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第0話「長い幸福」
いつもの匂いを鼻に嗅ぐ。
金属と、もったりと混ざった油と脂が放つそれは、少女にはありふれた香気だ。
明け方、さっきまで夜に沈んでいた作業場は、開け放った入り口の光を取り入れ薄暗い。
中を闊歩する。作業机と棚の間、季節が進みひんやりとしてきた空気を切って進む。三方の壁、全部で六つある窓を押し上げ、鎧戸を開けた。水色に染まる外気が部屋を満たした。
光を取り入れ、いつもの全貌を露わにした工房に立ち会う。ほの明るく、ぼやぼやとした雰囲気を示した作業場では、あらゆる道具がまだ、どことなく寝ぼけ眼でいるように思える。
少女は改まった気持ちで息を吐くと、机、ゆうべ祖父に言われて途中で切り上げた作業の跡形を整理する。使用済みの紙やガラくずを机から除いて、箒で床を掃いた。
そのうちに日が差す。
東の窓から光線が覗く。
淡く黄色に埃を透かした光が、鈍色の工具と机を照らす。
棚の、多種の試薬を詰めた瓶とか缶とかがきらきらと輝くのを見て、少女は箒を掃く手を止めた。
机にがっしりと締結された万力に、肘を掛けてもたれる。
ふんわりと熱を湛えた朝日にその身を晒しながら、一日の始まりを目を細めて迎える。




