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姉の為に。  作者: たかだひろき
第七章 【再会】編
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第十六話 【終焉への一歩目】




「そんなことがあったのか……」


 隼人を撤退させたのち、俺たちは現場に居合わせなかったラティーフへと報告をしに行った。


「ラティーフたちを責めてるわけじゃないのは――」

「――わかっている。だが俺たちが気付けていれば、お前たちに負担をかける必要はなかったと思うと……」

「それこそ無用な心配です。俺含め――いや、十中八九俺のせいで隼人は寝返った。ラティーフさんたちこの世界の人たちせいじゃない」


 もう終わっていたと思っていたが、どうやらそれは俺の思い違いだったらしい。

 もちろん勘違いである可能性はあるが、それはおそらくないだろう。


「……思い当たる節があるのか?」

「はい。決着は、きちんとつけます」

「……わかった」


 その時は必ず来る。

 今できるのは、その時に備えて万全の準備をすることだけだ。


「話を戻します。洗脳を受けた召喚者は、全員が解放と同時に眠りにつきました。洗脳の糸は斬ったつもりですが、念のために一人ずつに監視をつけています」

「報告がこの五名なのはそういうことか」


 納得したようにラティーフが頷く。

 報告に来たのは、件の当事者である俺と二宮と小野さん。

 そして召喚者の保護者役と言うことで龍之介先生と、俺が聞かせるべきだと判断して連れてきた工藤の計五名。

 ラティーフが珍しいとでも言いたげな言い回しをしたのは、間違いなく工藤がこの場にいるためだろう。

 工藤がこういう場でどういう立ち位置にいたかは知らないが、少なくとも先立って前に行こうとする役割ではないはずだ。

 尤も、これにはそれなりに意味がある。


「俺は神聖国に戻るので、召喚者たちのこと、お願いします」

「それは構わない。それよりも……お前たちはどうする?」

「……おい二宮。聞かれてるぞ?」

「え? あ、えと、もう一回お願いします」

「召喚者は今後どうするんだ? 葵の探し人は見つかっ――たよな?」


 思い出したかのように、ラティーフは不安を宿した瞳で訊ねてくる。

 言ってもいなかったから知らなくて当然だが、ラティーフが気遣ってくれるのは違和感が凄い。

 大人として最低限の――というか、そこらの大人よりも他人を(おもんばか)れるとはわかっているが、いつもの荒々しい性格から考えるとやはり違和感だ。


「少し想像とは違いましたが、ちゃんと見つかりました」

「それは良かった。じゃあ話を戻して、俺たちがお前たちをこの世界に留めておく理由はなくなった。もちろん、お前たちが残る限り俺たちは援助を約束するが……この状況になって、お前たちはどうする?」


