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聖女か否か

聖女さま(予定)

どぉん、と衝撃を受けて、頭を抱えた。

「っ!なんなのよ!」

痛む頭を押さえて顔を上げれば、こちらに子どもが走ってくる。


「マリアー、ごめん大丈夫かぁ?」

「すっごく痛そうな音したよね!」

くたびれた服を着た子どもたちは、言葉の割には心配そうな素振りはなくて、腹が立つ。

大きな木の実が側に落ちていた。


「ちょっと!こんなのぶつけて、どういうつもりなの!」

あれは中身がくりぬかれているので、見た目ほど硬くはないが、痛いものは痛い。

「えぇ……。マリア、そんなに怒らなくても良いだろ?大したことないじゃん!」

不満そうに言われて、腹が立つが呼ばれた名前を認識して、は?と声が上がる。


「マリア?私がマリア?何を言っているの?」

そんな、セカキミのヒロインみたいな名前、と眉を寄せる。

「えぇ!うっそ!頭可笑しくなっちゃった!」

「先生!大変だよ、マリアが変なこと言ってる!」

子どもたちが叫びながら建物の中へ入っていくのを眺めてから、ぶつけられた木の実を拾い上げる。

「……ボールの代わり?」


そもそも自分はなんでこれの中身がくりぬかれていることを知っているのだ。

頭がズキズキする。マリアという名前といい、目の前にある建物なんかは、スチルで見たやつだ。

(いやいやいやいや、いや!)


「私は()()ただの、マリアだ。」

感じたのは絶望だ。

普通、貴族に引き取られる直前に思い出すものじゃないのか。

貧乏暮らしを10歳になるまで続けなきゃいけないのはきつい。


日本の、それなりに不自由のない家庭で育って来たのに、好きなものも食べれない、欲しいものも自由に買えない環境なんてやめて欲しい。


「えー……マジでないわー。マリアの母親なんでこんなところに捨てたかなー、どうせなら父親の家の前に捨ててよねー。」

確か男爵家の跡取り息子と一晩の過ちというやつだった気がする。

ヒロインの出生に興味はなかったから、良く知らないけど。


それより、先生とやらを呼びに行ったくせに戻って来ない。

「ほんと、役に立たないのね。まぁ、治癒魔法も使えない大人が来たところで、どうしようもないけどね。」


『この世界で君と出会えたなら』

通称セカキミ。剣と魔法の世界でひと昔前、流行った乙女ゲーム。

ヒロインのマリアが聖女でイケメンを攻略するゲームだ。


やり込み要素は色々あったが、マリアはイケメンを攻略するのが楽しかったので、それ以外は特に覚えていない。

……転生前は、自分の名前が何であったかも。


そもそも、この世界とか言っちゃってるけど、この世界って何なのかな。


転生前の世界ってわけじゃないだろうしね。


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