過去に経験があっても痛いもんは痛いと思うんだが……」


 過去に骨折をした人間が、再び骨折をしても痛くないわけではない。

 確かに“慣れ”で多少は痛みが軽減する、ということもないわけでもないだろうが、骨折による全ての痛みが消えるわけではない。


「であるなら、単に痛みよりも興味が(まさ)っているだけかもしれないのう」

「なるほどね……」


 老人の物言いからは嘘を感じ取れない。

 “師匠の眼(まがん)”でも、嘘は見つけられない。


「まぁどっちでもいいや。結愛、あの老人の体は多分、俺たちとおんなじくらいの強度しかないぞ」

「どういうこと?」


 結愛と手を繋ぎ、その膨大な魔力を頂戴しつつ、老人への警戒は解かないまま語り掛ける。

 その返答は当然と言った反応で、疑問百パーセントの声音で帰ってきた。


「人間に化けている時の体はおそらく、俺たちと同じで人間のそれってことだ」

「でもあのご老人も後ろの男性も、およそ人間とは思えない体だったよ?」

「そう。だからこそ、俺も最初は結愛とおんなじように考えてた。それがブラフだとも知らずに」

「ブラフ?」

「いや、ブラフ……は、違うかな。俺たちを騙して今の思考になるように誘導されていたんだ」

「どういうこと?」


 結愛の疑問はごもっともだ。

 気付けなければ永遠に勘違いをしたまま、不利な戦いを挑まねばならなかっただろう。

 わかりやすく説明を行うために、右手は結愛の空いた左手と繋いだまま、左手でジェスチャーを加える。


「あいつらは、俺以上に卓越した“魔力操作”の実力を持ってる。その“魔力操作”で、打撃や斬撃を受けた部分だけを、受けている間だけ竜の鱗へと変質させていたんだ」

「……そんなことできるの?」

「奴らは“理論上は可能”を現実でやってのけてるんだ。正真正銘のバケモンだよ」

「人間の中でそれだけの“魔力操作”ができておる葵も、十分にバケモンだと思うがね」


 嫌味――と言うよりは、素直な感想、と言った様子でそう言ってきた老人に、へっと何とも言えない感情を込めた言葉で応対し、結愛へと向き直る。


「つまりは、あいつの反応速度を超えた攻撃なら勝てる。もちろん、竜になって戦われたら作戦の立て直しを余儀なくされるし、勝率は絶無だ。だから、次の一手で決める」

「理論の話は分かった。でも……できるの? ご老人が今の話を聞いて本気を出せば――」


 結愛がそう心配するのもわかる。

 先の俺の『バケモン』発言に答えた老人が、今の話を聞こえていないはずがない。

 そうなれば、死なないように、負けないように全力を出してくる可能性だってある。


「本気を出す可能性はないと考えていい。俺たちを殺す目的でここにいるのなら、初めっから竜の姿で現れればいいだけだしな。そう言う意味では、あっちの男の方も全力ではなかったのかもしれん。尤も、ここの思考までが誘導されたものだったらもう勝ち目はない。悪いけど、俺と一緒にここで死んでくれ」