 俺たち召喚者の契約の大元だった大戦の勝利は為した。

 帰還に際しての懸念点と言うか、大戦終了後即座に帰還ができなかった理由である結愛は見つかった。

 本来ならば、これで地球へと戻り俺たちの異世界での物語は終了――だったのはずなのだが、ここへ来て新たな懸念点が生まれた。

 言わずもがな、隼人の寝返りだ。

 結愛とは違って己の意志で召喚者の元を離れたのだから置いていけばいいとは思うが――


「――多分、そんな悠長なことを言ってる場合じゃないぞ」

「……だよな」

「ど、どういうこと?」


 流石に状況を分かっていたのか、ラティーフは重々しい表情で俺の言葉に頷く。

 一方で状況をわかっていないのか、二宮は恐る恐ると言った様子で疑問を言葉にした。


「帝王が魔人側に寝返ったのは知ってるか?」

「え、いや」

「信じられないかもしれないが、寝返ったんだ。現に俺は、神聖国で魔人側に寝返った帝王と戦ったし」

「どうして……?」

「さあ? 目的のためとか言ってたが俺にはわからん。ともあれ、帝王が魔人側に寝返った。わかると思うが、その後ろには当然魔人がいる。つまり――」

「――まだ大戦は終わってない」


 そういうこと、と二宮の言葉に頷く。


「それに、あの大戦で戦った魔人のほとんどは、恐らく倒せてない」

「え……?」

「神聖国で戦った中には魔人もいた。んで、その時戦った魔人は、大戦で戦った魔人と同じだった」

「同じ……? 似てるだけの別人って可能性はないの?」

「ない。それに、厳密に言えば同じじゃなくて、大戦の時よりも強くなってた。まぁ俺も強くなってたから、どんくらいかって指標は出せないけど」


 不安そうに聞いてくる小野さんに、変な希望を抱かせないようはっきりと断言する。

 天の塔で力をつけた俺ならば、大戦時の四人を相手にしても勝つことだってできたはずだ。

 相手の思考を読み戦うとは、それほどの優位を得ていると言うこと。

 そして逆に言うのなら、その優位で以ってしても圧倒できないだけの実力をあの四人は備えている。


「今のままじゃ確実に、次の大戦は人類の敗北で終わる」

「そんな……」


 翔が弱々しく言葉を零す。

 第十次となった大戦はもうふた月も前のことだが、それだけの時が経ってなお印象強く残っているのだろう。

 命を賭けた戦いとは無縁の生活をしてきた俺たちからすればそれも当然とも言えるので、その弱気を責めるつもりはない。


「今の話を聞いた上で、お前たち自身はどうしたいか。地球に帰り、色々な面倒と対面するか。この世界に残り、真の意味で大戦を終わらせるか」


 二つに一つだ、と二宮、小野さん、龍之介先生、工藤の四名の目を見て聞く。

 どちらの選択肢を選ぶのか。

 その難しさは、想像に難くない。

 けれど、選ばなければ前には進めない。


「今すぐじゃなくていい。他のクラスメイトの意見も聞かなきゃだろうし……明後日、もう一回戻ってくるからその時に聞かせて。ラティーフたちも、それで問題ないか?」

「問題ない」


 前者を選んだ場合の手筈は、ラティーフたちでなければ整えられない。

 俺が全ての行動を勝手に決めるわけにもいかないので、事後的になってしまったが許可は得られた。

 もちろん、召喚者たちが後者を選べばその心配は一旦はなくなるのだが。


「慌てて選ぶ必要も、情に流される必要もない。ゆっくり落ち着いて、自分のしたいことを選べばいい」


 『どんな選択を選んでも、結局は後悔する』とどこかで聞いたことがある。

 『ならば自分が好きなこと、やりたいことを選ぶ方がいい』と。

 その考えを強要するつもりはないが、一つの選択の仕方として提示しておくのも悪くないだろう。


「じゃあそういうことで、また明日。今日はゆっくり休んでくれ」






 * * * * * * * * * *






「よう」

「……オマエは呼んでないはずなんだが」


 お馴染みの白い空間。

 夢の中でのみ見ることのできるその空間で、瓜二つの顔をした男たちが顔を突き合わせていた。

 俺の心の中――魂の中にいるらしいの(オレ)

 未来で結愛の死に直面し、世界に破滅を齎したらしい、(オレ)


