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姉の為に。  作者: たかだひろき
第七章 【再会】編
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第八話 【七つの試練を越えて】




 “知恵の試練”の後、隣にあった扉から順繰りに試練へと挑んでいった。

 二つ目の試練は“節制の試練”。

 魔力で動く仕掛けを使う試練で、どれだけの魔力を残して仕掛けを全て攻略できるかを試された。

 “知恵の試練”と同様クリア条件は明かされなかったが、少なくとも“魔力操作”に才能を全振りしている人間ならば大した障害にはならない。

 一般人と比較しても少ない魔力総量の八割は残して“節制の試練”を終えられた。


 三つ目の試練は“勇気の試練”。

 課せられたのは、千を超える魔獣を相手に立ち向かえという無理難題。

 しかも、魔力の全面的な使用を禁止された状態で、だ。

 魔力の使用禁止とはつまり、“鬼闘法”は愚か“身体強化”や“魔力感知”と言った戦闘における生命線すら使えない。

 その上、一直線の洞窟のような場所での戦闘で、後ろには大切な人がいると言う条件がついていた。

 口頭でのテストや、謎解きにも満たないパズルのような試練とは違い、ようやく試練らしい試練に直面した。

 そう意気込んで挑戦したものの、やはりの鬼畜難易度で、満身創痍になりながら半数弱を削ったところで力尽きてしまった。


 四つ目の試練は“愛の試練”。

 ラブコメのタイトルにありそうな試練だ。

 内容自体はとてもシンプルで、様々な状況下においてどんな行動を取るのかを見定められた。

 既視感のある光景を再現されたり、あるいは全く知らない状況に置かれたりと色々あったが、初志貫徹。

 愛かどうかはわからないが、己自身を貫けたと思う。


 五つ目の試練は“希望の試練”。

 今の自分自身が見据える未来。

 それを口頭で語るという簡単な試練。

 知恵の試練前に“イタイ”という発言をもらったため、発言に少しだけ注意して語ったことで多少言いたいこととズレてしまった気がしないでもない。


 六つ目の試練は“信仰の試練”。

 絶望的、あるいは懐疑的な状況下に置かれてもなお、自分の信じる対象を信じ続けられるかを問われた試練。

 実践が主だったが、元より結愛という心の柱を有し、ほんの一週間前により一層の確立を果たしていた俺には無問題だ。


 七つ目の試練は“正義の試練”。

 “希望の試練”と同様、口頭でのみの試練だった。

 正義とは何かを問われた。

 純粋な質問に、やはりイタくならないよう気を使いながら、それでも思う限りの正義を答えた。


 最後の試練が一番試練っぽくない気がしたが、ともあれ最初の広間にあった七つ全ての扉を潜り、その光を失わせた。

 試練を終了し終えた俺を、広間は八つ目の扉を用意して出迎えてくれた。

 今まで、挑んだ試練の扉の光が消える以外に変化のなかった広間に、初めての変化が訪れた。

 その事実に少しだけ驚いて、ふと気がつく。


「塔を攻略すれば看板が消えて、全生命がこの塔に挑めるようになる、か」


 初代勇者の看板があった広間の中央。

 そこに出現した八つ目の扉により、看板は破壊――というよりも飲み込まれ、跡形も無くなっていた。

 今後この場所を訪れる人々は、そこに看板があったことに気付きもしないだろう。


「報酬受け取って帰りますかね」


 多少の疲れを吹き飛ばすように気楽に呟いて扉を潜る。

 もうすっかり慣れた感覚に身を委ねると、すぐに白く染まった視界が薄れていく。

 そうして捉えた目の前の光景は、今までのものとは少しだけ違った。


「いや……? 転移したのか?」


 いつもなら各々の試練っぽさのある部屋に転移するのだが、そう疑問を呈してしまうくらいにはなんの変哲もない空間だった。

 先ほどまでいた八つの扉がある広間と同等か、少しだけ広く感じる空間。

 しかし円形の壁に光を失った七つの扉はなく、当然、広間に中央にも扉はない。

 先の広間をエントランスとするならば、差し詰めラウンジのような場所だろうか。

 そんなことを考えていると、暗かった広間がバチンッと何かを弾いたような音とともに白く染まる。


「うわぁあああ!! 目がぁあああああ!!!(迫真)」


 黒い世界から白一色へと明るくなったせいで、網膜が焼かれた。

 急な刺激を受けたことで痛みが伴う。

 両目を抑え、痛みを声に出して和らげようと試みる。

 ナディアの魔眼は視覚機能を追加してくれる便利なものだが万能ではない。

 とはいえ、実際のところは叫ぶほど痛いわけではない。

 叫んだ理由の半分以上は、有名な言葉(セリフ)を反射的に言いたくなっただけ。


「――ッ」


 アニメ世界のセリフをリアルで言えたことに少しの満足感を得ていると、視覚を奪われた瞬間に展開していた“魔力感知”が高速で接近してくる物体を捉える。

