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三匹の子猫(三つの猫話)  作者: 舟津湊


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3/3

【三匹目】蒼銀キャットのスキャットと夢の大冒険


欲しいものがあるわけじゃないけど……コンビニに欲しいものを探しに行く。


ベリーベリーヨーグルトスムージーと皮むきリンゴを買い、隣りの公園のベンチに腰かける。


「はぁ……眠れないな」


部屋に閉じこもりっぱなし。セロトニンが足りないからオキシトシンも足りなくなるのか。


ヘッドホンを被ってアプリを押そうとしたら。


「そんな難しいこと考えてたら、寝れないに決まってるじゃん」


足元から声が。見下ろすと、蒼銀の毛並みを持つ一匹の猫がまとわりついてきた。月に照らされ……かっこつけて表現すると、ミッドナイトブルー。長いシッポがくすぐったキモチいい。


「あなた、どこから来たの? 迷い猫?」

「迷っているのは君の方じゃないかな?」


私、猫と話せてる? ヘッドホン効果?……でもだな、出会って早々失礼な指摘をするヤツ。


その子はベンチにトンと上がり、皮むきリンゴの袋をクンクンしている。


「欲しいの?」

「べ、べつに……」


あ、我慢してる。


封を開け、ベンチの上に置いてあげた。

一瞬ためらったあと、子猫はシャクシャクと食べ始める。


「ありがとう」

平らげると律儀にお礼を述べた。お腹空いてたんだ。


「僕はね、BlueScat……ブルーでいいよ」

「そう、私は瞳。BluesCat?……ブルースを歌う猫?」

「うーん、近いけど、ちょっと違うな……それよっか、せっかく眠れないんなら、冒険に出かけよう」

「え、どうやって?」

「BlueScatっていう名のごとく。ボクのスキャットが、冒険への扉を開くのさ」


子猫はスゥっと息を吸い込み、スキャットをささやく。


♪ ニャニャナナニャーアーナアーー ンナナニャーナア ニャーオー…… ♪ 

  ジョン・コルトレーン Round Midnight


私たち、蒼闇色の空飛ぶ絨毯?に乗り、夜空を舞っている!?

「さあ瞳! 君が見たい夢を探しに行くんだ」

「夢を探す?」

「君は、夢を見ることに迷いがあるのさ」


絨毯が高度を落とし降り立ったのは、ニューヨークのダウンタウン?

街灯は暗く、道端の排水溝から湯気があがり、その向うからサックスの音色。


「孤独、憂い。それを楽しむことも、心の癒し」

「君、子猫のくせに達観してるね」

「茶化すなよ」

猫パンチを軽く食らったのと同時に絨毯が私たちを拾い上げた。


ブルーは口ずさむ。


♪ ニャニカーヲ ナナナーナ ムーンニャンヲニャーニナー …… ♪ 

  米津玄師 月を見ていた


降り立った場所、

空には青い満月。誰もいない廃校の校庭。佇み、空を見上げていたのは、幼馴染みの女の子。すごく大事な友だち。大切な思い出。


「忘れていた。でも確かにそこにある、心のアルバム……夢」

ブルーは、ほんとキザな猫だ。だけどそうかも知れないとも思う。


♪ ナッナナナー ナッニナャナー ニャニナッナーニャゴニャッーオー ……♪

  セロニアス・モンク Blue Monk 


スキャットが私達を送り込んだのは真四角な部屋。何と天井には、逆さまになったピアノと黒人ピアニスト! 陽気なメロディを奏でながら、ソフト帽を脱いで挨拶した。ホンキートンクにあわせてブルーは踊る。

「こんなヘンテコな世界だって楽しめるんだから!」

私の体も動き出す。


絨毯に運ばれたのは、帆船の上。


♪ ニャケナイニョルニ ニャゴゴゴ ニャミダモー フフフナゴガゴニャオーオーウーン!

  YOASOBI 夜に駆ける


大きな胴体を揺らしながら夜の海を進む木造船の甲板を私とブルーは駆け、マストによじ登り、ロープを使ってもう一本のマストに飛び移る。

手を滑らせ落下! このまま死のう、死にたい……その誘惑に駆られたとき、猫のシッポが私を絡めとり、絨毯に乗せた。


「生と死の疑似体験。君は何を感じたかニャ?」

「ニャ?」


♪ ミヤーオー ナナナー クルルルール プルルー ♪ 

  ドビュッシー 月の光 


静かな月夜の湖畔。ブルーに誘われ、白い教会に向かう。

小さな聖堂はガランとしていて、部屋の真ん中でピアノが自動演奏を奏でている。

その脇で月明かりに浮かんだのは……ベッド? 棺? どちらにも見える。

どっちでもいい。

とにかくそこに横たわりたかった。


気づくと、自分の部屋のベッドの中にいた。


蒼闇色のブランケットを一緒に被っているブルー。月光が彼の青銀の毛並みを照らす。


子猫はささやく。


さて。

そろそろ眠くなってきたかな?

ボクのこと、ちょっと話しておくね。

ボクはね、つかの間の安息と、永遠の安息を与える猫。

君はどっちの安息も選べるんだ。


今日のおしまいに、

あるいは、

人生のおしまいに、


全身を包んでくれる、

音楽を選ぶとしたら、

あるいは、

その音楽に選ばれるとしたら、

どんな曲を望む?


でもね、ほうら。


♪ ミャーーオー クルル ナーオー グルル ナーア ……♪

  (アドリブ)


君のささやくような口ずさみが、

君だけのメロディーを

君だけの物語を

紡ぎ始めたよ。


生まれてから耳にしてきた音楽と……僕のスキャットが溶け合い、ひとつのメロディーに。


さあ、優しい蒼闇に包まれて、眠れ。


夜明けまでの。

つかの間で、

永遠なる休息を。


……おやすみ。



  (了)

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