「用事が終わればオレは変わる」

「……まぁ俺も一つ言っておきたいことがあったしいいか」

「オレから話すぞ。先の戦いで結愛を死なせそうになったな?」


 オレが話し始めたことは案の定、俺が想像していたものと変わらなかった。

 そしてそれは、俺が話しておきたかったことでもある。


「ああ。だが回避した。結果は問題ないはずだが?」

「結果は大切だ、その通りだ。だが少なくとも、どんな状況であれ一瞬でも結愛を危険に晒したことは、万死に値する」

「怖すぎだろオマエ。言いたいことはわからなくはないけどさ」


 確かに、結愛を危険に晒し、危うく死なせてしまうところだったのはその通りだ。

 だが言った通り結愛は生きているし、結果としては何一つとして間違ってはいない。

 少なくとも、万死に値するようなことではないだろうと、肩を竦めてお道化るように答える。


「いいや違う。確かに結果としては上々。結愛を死なせず、結愛の仲間も守り、あまつさえクラスメイトも守れた。素晴らしい結果だ、認めるよ」


 パンパンと、乾いた拍手を鳴らして言う。

 字面を見れば褒められているが、拍手の態度と言葉の調子からは、純粋に褒めようという意思は感じられない。


「だがそれじゃダメだ。結果は大事。だが結果に至る過程も大切にしろ。雑な立ち回り(ミス)力業(ごりおし)で正当化していたら、いつまで経っても変わらない」

「……確かにな」


 オレが言いたいことはつまり、結愛を死なせかけた――魔人の接近を許したことがそもそものミスで、偶然あるいはその場の機転で乗り越えられたとしてもそれ以上の成長はない、というものだ。

