ポッキー&プリッツの日の話
詰め合わせです。
●赤鬼と奥方編
「はい、あなた。あーん」
「……っ! ……!!」
「恥ずかしがっていないで、食べてくださいませ」
顔を真っ赤にした椿は、僅かに震えながら唇を軽く開いた。
最早その髪と同じほどに赤く染まった顔は、里の長という威厳を欠片も感じさせない。
その妻百合は薄らと、どこかサディスティックに微笑んで銜えさせたポッキーの反対側を唇で挟む。
「!?」
そのまま夫が口を動かさないのを見てか、ポッキーを食べ進めていく。徐々に接近する顔に目を白黒させる椿。ますます笑みを深くし、最後には勿論――
「ん……」
唇が触れ合う。意図的に小さく声を漏らすと、椿の肩が揺れた。暫くその切れ長の目にありありと動揺を浮かべていたが、決心したように目を閉じて百合を引き寄せる。
(……あら)
ほんの僅かな進歩に、百合は嬉しげに頬を染めた。
●ティエラとラオム編
「ラオムさん! いざ、ポッキーゲームです!」
ポッキーゲームと言いつつ、ティエラが銜えているのはプリッツである。
猫に限らず、大抵の動物にチョコレートは厳禁だ。
……魔物には関係無いが。
それを目の前で聞いたラオムは、僅かに戸惑ったように目を泳がせた。
折角ティエラが提案してくれたのだ。彼には今一わからないのだが、しかし。
たっぷり十秒ほど間を置いて、彼は重々しく言った。
「……無理だろう」
「にゃっ!?」
「小さすぎて狙いが付かん。お前の頭まで噛み砕いてしまったら困る」
「それは困りますね!」
ティエラが愛らしく小首をかしげ、どうしましょう、と唸り始める。口にはプリッツを銜えたままだ。足元には器用にもちゃんと開けられたプリッツの袋が落ちている。
どこから拾ってきたのだろうか。ちなみに味はトマトである。
「……そう、そうです!」
「何だ?」
「何もポッキーやプリッツである必要は無いです。大腿骨とかどうですか?」
「骨か」
一気にイベントの種類が狩りの類になるあたりが魔生物であった。
●河童と幼妻編
「初香、あーん」
「ふん」
思い切り顔を逸らした初香に、残念そうな顔で蓮が手を引く。持っていたポッキーを開けたばかりの袋に戻す。
「食べてくれないの?」
「うるさい。女々しいぞ」
「え、ええ?」
「大体……!」
初香は僅かに顔を赤くして立ち上がる。
「人の手で食べ物を食わされるほど子供ではないっ!!」
「!? え、いや」
「夫殿の馬鹿っ!」
そして障子を勢い良く開き、全速力で逃げて行った。
とてつもなく早い。
「えっ……ちょっ、そういう意味じゃないのに!」
慌てて追い駆けるが、既に初香は影かも形も見えない。
結局、追いついて説明するまでに数時間を要したのであった。
●シノブとエリオット編
(時系列:まだ落ちてません)
「……あ」
「何だ?」
「11月11日」
玉座でぐったりとしていたシノブは、ふと日付に気づいてはっとした。
部下達によるイメージ戦略の所為で、マントの中は割と際どい服装だ。その足元に跪いたエリオットがうっとりとふくらはぎに頬を摺り寄せている事については、もう諦めた。
悪魔だから仕方ない。
それに尽きる。
「……何の日?」
「ポッキーの日……って言ってもわかんないか」
「分かんねーけど。シノブがポッキーって言ったから今日はポッキー記念日」
「頭沸いてる……」
心底引いた目で見られても、エリオットはむしろ嬉しげである。悪魔だから仕方ない。
そうこうしているうちにゆっくりと靴まで脱がされそうになったので、とりあえず顔を蹴って逃げ出す。
「え、何で逃げんだよ」
「あのままじゃ足の指までしゃぶられるっ!!」
「何で分かっ――待てよ、シノブ!」
「待たんわああああっ!!」
結局捕まって言葉通りにされたのは言うまでもない。
悪魔だから、仕方ないのである。
●鴉天狗と女子高生妻編
「椛。口を」
「あーん」
「閉じろ」
「ん」
「そのまま停止」
「……んんっ」
反対側から食べて進むのかと思いきや、面倒そうにプリッツをぽきりと折ってそのまま口付ける。意味が無い、と抗議しようにも口を塞がれてはどうしようもない。
暫くそのままキスが続く。口の中に残っていたふやけたプリッツは最早味が無い。
「酷いですね……」
「そうか」
「というか、食べてないじゃないですか」
「食べた。お前の口の中にあったものを」
「それ、食べたうちに入るんですかね」
不服そうに眉を顰めた椛の口に、残っていたプリッツを押し込む。
「大体、意味がわからん」
「何がですか?」
「ぽっきーげーむとやらだ」
「ああ……多分、ハプニング的な……まあ宴会とかでの事でしょうけど、わーわー言ってる時は盛り上がるんじゃないですか」
「なら、要らないな」
「わっ! ……あのですね、いきなり抱き付かれるとびっくりしますよ。大体ここ、不安定なんですから」
「気にするな」
「落ちたら拾ってください」
「当たり前だ」
――と、高い木の上での会話である。
全然ポッキー食べてない話が大半なのは気にしない