悪役ですが、何か。
こんにちは!
ねこやきといいます。
本作を開いてくださってありがとうございます。
今回、初めて悪役を主人公にしてみました。
魔王様の苦労をつづっていきます!
ゆっくり読んでいってくださいね!
一章 悪役ですが、何か。
「今日もゲーセン行かねー?」
「悪い、部活あんだよな、今日」
「さすがサッカー部だわ~、俺たち帰宅部とは違うね~」
「まず部じゃなくねー?」
授業が終わり、所々で談笑する生徒たち。
俺、梶山雄紀は、ぼんやりする頭を上げて、帰り支度を始める。
「よー、帰宅部。相変わらず暇そうだな」
にやにや笑いながら、学校でも1位、2位を争うバスケ部のモテ男・・・赤岸が絡んでくる。
俺は、ちょっとムッとしながら返す。
「いや、塾があるんだよ」
「へぇ、じゃあ、今度の期末楽しみにしてるよ?」
そいつはさらに不敵な笑いを浮かべる。
塾なんてあるわけないし、成績はクラスで一番下・・・もしかすると、いやしなくても学年最下位かも知れない。
「もー、赤岸、かわいそうだよ~?」
「ほらー、私たち、部活見に行くんだから―。」
女子に囲まれながら、赤岸が去っていく。
「・・・クソッ」
走って学校を出る。
俺だって、好き好んで俺に生まれたわけじゃねーよ!
と心の中で悪態をつきつつ、ふらふらとゲーセンに入る。
新しい音ゲーが出ていたが、瞬発力も体力もない俺にはできない。
(RPGを家で大音量でやるのが一番なんだよな)
と、通いなれたリサイクルショップへ向かう。
(さて、いいのが入荷してないかなー・・・っと)
新入荷の棚を見に行く。
最近は、ヒロイン以外にも女の子がたくさん出てくるRPGが好きだ。
なぜなら、”現実では絶対にありえないハーレム”が体験できるからだ。
すると、あるゲームのタイトルが目に入った。
「チート勇者となりたて魔王」
勇者がチート。そして魔王が新米。・・・しかもパーティの女の子がめちゃくちゃ可愛いじゃないか。
魔王の従者・手下も全員女の子だ。
(これは、買うしかない!)
と本能が言っている。
なぜなら!これこそ”究極のハーレム”だと思ったからだ!
それ以外に、理由はない。
可愛い女の子こそ、男のロマンだろう。
とゆうわけで、早速購入。
家に帰って、自分の部屋へ駆け込む。
電気をつけ、着替えもそこそこにゲームのパッケージを開ける。
いつも、この瞬間が一番楽しみだ。
ディスクを取り出し、ゲーム機本体にセットする。
真っ暗なテレビ画面に青い”ロード中”の文字と共に、読み込み中のマークが現れる。
(データ容量が多いのか、遅いな・・・)
指先でリズムを叩きつつ、待っていると、下から母の声が聞こえてきた。
「雄紀、お友達が来てるわよー。えっと・・・雨宮さん?」
おいまて。雨宮といえば、クラス一の美少女じゃないか。
俺にも、ついにモテ期到来か!?
・・・いや、よく考えろ。彼女は学級委員長だぞ。
まさか、俺が何かしたのか?
気持ちを抑えながら、慌てて上着を羽織る。
「今行く!」
部屋のドアに手をかけ、部屋を飛び出した。
そして、階段を駆け下りた・・・はずだった。
そこは、既に、廊下ではなかった。
「はぁ?」
そこは間違いなく、家じゃない。
だとしたら、夢なのか。
いつの間に寝たんだ、俺。
確かに夢じゃなくして、俺みたいな”モブキャラ”に雨宮が訪ねてくるわけないか。
なんだ、そうゆうことか。
・・・ここは、城の中らしい。
なかなか広い。いつもやっているRPGで、ラスボスが出てくる城にそっくりだ。
あたりを見渡すと、壁の両脇にはキャンドル、天井にはシャンデリア、そして盾や剣などの装飾品。
豪勢な造りになっている。
なんていい夢なんだ。
しばらく閉じこもっていたい。
・・・いやいや、待て。ならばどうして、
「俺の左腕が痛いんだ?」
「それは、あなた様が先程まで、勇者と戦っていたからです」
聞き慣れない女の声にぎょっとして振り向くと、青い髪をした妖精のような女の子がこちらに歩いてくるところだった。
(こいつ、どっかで見たような)
「察しがいいようでございますね。私はあなた様・・・魔王様の従者、フィロンギーネでございます」
「フィロンギーネ?・・・それはあのゲームの、魔王の従者の名前だろ?」
「ですから、あなた様が魔王様なのです」
「・・・は?」
フィロンギーネの言っている意味が分からない。
「俺が魔王?んなわけねーだろ。ただでさえモブだぜ?」
鼻で笑うようにあしらうと、フィロンギーネは多少いらついたように、奥に立っている女の子二人に声をかけた。
「クシュル、ネア。鏡を持ってきなさい。」
クシュルとネアは、奥の部屋へと駆けて行った。
「これで、あなた様が魔王様であると証明できます。」
「証明されても俺は困るんだが。」
「しかし、魔王様はハーレムがお好きなはずでは?」
「・・・」
確かにハーレムは好きだ。
とゆうより、ハーレムに異常なほど憧れている。
ただし、現実の話でだ。
