カチコミだそうです。
「はぁ、暇だわ。」
百人近くの雇われた傭兵達が、がやがやしているなかで冒険者であるジールは呟く
「そう言うなって、餓鬼を追い返すだけで大金が入ってくるんだぜ。楽に仕事ができて金がもらえるんなら、暇になるぐらい安いもんだろ?」
ジールの呟きに応えたのは、ペアを組んで大分経つ、冒険者仲間のカールだ。
「んなこと言ったって、暇だしさぁー」
「まあまあ落ち着けってーーそれにどうやら来たみたいだぜ、例の人形族の小娘が。」
ふと、ジールが顔をあげると、先ほどまで騒いでいたのが嘘のように静まりかえっていた。
よくみてみると、どうやら全員正門の方を、興味津々に見ている。
そちらの方に目をやると幼い燃えるような紅の瞳と透き通る銀の髪をもった少女が立っていた。
「へーあれが一騎当千と言われる人形族ねぇ。」
「油断するなよ。あんななりしてても、あの固有スキルがある限り、人をあっという間に殺せるのは変わりないからな。」
「分かってるって。それじゃあいっちょ行きますか。」
そうやって、ジールが少女の方にむかおうとするとーー何かの塊が高速で飛んできてジールの意識を刈り取った。
ジールが覚えているのは、自分を呼ぶカールの声と、紅だったはずの瞳を、金色に変えた少女がこちらに何かしらの武器と思われる物を向けているところだった。
時は少し遡る。
僅か10分で屋敷の近くにたどり着いたトールは
「さてここからどうするかだがーー」
俺がここから具体的にどうするかを言おうとすると
「私が囮になりますので主が隠蔽のスキルで屋敷に侵入してください。主の隠蔽なら、間違っても見つからないと思いますが、念のため私が囮になります。」
と、カレンの方から提案された。
まぁ大まかなところ一緒だしいっか
「分かった、でももしもなんかあったりしたら遠慮なく、《契約の腕輪》で俺の魔力を使うんだぞ?」
そういってカレンの右手首に着いてある本人の綺麗な髪と同じ銀色に輝く腕輪を見る。
これは元々の奴隷用の腕輪をオーダーメイドで改良してもらったもので、お互いの場所がわかる等の他に、魔力を供給出来る効果がある。
特にカレンの固有スキルは魔力を多く使うので心配なのだ。
このメイドは遠慮しがちであまり俺の魔力を使わないから、余計に心配だし、
「了解しました。」
「ならいい。」
そういって正門まで移動する。
◇カレン視点◇
正門までやって来ると、烏合の衆である傭兵達がこちらに気づき始める。
主は私の隣で背伸びをしたあと
「それじゃあカレン頼んだぞ。『隠蔽』」
そういって見えなくなるほど、存在感が薄くなる、相変わらず凄まじい技能だ。
先ほどまで隣にいたのに、もうほとんど分からない、主も見ていたはずの傭兵達も最初からいなかったようにいなくなったことにすら気づかない、いや気づけない。
「さて、それでは仕事をしますか。」
そう言って私は、手を機関銃モードに変換させる。
これこそ、人形族の固有スキル『肉体変形』だ。
固さから何から何まで調整でき、全身を武器とすることが出来る。
しかも、破損してもはやしなおしたりすることが出来る。
そしてその高い機動力、攻撃力をもってして、敵を延々と無表情のまま倒していくのだ。
一騎当千と言われるのはこのためである。
「安全装置起動、ファイア」
そう言って、無表情のまま撃ち始める。
自分の主が教えてくれた、術式と武器を使って敵をどんどん倒していく。
ちなみに、殺しはしてない。
主から教わった内の〝非殺傷弾〟と言われる無属性の『衝撃』が封じ込まれた弾を撃ちだしているためだ。
勿論、吹っ飛んだりして骨折したりするのは知ったこっちゃないが。
「主の邪魔をするものは私が排除します。」
そう言って少女は無表情のまま撃ち続けるのだった。