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王子さま


隣のセイリオス帝国からアトラス王国に嫁いできた母は、この国に嫁いで来れるくらいには、きょうだいが多い。

アトラス王国は酪農が盛んで、特産物もありそれなりに裕福ではあるが、セイリオス帝国に比べれば国力は大きくない。


「ナイジェル、ナイジェル!」

ナイジェル・ダヴェンポートは座り込んで摘んでいた花を束ね、よいしょと立ち上がった。


「ははうえ、どうしましたか?」

侍女がズボンについた土を払ってくれる。

ついでに花を預けて、駆けてきた母に手を伸ばした。


「あら泥だらけね、私の可愛い子。」

ナイジェルを抱き上げて、額にキスを落とした母は、その場でくるりと回ってにっこり微笑んだ。


「おかあさま、おなかにぼくのおとうとか、いもうとがいるのに、くるくるしちゃだめですよ!」

母を追いかけてきた護衛や侍女がうんうん頷くので、その姿に後押しされて、ナイジェルはぷくりと頬を膨らませ、怒ってみせる。


「えぇ、そうね。ナイジェルはもうお兄さまとして自覚があるなんて、素敵よ。」

きゅうっと抱きしめられて、頬がへにゃりと緩みそうになるが、慌てて気を引き締める。


「あいじゃっくおにいさまに、おてがみをもらったんです!ナイジェルはおにいさまになるなら、おかあさまをまもってあげなさいって!」

噛んでしまった。

母と年の離れた隣国に住む叔父は、ナイジェルが叔父上と呼ぶには幼いが、兄と慕うにはとても大人びていた。


「まぁ、生まれてくるあなたのきょうだいではなく、お母様を?」

「あかちゃんをうむのは、とってもたいへんだからねって。」

ナイジェルの言葉に、母が瞳をキラキラさせる。

「ナイジェルはアイザックお兄さまのこと、大好きよね?」

「はいっ!だいすきです!」


数ヶ月に一度、お互いの国を行き来するのだが、いつだってナイジェルにとってアイザックは優しく頼りになる兄だった。


「大きくなったら、あなたがあちらへ留学するのも良いけれど、アイザックに来てもらうのも良いかもしれないわね。」

「りゅうがく?」

ぎゅうっと抱きしめられ、きょとんとする。


「ナイジェルは一応、王太子になる予定だから、気軽に他国へ留学はさせられないかしら。」

「ふぅん……?」

地面に下ろされて、母を見上げればにっこりと微笑まれた。


「ナイジェルはお母様とずーっと一緒にいてねってお話よ。」

「はぁい。」

母はあんまり一緒にいてくれないよなぁと思いながらも、ナイジェルは母の綺麗な手をきゅっと握って、素直に返事をしてみせた。



幼少期はここまで

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