聖なる夜に投身自殺! 番外編 「クリスマス本番」
本編↓をお読みの上の方が楽しめると思います。
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下品な台詞と軽い性描写にご注意ください。
眠るように目を閉じた鈴の体から力が抜けて、慌てて抱きとめる。
苦しげに顰められた眉に、浅い息。心臓がうるさいほど鳴る。病気、それともアルコールのせいか? でも今までこんな事無かったのに。
――そして、鈴の体が少しずつ薄くなるのを見て、本気で心臓止まるかと思った。
うそだろ、嘘だろ、何で……!
どうして今更、と叫ぶ。そして目の前で、鈴の姿が掻き消えた。
そして程なく、俺の意識もぷつりと途切れたのである。
◆
燃え上がる恋のまま近くのホテルに転げ込んでベッドイン。
というベタな展開は無い。何せ俺の頭には22年の向こうの記憶、つまりタイムラグがある訳で、そのあたりの常識的要素もすっかり遠いもので。元々経験ないだろとか言わない!
「やばい、俺んちどこだっけ……」
「うっわあバカがいる!」
人目も憚らず笑って、ばしばしと背中を叩く。なんつーかノリが本当に体育会系。いや本当に体育会系なんだった。
「免許証とか無いの?」
「免許、免許、……ねーと思うなー……あ、財布みっけ」
普通、20年以上も前にどのポケットに何を入れていたかなんて覚えていないだろう。適当にジャケットやジーパンのポケットを探ると、携帯と財布が出てきた。
うっわ超懐かしい。おーおースマホだ、スマホ。文明の機器懐かしい!
「住所はー?」
「えーとえーとえーと、あ、あった。……これ、どこらへん?」
やばい、住所見てもわからん!
鈴はカードを受け取って、住所を読みながら長引く笑いに口元をひくつかせている。
……すっぴんの方が好きとか言ったけど、確かに美女だ。すっぴんの時は美人って感じだけど、化粧すると美女。なんかより色気のある感じだ。
本当に、何でこんないい女捨てたんだろうな、こいつの元彼氏! ありがとう!
「あー、川向こう……私んち行く途中くらいか。なんか服ない?」
「女物は流石に無いなー」
「あったらあったでビビる。ま、それくらいなら私んち来た方がいいかな? あー、ねえケーキ屋とか無かったっけこのあたり。ケーキ食べようケーキ」
「だっ、覚えてねーって」
「途中に一軒くらいあった気がすんのよねー」
……“来た”方がいいかなって、あ、行っていいのか!?
遅れて理解して、また顔が熱くなる。情けない。女の子の家……自宅!? そんなの小学校以来行ってねえよ!
どことなく夢見心地のまま、橋を渡って。何喋ってたかも覚えてないけど、とりあえず終始横で爆笑していた事だけは分かった。ひっでえな本当に。
でも、ほんと、なんつーか。
打ち抜かれたというのが正しい。モテたためしが全く無い俺は、最初からもうどぎまぎしっぱなしで。常にアドレナリン出っ放し状態の時にあんな――反則だと思った。
しかも舐めるし。唇舐めたし、こいつ!
「ほら、入って入って」
気づいたら彼女の家のドアに招き入れられて、靴を脱いでいた。……あれ!?
「汚い部屋でごめんねぇー、あ、着替えてくる。コートそこね」
我に返ってコートを掛けつつ、その部屋の様子にちょっと驚いた。
案外、汚い。
汚いが、なんというか“自分の分かり易い配置”という感じの部屋。ある意味女の子らしいといえばそうかもしれない。俺は整理して、仕舞った場所を忘れるタイプだけど。
「ケーキ開けといてーっ!」
奥に引っ込みながら叫んでくる。つーか、部屋でかいな。記憶がおぼろげだけど、多分俺の部屋の二倍くらい。うわー。
とりあえずテーブルの上に置いてあるものを適当にどかし、いつの間にか手に持っていたケーキを開けて置く。2人で食べるにはでかくないか、これ!
「つーかこれ捨てた方がいっか、1回しか着てないけど」
戻って来た鈴は部屋着って感じの服装だ。ピンク色のチュニックに七分のズボン。やべーどうしよう部屋着って何でこんなに破壊力高いの? 超かわいいんだけど。
鈴はゴミ箱にさっきまで着てた服を突っ込む。思い切り良すぎだろ。
「テレビつけてー」
リモコンどこだよ。と思っていると鈴はひょいとどこからか出してきた。失くさないタイプか。
「切らなくていいよねこれ。そのままいこう!」
相変わらず豪快だ。
持って来たスプーンは明らかにカレー用とかそういうのだし。つーかケーキにはフォークじゃないのか……? まあいいか。
「あ、お酒お酒。あるかなー」
冷蔵庫を開けると、あるかなーどころかありすぎるほど酒が詰まっていた。
酒豪か。やっぱり酒豪か。薄々思ってたけど酒豪だよな! しかも酔うと泣きながらキレるから性質が悪い。
「あったーチューハイとビールどっちがいい? ワインとか無いからね! 焼酎はあるけど」
だから男らしいなお前は!
