表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

Run away! 1

彼女と僕の恋人事情

作者: 貴幸


僕は中学校が大好きで、



家が大嫌いだった。







いつも通り僕、高島時人は八時に起きた。


比較的学校から近い僕は徒歩で登校している。

決して自転車が自転車回収車のおじさんに回収された訳ではない。

占いを見ていると、僕の星座は一位になった。


「うわ、一位。」


一位はそれ以上あがらない、次は落ちるかなんとか留まって下から登ってくる人を恐れることしかできない。


「嫌だなぁ。」


パーカーを羽織りスニーカーをはくと玄関のドアに手をあてた。

この癖は治らない。

後ろを向いてできる限りの笑顔をみせた。


「いってきます。」


誰からも返事が返ってくることはない。




たらたらと学校へと続く道を歩いていると後ろから衝撃がはしった。

後ろを見ると髪をポニーテールより少ししたで縛った女の子がニコニコと笑っていた。


「おはよ、時人!」


中学二年生。

学校も慣れた僕には彼女がいる。

彼女の名前は北上 志保。

同い年だ。


「時人また夜遅くまで起きてたでしょ、隈ひどい。」


「隈が酷いのは元々だよ〜」


毎日の学校生活は彼女と友達のおかげで幸せだ。


「そういえば…」


カバンをあさっているかと思うと僕に漫画を渡してきた。


「これ、面白かった!また借りていい?」


「うん、明日続きを持ってくるよ。あ、それとも巻数も多いし僕ん家きて読む?」


そこまで言って彼女の顔を見ると少し頬を赤らめていた。


「う、うん…二人で?」


「うん…………ってあっ、いや、特に何もしようとしないよ、大丈夫!」


何をする気も起きないし。


「や、やだ、そんなこと考えてないよバカ!」


軽いビンタをくらった。


「あ、じゃあいつがいい?僕は今日でもいいよ?」


「うん、今日がいい!部活休みだしはやく続き読みたいし!」


「約束ね、時人。」


「うん。」


そういうと二人で小指を絡めあった。





「おじゃましまーす。」


やはりまだ抵抗があるんだろう、少しビクビクしている。


「そんな怖がらなくてもー、嫌ならここで漫画読んでもいいよ?」


「いや、入る!お母さんは?」


「あ、えっと……仕事、お父さんも、二人とも仕事。」


「そうなんだ、なんか寂しいね。」


「僕飲み物とってくるね!リビングで待ってて、あ、リビングはあっち。」


彼女は指をさした部屋に入った。

それと同時に自分の汗を拭った。


「…あれ、顔は青ざめてんのにな。」


冷や汗。


きっとそれはこの部屋に誰かを入れることに抵抗を感じているからだ。

彼女以上に今僕は怖がってる。

ここに入った誰かが自分からはなれてしまう気がして。





リビングにいくと彼女は夢中で漫画を読んでいた。


「お茶、ここ置いとくね。」


「うん、ありがと。」


大丈夫、笑っていればきっとばれない、きっと大丈夫。


「あ、時人、今度私の家おいでよ、お母さんとお父さんが会いたいって言ってた。」


「うん、いいの?」


「うん、時人だから。」


彼女はニコリと笑った。





五時半になると家から帰した。

意外と彼女は遠い場所に住んでる。

はやめに帰らないと、家につくのが遅くなっちゃうから。



僕は彼女を駅まで見送ると別れた。





次の日、彼女の家にきた。


彼女が住んでいそうな清爽な家だ。


「おじゃまします。」


私服姿の彼女が玄関のドアを開けた。


「いらっしゃい!!」


満面の笑み。

靴をぬぎリビングに入ると




懐かしい声が聞こえた気がした。




「お父さん、時人くん連れてきたよ!」


彼女は笑顔で振り向く。


僕は彼女の父親の顔をみて平静を保てる気がしなかった。


見たことある顔、声、身長だ。


「時人くん、ハジメマシテ。」


優しく微笑む彼は紛れもなく、




僕の父親だった。




「あ、あの…」


手も足も何もかもが小刻みに面白いほど震える。


「いやー、志保の彼氏がこんなに優しそうな人で良かった。」


なんでそんな平静を保てるの?

なんでそんな他人行儀なの?


なんで僕を見ようとしてくれないの?


「ごめん、志保ちゃん、僕今日具合が悪いみたい…だから帰っていい…かな?」


「え、大丈夫?うん、送ってくよ無理して来なくても良かったのに…!」


北上志保の父は口を開いた。


「休んでいった方がいいんじゃないか?」





「大丈夫?時人。」


彼女のベッドに横になる。


居心地が悪い、はやく帰りたい。


「ねぇ、時人。」



「私のお父さん、かっこいいでしょ?」


え?


「まるで時人みたいだよね?」


え?


「私も時人に似て、優しそうな女の子でしょ、時人に似たのかもしれないわ。」



え?



彼女は僕を起こすと目の前に座って僕の手を取り楽しそうに笑ってみせた。






「私たち、兄弟だもんね。」










「うわああああああああ!!!!!!」


「わっ」


びっくりして目が覚めた。


「あ、あれ…」


「時人、大丈夫?」


寝返りをうつと雪ちゃんが目の前にいた。


「うおおおお!?!?」


すぐにまた逆の方向を向く。


「ゆ、夢…」


冷や汗がたくさん流れている。


「えっと…おはよう。」


雪ちゃんが苦笑いをしていた。


「うん、あの…ここ…」


「覚えてない?バスケで顔面にボール当たって気絶したんだよ。今は保健室。」


…ださ。


「あ、うーん…うん、うん…」


「良かった、起きて。」


「え?」


「すごく辛そうだった、怖い夢見てるんじゃないかなって。」


「まぁ…怖かった、かな。」


夢というか、過去だけど。

あの後、僕はどうしたんだっけ。

彼女と、彼女の家族をどう…したんだっけ。


「雪ちゃん…」


ベッドの上におかれた手を握る。


あたたかい。


「と、時人…?」


手から雪ちゃんの鼓動がはやくなってるのが伝わる。


「雪ちゃんは僕の側から、いつかはなれるのかな。」


「…え?」


「はなれないよ、ずっと。」


雪ちゃんは僕の手を握り返してくれた。


強く、固く。





「ありがとう。」



笑うことはできなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