「……その時は、あの二人を生かしてもらわなきゃね」

「――ふっ。ああ、そうだな」


 死ぬつもりは毛頭ない。

 だからこその冗談だったのだが、結愛は真っ直ぐそれに答えてくれた。

 『あなたと一緒に死ぬなんて御免だわ』くらいのことを言われる覚悟をしていただけに、想定外の優しい言葉に驚いてしまった。


「それで? さっきの理論を実行できるだけの(すべ)はあるの? 私には奥の手なんてないわよ」

「あるにはある……その前に一つ確認。魔力が欠乏した経験は?」

「ないわ。どうして?」

「その(すべ)とやらに、残ってる結愛の全魔力を注いでもらわなきゃならないから」

「どういうこと?」


 ここからは老人たちに聞かれたくない話だったので、結愛の耳元で囁くように作戦の全容を告げる。

 結愛が握る『無銘』の本質。

 『無銘』に秘められた力について。


「――やりましょう」

「本当に?」

「ええ。その程度でこの場を無事に脱せられるなら、安いものだわ」

「最悪命を落とす行為をするってのに“その程度”って、肝が据わっていらっしゃるのね」


 女性のような物言いで茶化してみたが、結愛は『当然でしょ?』と言わんばかりに肩を竦められた。

 魔力欠乏で死ぬ確率は、決して高くない。

 数パーセント、あるいは1パーセントにも満たないかもしれない。

 けれど絶対安全ではないのだ。

 どれだけ確率が低くとも、その1パーセントを承知で動ける人間は稀有と言っていい。

 その稀有が、目の前にいる。

 それが大切な人だと言うのなら、全力で助力しよう。

 僅かでも、1パーセントを引く確率を減らす為に。


「勝負は一回きり。失敗イコール負けで次はない。おっけい?」

「ええ。じゃあ、お願い」

「――ん。わかった」


 結愛が右手に持つ『無銘』の持ち手を反転させ、柄を俺の方へと向ける。

 俺を見る瞳は真っ直ぐで、“初代勇者の恩寵(ほんやく)”を使わずとも信頼してくれているのがわかる。

 それに応えられるのが、これほどまでに嬉しい。

 表情に出そうになった笑みを今だけは押し殺し、その前にと老人に視線を向ける。


「次の攻撃の後、立ってた奴の勝利ってことでいいか?」

「そうだな。()も時間がない。それで決着をつけよう」


 時間がない、という発言の意味が気になるところだが、次の一撃の後で聞くくらいの余裕はあるはずだ。

 そう考えて頭から無駄な思考を切り離し、結愛の左手から右手を離して『無銘』の柄に触れる。

 俺の手を介して初代勇者の恩寵を起動させ、『無銘』へと()()する。

 カタログのように、あるいはゲームのアイテム選択欄のように、無数に広がる選択肢から、目的のものを選び取る。


「――行くよ」

「うん」


 刹那、『無銘』の刀身が変化する。

 黒を基調とした刀身を持つ魔力喰が、透き通るような鋼色へと変化した。

 不純さの欠片もない、森の木々、それを支える大地、風で揺れる枝葉に広がる蒼穹の空。

 刀身そのものを大自然を描いたキャンバスにしたかの如き、全てを反射した鏡のような刀身だ。


「行ける?」

「ええ」

「じゃあ、これも」


 結愛に『無銘』の鞘を渡しながら、老人を眼の端で捉える。

 老人は既に準備を終えているようで、今まで通り構えていた。

 ――否、初対面の時の圧倒的なプレッシャーを放って、近くにいる全生命を問答無用で押し殺すかの如く待ち構えている。

 飛び込めば“死”があると、どんな低能でも理解させられるほどのプレッシャー。

 けれどそれは、今の俺たちには通じない。


「結愛のタイミングで」

「……すぅ――――」


 俺の一言で全てを察し、結愛は大きく息を吸い込んだ。

 透き通る刀身を隠すように、結愛の腰へと装備された鞘へと戻し、左足を後ろに、右足を前に、見慣れ、使い慣れた構えを取る。

 俺を100人集めてもまだ足りない魔力総量を持つ結愛の全力。

 それが引き出された時、どんな光景が見れるのか。

 それは、ほんの数秒後に分かる。


「――」


 音もなく、結愛の姿が掻き消えた。

 刹那、暴風が森に吹き荒れる。

 老人の方へと引き込まれるような風が吹き込んで、踏ん張っていたはずなのに体が少し持っていかれた。

 腕を顔の前でクロスさせ、目を閉じて暴風が収まるのを待つ。

 数秒もすればその風は止み、それを感じた俺は閉じていた目を開く。


「……どっちが――」


 老人の後ろに在った木々は腰の高さで両断され、斬られ宙に浮いたはずの木々は先の暴風のせいで遠いところまで吹き飛ばされている。

 そんな光景に圧倒され、一瞬だけ今の状況を忘れかけた。

 その結果を確認しようと、結愛と、そして老人へと視線を向けて――


「結愛――」


 老人が構えを解かないまま立ち、その後ろで透き通る刀身の『無銘』から手を離し、地面に俯せで横たわる結愛の姿を捉えた。

 『立ってた奴の勝ち』だと、俺はそう言った。

 結愛は倒れ、老人は立っている。

 つまり結果は――


「――負け、か」


 持ちうる全力を出した。

 俺が出せる最大を、更なる高みへ引き上げるために結愛に託した。

 結果負けた。

 ならば、どう転んでも勝ち目はない。


「シュゥウウウ――――――」


 構えたままだった老人は、口から音を鳴らして呼吸をし、ゆっくりと構えを解いた。

 そして振り返り、地面に横たわる結愛へと視線を向ける。

 ゆっくりと、しっかりとした歩みで結愛の傍へと行き、片膝をついて結愛の頭に手を伸ばす。


「せめて――」

「ぅん?」


 老人の手が結愛に触れる一瞬前。

 俺は老人へと声をかけた。

 その呼びかけに、老人は伸ばしていた手を止めて、後ろに立つ俺へと振り返り、視線を向ける。


「せめて、結愛の前に俺を殺してくれ」


 負けは負け。

 このまま戦いを続けても、俺に勝ち目はない。

 あの一瞬で、疲弊している老人なら倒せるかもしれないが、腕を組み傍観するあの男が出てくれば結末は変わらない。

 ならせめて、最愛の人が死ぬのを見たくない、というのは、俺の我が儘だろうか。


「……ああ、勝負か。うん。()()()()()()だよ」

「――はぇ?」


 素っ頓狂な声を上げた俺にクスリと笑い、老人は結愛の頭に――髪に触れる。

 サラサラと、太陽の光を受けて輝く黒髪を梳いて整える。


「――もう一度、会いたかったなぁ……」


 老人はそう呟いて、結愛の隣に倒れ込む。

 意地か偶然か、仰向けになって倒れた老人に驚き、どうすればいいのかわからず困惑している俺の耳に、ザッザッと土を踏む足音が届く。

 それは向かいから歩みを進める男の足音だが、その表情は優れない。


「――老師」

「ぉぅ、坊か……すまんな、勝敗のコールを、頼む」


 今にも消え入りそうな小さく、覇気のない声で、老人は男に願う。

 それを俯きながら頷いて聞き入れた男は、天を仰ぎ、一拍置いてから声高らかに宣言した。


「勝者! 召喚者! 約束に従い、私、および竜の一族は、そなたらに手を出さないと宣言する!」

「はぁ……?」


 こうして、俺には全く意味の分からないまま、あっさりと、たったの一瞬で、勝敗が決まったのだった。




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