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傭兵と魔女と異世界  作者: 鉄紺
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魔女と過去

「傭兵というだけあって、なかなかの反応速度ね」


まさかあんなに速く動くとは思わなかったわ。

射出した瞬間にはもうそこにはいなかったもの。


「全く、死んだらどうするつもりだったのだ」


ベッドから起き上がったエルフリーデがこちらに恨めしげな目線を送ってくる。


「あら、心外ね。殺すわけ無いでしょ。打ち所が悪くても瀕死になるくらいで済んだわよ。それに瀕死程度ならすぐに治せるわ」

「わざわざ瀕死にする必要はないのではないかと言っているのだ」

「まぁ、何れ貴方にも分かるようになるわ」


育てた娘の家に男が転がり込んできたらちょっとチェックくらいしたくなるものよ。


「全く、わけが分からん。私は着替えてくる」

「私も借りようかしら。前に来た時の服があるでしょ?」

「……よく覚えていたな。言わなければ忘れていたものを」


携帯している櫛で髪を軽く整えると、外に出る。

傭兵さんは外で待つといっていたが、ここにはいないようね。


「全く、傭兵はどこに行ったのだ。朝餉の準備をすると言っていたのに」

「まぁ、そのうち戻ってくるでしょ、私たちは着替えて待ちましょ」


もう片方の家……小屋?の中に入って寝室に移動する。

ここも整頓されていて、エルフリーデが住んでいるとは思えないわね。

何かを使ったらそこに置きっぱなしのこの子に一体何があったのかしら?


「エルフリーデ、貴方召使いでも雇ったかしら?」

「いや?一人で住んでいるが。ほら、これだろう?」


渡されたのは確かに前に泊まりに来た時に置いてきた服ね。

虫食いもなし。まぁ、妥協点かしら?ギリギリ赤点かも。

チラとタンスの中を見たけれど、どれもこれも黒ばかり。


「たまには明るい色の服も来てみたら?黒ばっかりでも気が滅入るでしょう?」

「いや、そんなことないが?」


素材はいいのに全く活かそうとしないんだからこの子は……。


「訂正するわ。ほかの色も着てみなさい。黒ばっかりだとこっちの気が滅入るわ」

「まぁ、考えておこう」


きっと着ないわね。

幼い頃の教育に失敗したかしら?

あの頃は良かったわねぇ……。


30年前

ふらりと立ち寄った孤児院にたまたま魔女の適正がある子がいたのは、偶然以外の何者でもなかったわ。

その頃は放浪してばっかりで、80年は経っていたかしら。

体に莫大な魔力を有する魔女は体に不老不死の刻印魔術を施せる人間のことを指す。

他にもいろいろ条件があるらしいのだけれど、詳しいことは知らないわ。

ただ、目の前の子くらいの魔力があれば十中八九成功することはわかる。


「貴方、お名前は?」

「……エルフリーデ」


昔は無愛想な子だったわ。

必要最低限しか口を開かないし、何に興味があるのかも分からなかったし。

今の性格になったのは奇跡に近いわね。

院長と掛け合って、引き取ることに成功した時も孤児院から離れて寂しいとか、新しい境遇に期待とか不安とか、そういう感情を一切抱かない子だったわ。


「いい?これから貴方は魔女になるために修行するの」

「……魔女?」


ここら辺には伝わってないのかしら?

そうねぇ……魔術について話しても理解できないだろうし……。

そうして私は一般的な魔女のイメージを伝えることにした。


「魔女っていうのはね。真っ黒い服を着た偏狭な場所に住む女性のことで、老いることもなく永遠の時を過ごすの。それに指先で人間をカエルに変えることだってできるのよ」


準備に3年と9ヶ月かかることは言わないでおく。


「……そう」

「(関心の欠片もなしか……)」


多分この時の会話が思いのほかこの子に影響を与えていたんでしょうね……。


今思えばそんな話を聴いて魔女になろうとしたこの子はかなりの変わり者よねぇ、なんて思ったりして。


「…?なんだ?私の顔に何かついているのか?」


そう言ってペタペタと自分の顔を触るエルフリーデ。


「……プッ。っふふふふ。何もついてないわよ。可愛い顔だから安心しなさい」

「いきなり気色の悪いことを言うな」

「あら?ごめんあそばせ?」


ふと、会話が途切れた時に気になる音が耳に届いた。


「この音は……?」

「森の方からか……」


家から出てみると、どうやら音の原因はこちらに向かってきているようね。

木々をメキメキとなぎ倒しながら私と同じくらいの大きさの猪が血だらけで現れた。

そして家の周りの木々のないところまで来るとドウと体を横たえた。


「なんだコイツは……?」

「恐らくはこの森に住んでいた猪でしょう。しかし、大物ね……」

「しかしどうしたというのだろうか?何かに追われていたのか……」


死んだ原因はおそらく多量出血。傷口を見れば小さな刃物で体中を切り裂かれているのがわかる。

両の目も無残に破壊されて……それで木々をなぎ倒しながら進んでいたのかしら。

一体誰がこんなことを……?


「おっと……すまねぇ。そっちに行っちまった。怪我なかったか?」


私の疑問に答えるかのように森の中から先程話した傭兵が出てきた。

手に持っているのは私が持ってきた包丁。

血に濡れていることからなにかに使ったということはわかるけど……それで猪を?


「遅いぞ!君は朝餉を作らずに昼を迎えようというのか!」

「すまん、ちょっと野暮用で森の奥に入ったんだがな、こいつと出くわしちまってよ。ここら辺の猪は草より肉なのな。脇目も振らずに襲ってきたぜ」

「倒したのか?そのオモチャみたいな刃物で?」

「エルフリーデ。それは包丁というのです。調理道具ですよ」


私の言葉にエルフリーデが動揺する。

包丁の使い方くらい教えておくんだったわ……思えば魔女としての特訓ばかりさせていたかも。


「し……知っている。しかし、なぜ調理道具で猪を狩っているのだ。包丁の出番が随分と早いじゃないか」


その言葉に傭兵が答えた。


「これしか武器がなかったからな。まぁ、猪程度ならこれでもなんとかなるさ。遅くなった侘びだ。こいつを使ってなんかうまいもんでも作るから待っていてくれ」


そう言うと持っていた包丁で猪を裁き始めました。

もちろん、私が用意したものですから一級品なのは間違いないのですが、使う者もなかなか……。

エルフリーデの方を見ると解体作業を凝視していた。

初めて見るのよね……。

興味津々のようだから私は一足先に退場しますかね。


「私はちょっと野暮用があるからここを離れるわ。ご飯には間に合うと思うから3人分作っておいてくださる?」

「あぁ、わかった。気をつけてな」


先見の魔女に気をつけて、なんておかしなことを言う人ね。


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