婚約者と
デートイベントは結局ナイジェルたちがカフェに入ってしまったので、追いかけるわけにもいかなくて、そのまま帰った。
「チェルシー。」
王城に王子妃教育の名目で訪れて、作戦会議に顔を出せば、深刻そうなナイジェルが居た。
「どうなさいましたか?」
「どうして邪魔をしてくれなかった……。」
デートイベントの事かと、直ぐに思い当たって、ナイジェルの表情に合わせ、チェルシーは真面目な顔で正面に腰を下ろした。
「何か、ございましたか。」
ナイジェルが言いたくなさそうにむっつりと口を噤むので、共に居たであろう護衛を見る。
「私がお話しても?」
声が震えている。彼はチェルシーの護衛と同じく、ナイジェルと年が近いが優秀なので、感情が出ているのは珍しい。
「簡潔に頼む。」
「はぁ。……あの聖女サマ、殿下に一緒に住みたいとアピールしてましたよ。」
そこまで好感度は高かっただろうか。
ゼロとは言わないが、男爵家での生活から救い出してくれるようには見えない。
「その時の殿下の顔と言ったらっ!」
「顔には出していないぞ。」
どうやら護衛は笑いを堪えているらしい。遠慮の無い関係なようで、微笑ましい。
「チェルシー、どうでも良い事を考えているだろう。」
「ぎくり。」
護衛と仲が良いと感じるのは、どうでも良い事とは違うが、話題の本質ではない。
「わざとらしく言わなくても良い。……躱すのは大変だったんだぞ。」
「でしょうねぇ。それ頷いていたら、攻略まっしぐらですもの。」
うんうんと頷くチェルシーに、ナイジェルはぐっと一度顎を引き、強い視線を向けて来た。
「それ……前世の記憶は不用意に触れてはならない、と言う不文律があるから、聞けなかったが、聞いても良いのか。」
「むしろどうして、聞かれないのかなぁとは思ってましたよ。」
ゲームとは違って聖女が重要視されていないから、それ程大ごとにならないだろうが、異世界転生者の情報はそれなりに重要な気がする。
「それはセイリオス帝国の建国の聖女が関係していてね……。確か、異世界転生者の記憶に触れると、えぇと……クロレキシ?に関わって、場合によっては発狂する危険がある?と言うから。」
深刻そうに告げるナイジェルに、チェルシーは我が身を思い返して沈黙し、数秒後には呻き声を漏らした。
「それ、分かる。めっちゃ、分かる。建国の聖女様マジ聖女様だわ。」
異世界転生した先が乙女ゲームの世界と判断出来るのは、前世で多少なりとも黒歴史がありそうだ。
そもそも、異世界転生と理解する時点で、お察しというやつだ。
「チェルシー、大丈夫か?口調がとても愉快な事になっているぞ。」
「はっ!……おほほほほっ、失礼致しましたわっ。」
やっぱり何か可笑しいが、そんなチェルシーにナイジェルは楽しそうに、そうかと頷くだけだった。




