悪役令嬢の仕事
生徒の居なくなった教室に立ったチェルシーは、扇を口元に当ててため息を吐く。
「聖女の私物を盗んで破損させる……が定番のひとつになるのだけれど。」
学年事の必須科目はあるものの、他は選択制で決められた単位を修得して進級となる。
「特定の教室はありませんから、私物は置きませんよね、普通は。」
一時間ほど前まで、この教室でマリアはナイジェルの隣で授業を受けていたので、一応とばかりに覗きに来ただけなのに。
「普通は勉強道具一式、忘れたりしないでしょ。どうして忘れるのかしら。認知症?」
「お嬢様、とりあえず今のうちだと思います!」
階段教室となっているが、机の中に荷物を入れられるタイプで、今日はこの教室を使う予定は無い。
「何、このほぼ開いた形跡が無い教科書、板書すら書かれていないノート……。」
取り出してぱらぱらと捲って呆れる。
ちなみにまだ放課後ではない。筆記具は使う筈だが。
「何と言うか、破損し甲斐が無いですね。」
「破損される前提でのフェイク?……そうね、破損は止めて、窓から投げ捨てる程度に。筆記具はこのままにしてあげましょう。」
窓を開ければ、植え込みと少し離れた所に噴水があった。
「ジョージ、噴水には入らないように、植え込みに投げ捨ててくれる?」
令嬢の筋力だと、植え込みまで届かず手前の道に落ちる。
「可能ですが、目撃されてしまいますよ?」
「それが目的だから良いのよ。早めに発見して貰って、聖女サマに騒いで貰わなきゃね。」
発見される目的ならば、道端に落ちても良いが、人に当たったら危ないからと説明すれば、タチアナが微妙な顔になった。
「お嬢様、悪役令嬢には向いてませんよね。」
「関係無い人を巻き込むのは違うでしょ。それに自分の手を汚さずに護衛にやらせるとか、人でなしっぽいじゃない?」
「うーん、手を汚すというほどでしょうか。……あぁ、ちょうどヘンウィック嬢がチラチラこちらを見ているので投げますね。」
何の躊躇いもなく、ジョージが窓からマリアの教科書とノートを投げ込む。
ついでにマリアに向かって、にっこりと微笑んで手まで振って見せる。
「サービス良すぎ。驚いているわね。」
どことなくマリアの頬が赤い気がする。
見目が良い男性ならば、誰でも良いのだろうなぁとチェルシーは少し呆れた。
「それより騒ぎ出す前に、彼女の所に行きましょう。思い切り嫌味を仰るのでしょう。」
ワクワク、キラキラしないで欲しい。語彙力は無いから、期待されるようなダメージは与えられないと思う。