普通女の家に焼酎って置いてあんの!? しかもあれ4リットルのボトルだよな、え、あれそのまま飲む気!? むしろお前がレジェンドだよ!
「梅酒みっけ! あ、養命酒もある」
「男らしい通り越してジジイじゃねーか!」
つーか酒多っ!!
結局全部引っ張り出して、ケーキをつまみに酒を飲む。これ全部糖分だよな……恐ろしい。本当に女なのか今更疑問に思いはじめたわ。ちょっとは気にしろ!
……でも全然太ってないあたりが凄いよな。腰も足も細いし。でも胸でかいとか何だ。
「太れー、幸久!」
「何で!?」
「女より細い男とか腹立つー、鍛えろっ、筋肉見せろ!」
既に泥酔しながらべたべたと胸に触ってくる。ちょ、おいいい!
「だーいきょーきん! うふふ、ふ、うぅっ、細いっ、細いんだよ馬鹿ああああっ」
「だから理不尽……! うおいっ、脱がすなっ、嗅ぐなっ、舐めるなあああ!」
テーブルを乗り越えて襲い掛かってくる。トキメキとかじゃなくて猛獣に襲われてる気分。
……いやごめん、ちょっとドキドキした。つーかしてるっつうの!
「幸久ぁ」
「な、ななななな」
「今日あれだよね? 性夜だよね?」
「待てなんか違う気がするうううう!」
「あはははははは」
いや何かおかしいだろ――って力強い! 細いのに強い! 待て!
気づいたら上半身裸にされて腹を舐められていた。あああ何か違うだろこれ何か違う!
「ぎゃああ犯される!」
「叫んでも誰も来ないぜーえへへへ」
「えへへじゃねーよ! せめて男としてのプライドとかそういうのを!」
「黙れ童貞」
「何ではっきり言うの!? 泣くよ俺!」
がちゃがちゃと音がして、あ、ちょ、ベルト! ベルト取られた!
「あ、日付変わる」
俺のハートがズタボロにされる中、不意に鈴が時計を見て言う。
見れば、あと1分足らずで日付が変わるところだった。
「メリークリスマス! プレゼントは筆下ろし! あっはっは!」
「うおあああああ!」
ジーパン引き摺り下ろされた! ちょっ、超間抜けだろこれ!
「変態! ちょっ、やめろ!」
「悪かったわねえええビッチでアバズレで変態で! これでも付き合ってない男とはやんないんだからねっ馬鹿!」
「いきなりツンデレっぽくされても言ってる事があれすぎるだろ!」
「あ、お風呂入ってくる」
「えええええええええええええ!?」
そこでやめんの!? そこでやめんのか!?
どうしてくれんだこれ、いろいろ撫で回されてやばい、主に腰がやばい!
「一緒に入る?」
そして愕然としていた俺は、風呂場から顔だけ覗かせた鈴の言葉に、ついに陥落したのであった。
目が覚めると、腰がめちゃくちゃ痛かった。頭も痛い。
まあ運動不足だし、途中から記憶が無いし。だめだもう、情けなくて死ねる。
「あ、おはよ」
申し訳程度に毛布に包まってコーヒーを飲んでいる鈴が目に入る。……あれ、何か上京して悪い大人に食われた田舎の女の子みたいな心境。
「腰いてぇ……」
「運動不足。コーヒーいる?」
「いる」
鈴がこっちを向いてにやりと笑う。あっ嫌な予感、もう嫌な予感してきた……!
「おーきて」
「う……っててて」
起き上がると、腰だけじゃなくて足も痛い。マジかよ。
鈴がコーヒーの入ったマグカップを傾けつつこっちを見る。え、何、何す――
「んぐっ」
口移しいいいいいいい!
だから何か犯されてる気分になるからやめろ! 本当に!
柔らかい唇がぴったりとくっ付いて、舌先でこじあけられた口腔に苦味が広がる。ことん、とカップを置く音がして、ああだから何か! 何かあああ!
開き直って必死に応える。苦味の中でも何故か甘い感じのする舌が、独立した生き物みたいに蠢いて――っておい!
「朝から何を!」
「あ、風呂入ろ」
「またかあああああ!」
俺、何かこの先めちゃくちゃ苦労しそうな気がしてきた。
……まあ、それでもいいか!
男女逆転カップル。
何だろうこの弄ばれてる感じは……
拍手でバレンタインに復活どうですみたいな感じのコメントを頂きまして。……え、ノるよ? ノりますよ? 調子に。
と言う訳で、また何かこの2人で上げるかもです。
その時にはどうぞよろしくお願いします。