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私はヒロイン


にこりと優しい微笑みを向けられて、マリアはドキリとする。攻略対象であるジェイダよりも容姿が整っている、チェルシーの護衛。


チェルシーばかり素敵な男性に傅かれ、理不尽だと思っていたところだ。

もくろみ通り、マリアの勉強道具を投げ捨てるチェルシーに、口角が上がりそうになる。


残念なのは、勉強道具が噴水まで届かなかった事か。だが、あの護衛がマリアを憐れんで植え込みに入るように投げる力を調整してくれたと思えば、許せた。


「いやぁ、どうして私の……。」

悲しそうな声で植え込みに落ちた勉強道具を見たマリアに、最近側にいてくれるナイジェルが眉を寄せる。

「今、投げ捨てたのはチ、エディソン…の護衛だな。」

「隣にエディソン公爵令嬢も立ってい……。」


ジェイダが不快そうに言いかけて、言葉を飲み込む。チェルシーが偉そうにこちらに近付いて来たからだ。


「チェルシーさん、酷いです!どうしてこんなこと、するんですか!そんなに私が嫌いなんですか!」

涙混じりに訴えたマリアの声に人が集まってくる。

マリアとギャラリーの様子に、チェルシーが不快そうにパチンと扇を閉じた。


「まぁ、おかしな事をいうのね。それが貴女のものだと言う証拠はあるの?拾いもしないで。」

扇を振って傍らの少女に拾わせた。

「チェルシー様、マリアさんのお名前が書いてあります。」

確かチェルシーの取り巻きで、メイドもしているタチアナという生徒だ。

凄く嫌味な女だった気がするけれど、流石に私物を捨てるようなチェルシーに、批判的な様子だ。


「タチアナさん、どうか私にそれを返して下さい。」

祈るように手を組んで、お願いしながらホロリと涙を一粒溢す。

「へぇ、泣くほどなのに、教室に置き忘れるのね。」


タチアナからチェルシーが教科書とノートを取り上げ、ぱらぱらと捲り、くすりと笑う。

「こんな、ろくに使ってない勉強道具なんて、必要無いでしょう?」

周りに見えるように、ほぼ記載が無いノートのページをチェルシーが開けば、傍観者たちからクスクスと笑い声が聞こえた。


「エディソン、そんな風にマリアを晒し者にするのは、淑女として最低だと思う。」

「あら、アイザック様。成績が良いわけでも無い、平民あがりがの男爵令嬢もどきが、この!真っ白に近いノートを見て、なにも思いませんの?」


チェルシーの酷い言葉に、マリアは傷付いたように両手で顔を覆う。

「酷い……わたしっ、貴族の生活に慣れようと必死だからっ。」

ぐすんと鼻を啜ってみれば、誰かの手が優しく背中を撫でた。


「あらあらあら、言い訳がお粗末ね。ヘンウィック男爵に引き取られて、何年経つのかしら。一年や二年では無いと思ったわ。……そこの、ジェイダといったかしら。その娘が来て何年なの?」

「……八年です。」


躊躇いながらジェイダが答えれば、周囲がざわつく。まぁ、驚くのも無理は無いと思う。

幼い頃に貴族社会に入って、この天真爛漫さが無くならないなんて、奇跡に近いのだから。


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