 適応能力と言う意味ではむしろ、その場しのぎの方が経験にも成長にもなるだろう。

 だが少なくとも、“結愛の死を回避する”ことだけに注目すれば、その場しのぎほど危ういものはない。


「オレは基本的には黙ってみていよう。オレはお前だが、どこまで行ってもお前じゃない。だが結愛が危機に瀕し、お前ではその危機を脱することができないと判断したら――」

「わかってる。俺たちが最優先にすることは変わらない。俺ではどうにもならないと判断したら、恥も外聞もなくオマエに代わるよ」

「……それならいい」


 俺の答えに納得したのか、オレは頷いて白の空間に溶けていく。

 それと入れ替わるようにして、女性が姿を見せた。

 結愛と似た顔立ちと背丈を持つ、結愛よりも大人びた雰囲気を持つ黒髪の女性。


「俺の中に在る魂ってもしかして、結構自由に動けたりします?」

「あなたの思い通りに操れるわけではないわ。ただ、あなたに叛意を(ひるがえ)すこともできないけれどね。精々できても、あなたの意志に反することくらいかしら」

「なるほど……今みたく、意見するだけなら自由ってわけか」

「まぁ、あなたの――あの子の場合はかなり特殊な例だとは思うけれどね」


 純粋な疑問を、俺の中に在るもう一つの魂へと問いかける。

 オレに対してそれをしなかったのは、そういうことを話す間柄でもないのと、恐らくは知らない可能性が高いから。

 比較して、初代勇者ならばこの“体の中に複数の魂を内包する”能力について詳しいはずだ。

 考えの通り、答えらしいものは得られた。


「じゃあ早速本題に入りたいんですけど、いいですか?」

「ええ。最後に私のお願いも聞いてくれるかしら?」

「わかりました。三つ、聞きたいことがあるので一つずつ……まず一つ目は、俺が師匠に会えてない理由ってわかりますか?」


 大戦で、俺は師匠の魂を継いだ。

 俺が内包している魂は、この空間でそれなりに自由に会話をすることができる。

 先ほど、未来の自分と話したように。

 現在進行形で、初代勇者と話しているように。

 しかし、初めて意図的に魂を継いだ師匠との対面は、未だに果たせていない。

 その理由は、この魂と会話するという能力の保持者であった初代勇者(ほんにん)に聞くのが手っ取り早い。


「はっきりとしたことは言えないわ。推測に近い憶測なら言えるけれど……」

「それで構いません。お願いします」

「あなた、その師匠さんと何か約束はした?」

「約束はしていません。が、したいと思っていることはあります」


 初代勇者に言われ、心当たりを思い出す。

 一時的に預かっている形になった、師匠の刀。

 それを師匠の故郷に届け、そして、師匠の死を伝える。

 弟子として、それくらいはしなければならないと思っている。


「あなたがその心残りに近いものを解消すれば、師匠さんと会える……かもしれないわ」

「……なるほど」

「あとは、その師匠さんがあなたに引け目があって、会いたくないと思っている可能性もあるわ」

「それは……悲しいですね」

「あくまで可能性よ。鵜呑(うの)みにはしないでね」

「はい」


 事実がどうかは不明だが、そう言った可能性があることを知れただけでも進展と言える。

 わからないことはわかる人に聞く。

 良い教えだと、心の中でそれを教えてくれた誰かに感謝する。


「二つ目は?」

「あ、はい。二つ目は、あなたの能力に関して何ですが――」

「――あなたって呼ばれると余所余所しく感じるわ。真希って呼んでくれないかしら?」

「……わかりました。では……真希さんの能力は魂を理解する能力と言う認識で間違いないですか?」


 初めてこの空間に来た時は、共和国で初代勇者(真希さん)の残滓と俺の中の能力が呼応した。

 真希さんと同じ能力を持つ人間だけに起きる、共感とでも言うべき現象だったはずだ。

 そして、天の塔で真希さんの能力を継いだ俺は、こうして自由に白い空間で己の内包する魂と自由に会話することが可能になった。

 共和国で真希さんの残滓に触れた時点でこの空間へのアクセス権は得ていたが、自由な会話はできていなかった……はずだ。


「正しくは違うわ。私の能力はあなたと同じ、言葉を翻訳する能力。それが強化されて、魂を理解することができるようになったのよ」

「じゃあつまり、同じような強化をすれば俺もいずれは同じ能力が開花していた可能性があると?」

「可能性はゼロではないわね。ただ同じ能力を持っていても強化が同じものになるとは限らないわ。それよりも、自分らしさを大事にする方がいいと思うわ」

「……なるほど」


 自分のことを追う必要はないと諭されたような気分だ。

 実際にそう言われたのだから気がするも何もないのだが、真希さんの言い方が優しいからそう感じるのかもしれない。


