良いことばかりとは言えない
よその国のお話です
アイザック・マクヴェイには前世の記憶がある。
幸いなことに、そんな発言をしても変人扱いされない。
そういう事がままある、というのを国どころか、この『世界』が認めているのだ。
「それで、どうされたのですかお祖父様」
酷く複雑そうな顔をこちらに向けている先代皇帝はぐぅっと唸って、項垂れる。
「おじ……いや、アイザック、言っているが敬語はいらない。」
前世の記憶があることが判明、というか告白したのは、ほんの一時間前だ。
家庭教師からこの世界がそういうものだと、生前でも教わっていたので、せっかくだからと告げてみた。
「そうですか?記憶よりも肉体年齢に精神は引っ張られるので、抵抗はありませんけど?」
くすり、と笑うのは皇帝であった祖父に不敬かもしれないが、祖父にとってのアイザックの前世は、祖父だったりする。
「名前がいけない。いえ、悪いと言っているわけではありませんが!アイツがお祖父様のお名前をアイザックに付けようと言い出したのを止めていれば、少しはっ……。」
威厳のある先帝が台無しの狼狽えぶりで、アイザックは笑いを堪えるのが辛い。
祖父としての威厳より、孫のやんちゃ盛りだった前世の記憶が勝る。
「そんな姿見せたら父上が目を回しますよ、お祖父様。」
「……お祖父様はアレの記憶は?」
取り繕う事を止めたのか、5歳になる孫をお祖父様呼びする祖父に、少し呆れる。
「父上が生まれて数年で私も死んだだろう?あなたの腕に抱かれて、酷く居心地が悪そうにしていたね。」
「ご存知ないかもしれませんが、昔からあの子はお祖父様が大好きでしたから。」
自分の腕に移されて、へにょりと笑った幼い……父の記憶が甦り顔を覆う。
「うん、前世の記憶というのはとても曖昧ですね……。お祖父様、私こそ言わせて頂きますが、敬語は不要です。」
強い口調で言えば、視線がうろうろとさ迷って、子どものように小さく頷く。
「分かり……承知した。」
「威厳が形無しですよ、お祖父様。」
皇帝として培ったポーカーフェイスはどこにいったのだ。
前世の記憶が戻る前を思い返して、あぁと嘆く。
もしかしたら、こっちの方がマシかもしれない。
「威厳なんて、孫の前には欠片もなかった……?」
可笑しいな、己が彼の祖父であった時は、もう少し締まりのある顔をしていたと思ったが。
「お祖父様はしっかりお祖父様でしたよ。」
「……だから、敬語。」
キリッとした顔で言われるが、どうにも決まらない。教育方針を間違えたかな、と前世の自分を恨みたくなった。




