記憶の話
誤字報告ありがとうございました。
目の前で紅茶を飲む姿を見ているだけで落ち着かない。隣に座るナイジェルは、待てをする犬のようだ。
「それで、結局アレをどうするつもりだ。魔力が高いから、そのままにするつもり?」
徹底的にマリアと話をしないアイザックだが、そもそもは、ナイジェルが誑かされないようにと王妃殿下の要請で留学して来たのだった。
「人として優れているならば、誰かしらに嫁いで貰うことも考えていましたが、正直……貴族社会には不要だと思っています。」
それでアイザックの名が出てたことは言わない。
「ええと、魔力が高い女性には……子どもを産む義務があるって。」
本当は女性が子どもを産む道具として扱われているようで、もやもやするが上手く言葉に出来ない。
「アレの性質を残すのは、後々凄く厄介だと思うよ。」
アイザックの後々との言葉が良く分からなくて、チラリとナイジェルを見る。
「マリアが子どもを残すと、その数世代後に、その記憶を持ったマリアが生まれる可能性があるんだ。」
「稀ではあるけれど……まぁ、私のような事例もあるからね。」
私のような事例、と言うのでついまじまじとアイザックを見つめてしまった。
「え?」
「前世の記憶、あるからね。」
自分を指差して、知らなかった?と首を傾げるので、チェルシーは思わず立ち上がる。
「ええぇ、皇弟殿下は前世の記憶をお持ちなのですか??」
「5代前の皇帝陛下で有られる。」
得意気なナイジェルがチェルシーには可愛く見えて、密かにときめく。
マジでアイザック様大好きだな、と微笑ましい。
「ただ、ヘンウィック嬢は異世界とはいえ、既に前世の記憶があるから、再び記憶を持ち合わせる可能性は未知数なんだ。」
「えっと、つまり……前前前世の記憶を持った記録は無いのですね。」
「そうなんだ……って、何でひとつ多かった?」
ナイジェルの突っ込みに、アイザックが笑う。
意外と笑い上戸なのかもしれない。
「お前たち、良い夫婦になれそうだね。少し安心した。」
「いえ、この婚約は聖女サマ対策なので、解決すれば解消になる筈です。」
無駄に喜ばせるのはよろしく無いので、チェルシーはきっぱり否定すれば、ナイジェルに腕を引かれた。
「なんだよ、チェルシーは私との結婚は嫌なのか?」
立ったままだったので、引かれた方向が悪かったのか、座った先はナイジェルの膝だ。
「ちょ、ちょちょっ!」
「私はチェルシーと居るのは、結構楽しいと思っているから、このまま結婚も良いと思ってたのに。」
「もの凄く皇弟殿下が笑いを堪えていますけどー!!」
現実逃避をしたくて思わず叫べば、ナイジェルは我に返った顔をした。
「お、叔父上、失礼致しました。」
「……うん、良いよ。ただ、エディソン嬢を解放して上げなさい、顔が真っ赤だ。」
「あ、ありがとうございます。あと、今さらですが、チェルシーとお呼び頂ければ嬉しいです。」
いそいそとナイジェルの膝から下りて、ついでとばかりにお願いすれば、そうと頷かれる。
「では、私もアイザックで良いよ。いずれ君がナイジェルの妻になることを願ってね。」
笑顔が控えめなのは圧を押さえている為か。
満面の笑みを向けられていたら、外堀っと叫んでいたので、ありがたかった。