「それで三つ目は?」

「あ、いえ。今話してくれた内容に聞きたいことが含まれてたので、もう大丈夫です」

「そう?」


 三つ目の内容は、俺と真希さんは同じ能力を持っているのになぜ同じ能力が使え(たましいをりかいでき)ないのか、というものだったが、それはもう説明してくれた。

 同じ能力を持っていても、人それぞれの使い方がある。

 考えれば当たり前のことだったので、今や納得しかない。


「じゃあえっと、真希さんのお願いって言うのは……?」


 俺の聞きたいことは全て聞けた。

 約束通り、真希のお願いとやらを聞く番だ。


「……仲間に会いたい」

「仲間って……五千年前の人たちですよね? まだ生きてるとは――」

「――ごめんなさい。言葉が足りなかったわ。仲間が残した物を、見つけて欲しいの」


 真希さんたち、初代勇者とその仲間と呼ばれた人たちは、この世界に変革を齎した。

 科学技術であったり、魔法の体系であったり、それこそ“勇者”という魔王に対しての対抗力であったり。

 けれど、物品として何かが残っているなんて話は聞いたことがない。


「心当たりがあるんですか?」

「私が初代の魔王と戦う前に、みんなと話し合っていたの。もし仮に、未来で私たち異世界人のことを理解できる人間が来たら、その人たちのために何かを残しておこうって」

「なるほど……でも肝心の場所がわからないんじゃどうにもならないのでは?」


 そう言う約束があるのなら、確かに何かを残していてもおかしくない。

 五千年も経った今、それがしっかり形を保てているかどうかはわからないが。


「それは大丈夫よ。生きた証を残す場所は、それぞれの大切な場所と決めていますから」

「じゃあ、それを辿れば問題なさそうですね」

「ええ。関わりのありそうな場所が近くにあればちゃんと教える。けれど、私のお願いを優先する必要はないわ」

「わかりました。じゃあその都度、教えてください。そちらから呼びかけてくれれば会いに来ますので」


 真希さんが頷くのを確認して、意識を白い空間から離していく。

 次第に意識が遠のいて、睡眠に近い状態に入り込んでいくのを感じる。

 まぁ睡眠の中――夢の中でしか会えないから、睡眠に入るも何もないのだが。

 体と頭を休めるために、そのまま意識を手放す。






 * * * * * * * * * *






「おお……復興が早いな」

「魔術があると、仮住居も足場も思い通りに簡単に作れるからね」

「いやぁ、俺たちもこの世界に来たばかりの頃は魔術に驚いてばっかりだったなぁ」


 俺の呟きに、真衣と大地が解説混じりに懐かしそうな顔で頷く。

 こちらの世界で八年近くも過ごしていれば、真衣や大地のように慣れるのだろうか。

 俺にとって魔術は、戦いの手札、道具のようなものでしかなかったので、こうして日常でも使われているのを見ると違和感と言うか、不思議な感じがある。


「あれ以来、襲撃はないですか?」


 瓦礫を退けたり、凸凹になった地面を整えたりしている結愛を視界で捉えつつ、思い立った疑問を聞いてみる。


「私たちは知らないけど、少なくともこうして復興が進んでるってことはないんじゃないかな?」

「確かに。そりゃあそうですね」


 一国の首都を壊滅させるだけの攻勢を仕掛けてきて、その後はピタリと動きが無くなった。

 失敗したのだから一度は鳴りを潜めるのも納得だ。

 押し引きの判断の早さは、素直に認めざるを得ない。


「魔人たちの動きなら、少なくとも神聖国内ではありませんよ」

「マルセラさん。教皇様がこんなところに出てきていいんですか?」

「首都を壊滅させた責任を、一国の主として取らなければなりませんから」


 真衣と大地と話をしていたら、割り込む形で教皇マルセラが会話に入ってきた。

 面識はあるし、こうして話をするのも何度目かなので俺は問題なく話せているはずだが――


「きょ、教皇様!?」

「え、えと、どどどどうすれば――」

「落ち着いてくださいよ、二人とも」


 真衣と大地はそうでもないようで、見てわかるくらいには慌てている。

 可笑しくなるくらいの慌てようだ。


「いやだって、国の頂点に位置する方だよ? 私たちみたいな一般人には縁遠い方だよ? 吃驚するし慌てるのはふ、ふふ普通じゃない?」

「……確かに」


 大地が言い訳のように弁明する。

 言われてみれば、国主様とこうして対面し話をするなどかなり特殊な立ち位置にいることに違いはない。

 この世界に来て初めて話した異世界の人間が王女様だったことと、召喚者としての立場で忘れかけていたが、普通の一般人は国王や教皇と言ったお偉い立場の人と話す機会なんてないのだ。


