ときめき?いいえ、動悸です。
「どーして、アイザックと話が出来ないのよっ!」
最近、貴族令息がマリアに近寄って来なくなったし、マリアが話しかけてもよそよそしい。
「マリア、皇弟殿下を気安く呼び捨てにしないでくれ。下手をしたら家が不敬で処罰を受ける。」
苦々しい声で言うジェイダを、マリアはじろりと睨んだ。
「そんなこと出来るわけないでしょ!ナイジェルが守ってくれるもの。」
ふん、と鼻を鳴らしつつ、ジェイダを見る。
ナイジェルとのデートイベントは終わったし、名前を出して置けば、ジェイダの嫉妬も煽れるだろう。
「セイリオス帝国の皇弟殿下だぞ?しかも、アイザック・セイリオス・マクヴェイ様だと分かって言っているのか?」
「はぁ?アイザックがセイリオス帝国?……ん?セイリオス?」
マリアは何だかんだでアイザックのフルネームは聞いたことがなかった。
ナイジェルが叔父上叔父上と言うから、てっきり国王の弟だと思ってたのだが、問題はそこでは無い。
「セイリオス帝国の殿下って、セカキミIIのラスボスじゃーん!難易度Sの攻略対象!」
ゲーム『この世界で君と出会えたなら』は、続編でいきなり戦闘がぶちこまれる。
セカキミIを完全クリアしたデータを読み込んで、IIを始めると、攻略対象となるキャラだ。
「マリア?何を言っているんだ?」
頭が可笑しい物を見るような目を向けてくるジェイダに、マリアはにやりと笑う。
「あのね、私は皇妃になるの。アイザックは私が救ってあげるわ!」
闇落ちした帝国の皇子を、聖女の力で救って結ばれる。
マリアはゲームで惜しくも攻略し損ねた。そのリベンジが出来るなんて、なんてラッキーなんだろう。
「……礼儀作法もろくに覚えない令嬢が、帝国の皇妃になんて、なれるわけが無いだろう。」
「もー、そこはお堅い女と違って、無邪気な私にときめくところでしょ!」
「ときめく……?動悸はするぞ。」
不敬でいつかマリアがばっさり斬られやしないか、我が家に不名誉な評価が付かないか、常にどきどきしている。
「もう、ジェイダってば。私にはアイザックとナイジェルがいるのよ。」
胸に手を当て、深いため息を吐くジェイダに、マリアは悪い気はしなくてふふっと笑う。
「せめて、おふたりには敬称を付けてくれ。殿下でも様でも良いから!」
「ふーん?そんなに親しげにするのが気になるの?仕方ないわね、忘れなければそうするわ!」
にまにまと笑って了承すれば、少しだけほっとした顔をするので、そんなに私のことが好きなのかとマリアは気分が良かった。