 捉えたはいいが、完全に躱しきれずに服の一端が軽く斬り裂かれた。

 “身体強化”なしの状態での反射、反応速度などたかが知れている。

 必要な被害――むしろ体への被害がなかったことを僥倖として、“魔力感知”を頼りに後方へと跳ぶ。

 同時、“魔力探査”で敵の数、形を捉え“魔力感知・臨戦”を展開し、『無銘』を握って次の攻撃に備える。


「……?」


 しかし、どれだけ待っても次の攻撃は来ない。

 初撃を仕掛けてきたであろう襲撃者も、明らかに手に持つ得物のリーチの外にいる。

 十数秒ほど待っていると視力が完全に回復し、白一色の広間を見渡せる。


「――試練は終わったんじゃないのか?」

「終わりましたよ」

「じゃあなんで攻撃を仕掛けてきたのか、聞いてもいいか?」

「あなたの咄嗟の反応を見たかったのです。他意はありません」


 襲撃者はまぁ当然と言うべきか、先ほどまで試練の試験官として対峙していた天使たちの一柱。

 “正義の試練”を監督していた天使――ユースティティア。

 刀身の長めな片手剣を右手に持っている。

 ユースティティアの隣には三柱ごとの天使が立ち並んでいる。

 白の空間に天使が七柱。

 絵になるその光景は、壮観以外の何ものでもない。


「……躱せてなきゃ大出血間違いなしだったぞ」

「その場合は寸止めしていたので問題ありません」

「……まぁいいや。結果的に被害はないわけだし。それで、この空間は何のための空間なんだ?」


 ユースティティアの言葉の真意はわからないが、ここで問答をしていても時間の無駄なので話を進める。

 その意図を汲んでくれたのか、ユースティティアは天使を代表して答えてくれる。


「ここはあなたの予想通り、試練を全て攻略したものへ天恵――報酬を与えるための空間です」


 ユースティティアの言葉に納得する。

 予想通り、という言葉が僅かに引っ掛かるが、そこまで大した問題ではないだろう。


「ですが通例通り、その前に一つ選択肢を提示します」

「選択肢?」

「はい。あなたは試練を全て攻略しました。なので、最終試練として、ここにいる天使全員と戦う権利が与えられます」

「……その報酬は?」

「神への謁見です」


 神。

 神話や大昔にいたとされる空想上の存在。

 人間には扱うことのできない力を使い、超常を現実にする天上の存在。

 何とも現実味の薄いその単語は、ことこの場においては現実味を増していた。


「それを俺が望まなかったら?」

「天恵を授け、地上へ返します」

「……受けたら?」

「勝利すれば神への謁見を許し、敗北すれば天恵の身を授けて地上へ返します」

「勝利しようがしまいが天恵は受け取れる、と」


 ユースツィティアは静かに頷いた。

 一見すると、こちらに何のデメリットもない申し出だ。

 現実世界での時間経過が気になることくらいがネックだが、試練の過程でこの塔の中の時間は現実よりもだいぶ早く進んでいるらしい。

 つまるところ、現実での時間経過はそこまで気にする必要はないということだ。


「勝利条件は?」

「我々七柱の天使全員を行動不能にするか、後ろの扉を潜ればあなたの勝利です」

「敗北条件は?」

「あなたが諦めた時点で終了します」


 やはり、こちらのデメリットは無いように思う。

 ならいっそ、力試し的な意味合いでも挑んでいいかもしれない。

 思考を巡らして、本当にデメリットがないかを探る。

 言葉の端、揚げ足取り。

 何でもいいからデメリットを探す。


「制限は?」

「ありません。あなたの保有する全てを存分に発揮していただいて構いません」

「そっか。……じゃあ、やるよ」

「承諾しました」


 七柱の天使が一斉に瞼を閉じる。

 束の間、全天使がパッと目を見開いて暴威を放つ。

 それは初めて天使に会った時のそれと同等の――否。

 比べ物にならない重圧が、暴風を伴って襲い掛かってくる。


「――いいね」


 気が付けば、口角が上がっていた。

 怯えすら抱くプレッシャーを前に、なぜか不思議と冷静でいられた。

 どこか見覚えのある光景。

 見たことないはずなのに、なぜか感じるデジャブ。

 これはいったい誰の――


「では開始します――」


 ユースツィティアの声が思考を遮り、意識を現実に引き戻す。

 思考に耽っていては勝てるものも勝てなくなる、と頭を振って切り替える。

 “魔力感知・臨戦”、“鬼闘法”込みの“身体強化”、師匠(ナディア)の魔眼に『無銘』。

 もしもの為のスクロールも、アルトメナに保管している。

 持ちうる限りの全てを以て、最後の試練に挑む。


「現在、神聖国の首都カナンが侵攻を受けています」

「は? ちょ、待て。それどういう――」

「――急ぐことを、おすすめします」


 その言葉を合図にして、最後にして最大の試練が始まった。




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