これは夢に違いないのだ。
いきなり、こんなにも簡単にハーレムになると、かえって戸惑うのだが。
なんて考えていると、奥の部屋からクシュルとネアが帰ってきた。
「フィロンギーネ様。鏡をお持ちしました。」
「ありがとう、クシュル。・・・魔王様、この前にお立ちください。」
二人が持ってきたのは、大きな姿見だった。
フィロンギーネに言われるがまま姿見の前に立つと、俺の姿が映った。
「なんじゃこりゃああああああああああ!?」
そこに映ったのは、俺のはずだった。
だが、映っているのは、頭から二本角が生え、口から牙がのぞき、長いマントを羽織ったあのゲームの魔王の姿だった。
「お分かりいただけたでしょうか。あなたは、魔王様なのです。」
「俺が、この、俺が?」
まだ受け入れられない。
俺が魔王だなんて。
ゲームのやりすぎによる幻覚でも見ているのか。
「フィロンギーネ様・・・この人が、新しい魔王様なの」
ネアが少し怪訝そうにフィロンギーネに訪ねる。
「そうです。ネア。しっかりお世話するように。クシュルもですよ。」
「はい、フィロンギーネ様。」
「はーい。今回は楽しいといいけど。」
「ネア、聞こえていますよ。・・・ところで魔王様。」
急にフィロンギーネが俺に話題を振る。
俺は慌てて答える。
「なな、なんでしょう!?」
フィロンギーネはクスリと笑って言った。
「いえ、まだお名前をうかがっておりませんので」
「ああ、俺の名前か。」
RPGの定番。「自分の名前を決めるイベント」。
俺の名前ねぇ。現実では”雄紀”だったからな。
それなら・・・
「アン・ヴレイバー」
そう言うと、フィロンギーネは少し戸惑ったように言った。
「勇気なき者、ですか」
「そうだ。俺には、勇気なんて微塵もねぇからな」
そう答えて、俺は笑った。
なかなか洒落がきいてるな、と自分でも思った。
実は、その名前は、そんな意味じゃない。
アン・ヴレイバー。その訳は、「勇気ではないもの」。
つまり、”雄紀ではない者”。
俺じゃない者、って意味なんだよ。
ここでは、俺は俺じゃないんだ。
「アン・ヴレイバー様。」
「何だ」
「実は・・・魔王様になっていただくには、いくつかの試験が必要なのです」
「おう、そう簡単に魔王になれても困るだろうしな」
「そうなのです。まずは、基本の礼儀作法からやっていただきます。」
それを聞いて、俺はあっけにとられた。
「魔王が礼儀作法!?いや、だって、ゲームなんかの魔王って、破天荒な感じじゃねーの!?」
「そのような魔王様は、すべての試験に合格し、”インディペンデンス”の称号を手に入れた方々のみです。」
「魔王っていくつも種類があるものなのか!?聞いたことねぇよ!」
ダメだ。突っ込みきれない。
”インディペンデンス”。独立って意味だったか。
横暴で破天荒な魔王になるには、かなりの年月が必要になりそうだ。
「マジかよ・・・。試験パスできる気がしねぇぜ・・・」
「大丈夫ですよ、アン・ヴレイバー様。私ども従者が、精一杯お手伝いさせていただきます。」
「ありがとう・・・フィロンギーネ」
がっくりと肩を落とす俺を、フィロンギーネがなぐさめてくれた。
ああ、どうして俺は、こんなところにいるんだろうか?
現実ではモブキャラだった俺が。
確かに、素晴らしいハーレムだが、急に放り込まれても困るものがある。
でもまぁ、なってしまったものは仕方ない!
やってやるぜ、インディペンデンス目指して。
ゲームのし過ぎでがちがちに固まった肩をほぐすようにぐるぐると回す。
すると、フィロンギーネがおずおずと声をかけてきた。
「あの、アン・ヴレイバー様?」
「?なんだフィロンギーネ」
「そんなに左腕を回されて、大丈夫ですか?」
「・・・は?」
慌てて左腕を見る。
血のにじんだ包帯。
「あああああああああ!やっちまったぁあああああああ!」
「アン・ヴレイバー様!?すぐ、手当てを!」
そうだ、すっかり忘れていた。
勇者と戦い終わってすぐの魔王設定だったな、俺。
「魔王・・・ツラいぜ・・・」
フィロンギーネが包帯、消毒液、その他もろもろの治療薬を持ってきて、傷の手当てをしてくれる。
魔王の知られざる苦労を知って、なんだかほろりと来てしまう。
「・・・ところで」
「はい、なんでしょうか?」
「治るのか、この傷。」
フィロンギーネが手当てしてくれている傷は、剣でめちゃくちゃに切られたものらしい。
自分の体ではあるのだけれど・・・どうにも実感がわかない。
痛みが少ないためか?
すると、フィロンギーネが俺の気持ちを察したかのように、教えてくれた。
「この世界では、魔王様としてしっかり役目を果たしていただけるように、傷の治りが早く、痛みも少なくなっているのです」
「はぁ・・・よくできてるな」
「ええ、ここでは魔王様が私たちにとっての”正義”ですから。」
正義ねぇ。
じゃあ、その正義のため、俺がいっちょやってやりますか!
この世界で、一番偉い「魔王様」になってやる!