「そんなに怯えられると、少し悲しい気持ちになります」


 マルセラは悲しそうな表情になる。

 立場的なものは確かに別格だが、マルセラも一人の人間であることに変わりはない。


「まぁそれはそれとして、帝国はどうなりました? 皇帝の裏切りは、国民に――国にどう影響してるか、わかりますか?」

「帝国のみ、国家間の連絡が取れなくなっております。なので、国の情勢がどうなっているかを国外から探る術はありません」

「そっか……わかりました。ありがとうございます」


 マルセラの情報に感謝して、首都の復興をチラリと見てから(きびす)を返す。


「どちらへ?」

「この前の答えを聞きに王国へ」

「? よくわかりませんが、お気をつけて」

「ありがとうございます。またすぐ戻ってきますが、首都の復興、頑張ってください」

「ありがとう」

「結愛とソウファのこと、お願いします」

「あ、うん。気を付けてな」


 三人に背を向けて、王国へと転移する。

 昨日の答えを聞くために。






 * * * * * * * * * *






 会議場と名のついた机と椅子があるだけの広い部屋に、召喚者が集っていた。

 二名を除き、三十八人のクラスメイトと一人の担任が顔を合わせている。

 真剣な表情で、何かを待つように姿勢正しくジッと座っている。


「ん? ごめん、待たせた」


 指定された扉を開けてみれば、そこには既に全員が揃っていた。

 集合時間に遅れず、されど選択の時間を限界まで稼ぐために時間ぴったりに来たつもりだが。


「大丈夫だよ、綾乃くん。私たちが答えを出すのが早かっただけだから」


 そう答えた小野さんの声は、はっきりとしたものだった。


「そっか。大丈夫? しっかりと話し合った?」

「うん。大丈夫」


 頷いた小野さんの表情は、覚悟を決めた顔だった。

 周りに座る二宮も、工藤も、龍之介先生も、他のクラスメイト達も、全員が覚悟を決めた顔をしている。

 周りに座る二宮も工藤も龍之介先生も他のクラスメイト達も、全員が全員、同じ方向を向いている。

 それが、この場に立つだけでわかる。


「――じゃあ、答えを聞かせてくれ」

「うん。私たちは――」


 小野さんは、そこで一度言葉を切る。

 深呼吸をして、周りのクラスメイト達へと視線を巡らせて。

 俺の目を見て答える。


「私たちは戦う。戦って、この世界での大戦を終わらせる」

「この世界の人たちに助けられたから、色々と便宜を図って貰ったから。そんなお礼感覚で選んでたりしない?」

「……正直に言うとね、私はこの世界の人たちに守られてたから、守りたいって思ってるの。綾乃くんの言葉でいうのなら、お礼感覚でこの道を選んだ」


 小野さんは、はっきりと俺の目を見てそう言った。

 この状況でそれを言葉にするのは、かなり勇気の要ることだと思う。

 けれど、小野さんはその勇気を出して、俺に自分の気持ちを伝えている。


「でも、それは悪いことかな? ダメなことかな? ……私はそうは思わないの」


 手を出して、それを優しくギュッと握って微笑む。


「助けてくれたから恩返しがしたい。義務感じゃなくて、私がそうしたい」

「……本心から、そう思ってる? それが自分のしたいことだって、胸を張って言える? 小野さんだけじゃない。他のみんなも、その選択をして、どんな未来が待ってても、受け入れるだけの覚悟はある?」


 未来はわからない。

 どんな道を選んでも、後悔はある。

 悔いのない選択なんて、滅多にないだろう。

 だから、その選択を――選んだ未来を受け入れる覚悟はあるのか。

 どんな未来になっても、受け入れて、前に進むだけの覚悟はあるのか。


「大丈夫。私たちは全員、選んだ未来に後悔なんてしない」

「……」


 俺の問いに、クラスメイト全員へと視線を巡らせ、同意を得た小野さんは笑って答えた。

 悔いのない選択。

 そんなものがあり得るのかなんて野暮なことは言わない。

 俺が聞きたかったのは、そんなことではないからだ。


「――了解した」


 小野さんの笑みに呼応するように、俺も笑う。

 俺が聞きたかったこと、見たかったものは覚悟だ。

 理由なんて、どうでもいい。

 大戦を生き抜くだけの覚悟を持てるかどうか。

 生き抜いて、勝って、元の世界に戻れるかどうか。


「皆の覚悟、しかと見させてもらった」


 こんなところを知恵の天使(サフィエンシア)に知られたら、またイタイとか言われそうだ。

 けれど、実際にクラスメイトの覚悟が見たかったので、何も間違ったことは言っていない。

 いや、もしかするとその思考や行動そのものがイタイと言われる所以なのかもしれない。

 ともあれ今度は、俺が皆に応える番だ。


「――じゃあ早速、やれることは全部やってもらうぞ」


 不敵に笑って、宣言する。

 この世界の、五千年前に始まった大戦。

 真希さんたちが生きた時代に始まった、この世の負の連鎖を断ち切る(おわらせる)ために。

 真の意味での救世を。

 その一歩目を、今ここから始めるのだ。




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