結婚するの……?
アイザックが部屋を出るのをへらりと笑って見送り、あれ?っと我に返る。
「私、ナイジェル様と結婚するのですか……?」
「婚約者を続けるならね。嫌?」
にこ、と微笑むナイジェルを、胡乱な目で見てしまう。
「私ですよ?私にあるのは、実家の地位と財力!私にあるのは魔力だけですよ。正気ですか?」
「異世界転生者ってそんな感じなんだね。今まで結構、猫被ってただろう。」
この世界にも猫を被るって慣用句があるんだなぁ、と思う。
「いや、乙女ゲームの世界だし、可笑しくないのか。」
「君はよく自分の世界に入り込むよね。婚約はそんなに嫌かな。」
時々、しょっちゅう忘れるがここは乙女ゲームの世界で、本来ならば自分は断罪される悪役令嬢だから。
「殿下、私の事……断罪しないで下さいね。」
「何の為に、というかどういう理由で?」
ナイジェルがむっとしたような声を出す。
何か怒らせるような事を言っただろうか。
「あれだよね、私が聖女サマと恋仲になって、それに嫉妬した君が極悪非道な行為をするってやつ。」
「あ、あと、実家が不正な事をしてたり?」
マイルドな所で国費の横領とかだろう。
「していないだろう。私だって不貞はしていないし、君もヘンウィック嬢に嫌がらせをしていない。冤罪で人を断罪するような愚かな男だと思っているの?」
凄く怒っている。
でも、強制力とか魅了とか。
「……なんの為に叔父上がいらっしゃると思う?」
はぁ、とため息を吐いてアイザックの事を言うので、チェルシーは途端に安堵した。
「あ、大丈夫ですね!……多分?」
チェルシーは本来ならば、ナイジェルにめろめろだが、あんまりだし、どちらかというとアイザックに落ちそうだし。
「叔父上なら強制力とか、関係なさそうだろう。聖女サマが魅了を持っていたとしても、叔父上の方が上っぽいからね。」
「そう、あれは何でしょう……。魅了魔法では無さそうです。」
魅了魔法を知っているわけでは無いが、魅了される。
「叔父上の前世は皇帝だったからな。人心掌握はお手のものだ。たかが魅了に負けるわけがない。」
「ナイジェル様って本当にアイザック様の事がお好きですよね。」
アイザックを語るときのナイジェルはいつも得意気で、チェルシーはしみじみ言う。
「む……まぁ、な。弟妹が生まれるまでは、叔父上が兄弟のようなものだったし、幼い頃から前世の記憶があられたから、下手したら父より頼りになった!」
「国王陛下はお忙しいでしょうから、そこは比べてしまうと陛下がお気の毒ですよ。」
忙しくて構ってくれない父親より、身近な人間に親しみを覚えるのは良くある話だ。
それは異世界でも、王族でも変わらないのだと思う。……まぁ、アイザック様は規格外だが。




