異類婚姻譚 「覚り覚られ」
「あ、今怖いって思った? 思ったよね」
「怖いわ!」
先日、妖怪に攫われた。何を言っているか分からないと思うが攫われた。
しかも滅茶苦茶性質が悪い。もう最悪の域。よりによってだよ!
「今よりによってとか言った? うわあひどい」
「よりによってあんただった事に涙してんの」
「泣いてない癖にぃ」
「もう帰るー!」
「帰さないもーん」
もーんじゃねえええええ!!
そう、先ほどから思考を読みまくるこいつは――覚。さとり妖怪。そう、頭の中読んでくるアイツですよアイツ! プライバシーも何もあったもんじゃない!
「ぷらいばしい? 何それー、美味しい?」
「美味しいわよっ」
「あ、今の嘘だねー。駄目だよ、嘘ついちゃ」
「きゃあああああセクハラ禁止! 禁止ーっ!!」
楓さんとこの椛ちゃんが羨ましい。だってあんな優しいおにーさんだよ! 蓮さんちもいいよね、初香ちゃんマジ可愛いし! あれ、逆?
うちのこれはないわ! 心底無いわ! あの超ごっつい牛鬼さんとかの方がマシだ!
「……」
「いきなり黙られると怖いんだけど!」
突然沈黙する覚。ちなみに名前は覚と書いてサトル。ややこしいね!
……ちょ、何? 何でずっと黙り込んでんの?
…………ねえ、ちょっと!
「牛鬼の方がマシ?」
「……覚?」
「そう、そっかあ。あはは、でもね」
ぐわ、と体が揺れて畳に引き倒された。頭ぶつけたんだけど。
「君、不細工だからさあ」
「……はあ」
「貰ってくれるような物好き、僕しか居ないんだよ」
ストレートに性格の悪い言葉が降って来る。顔の両脇に腕を付いて覆いかぶさり、ぐっさぐさと心を突き刺す言葉をぺらぺらと紡ぐ。
……やっぱこいつやだ。
「大体ね、自分が可愛いとか思ってるの?」
思ってないし。……無いし。うん、無い。
「思ってるでしょ? あはは、必死に考えたって意味ないよ」
……。
「ねー? ほら、目、逸らさないでよ。駄目でしょ、ちゃんと人の目見て話さないと」
なにがしたいのこいつは。
「何がしたい? 強いて言えばいじめたいのかなー、あはははは」
……まじ、もう、やだ。
そうして毎日毎日さんざっぱら言葉でぶちのめされながらも、なんだかんだといって私も駄目な女だ。馬鹿女と罵られても反論できん。
だって、散々苛めて泣かせた後に、言うから。
「まあ、そういうとこが」
その先は無い。ただ照れたようにふいと視線を逸らす。こいつの思考は、表情だけでよく分かる。実はサトリじゃなくてサトラレじゃないの?
「うっさい」
ふん、と憮然とした態度で横に転がる。散々罵って疲れたのか満足したのか目を閉じている。ふ、ガキめ!
「5ミリ背が高いだけで大人ぶらないでよ。年だけなら上だから」
「そうだっけ」
「そうだよ」
人の二の腕に頭乗っけてくるとことか、本当にガキにしか見えない。ひとつ年下の後輩みたいな感じだ。
「夫なんだけど……」
「はあ? 認めてないし」
「認めるも何も、妖怪社会じゃ貞操取ったが勝ちだから」
「何それ。貞操、って」
「だから、エロい事したら勝ち?」
えへっ、と小首を傾げて一言。……知るか妖怪の掟なんて!
「……よし、逃げよう」
「あれ、逃げられると思ってるのかなー? あはは」
顔を引き攣らせた私の二の腕にギリギリと負荷が。痛い痛い痛い痛い!
しかし私は知っている。この先はさらに痛い! 下はガキじゃないから(下品)!
「うん、だからガキじゃないって言ってるでしょ」
「こっ……の!」
布団も敷かずにこの中学生野郎!
……と、上げようとした声はナイスタイミングに降って来る唇に飲み込まれ。
あとはまあ、お察しの通り。
数年後、母親の内心を読みまくる、可愛いながら憎たらしいガキ共に囲まれてしまったのはまさしく一生の不覚。ええ本当に、どこでどう間違ってこうなった!
サトリの話。
1番遭遇したくないタイプ。
妄想を暴露されたらその場で舌を噛み千切る自信があります。いえ、やっぱりチキンなので多分逃げますね!