ポーカーフェイス
は仕事をしない
ナイジェルからのいまだに男女の距離感というものを学習出来ない、という言葉もそこそこ酷いと思う。
本当の事だけど。
「マリア、叔父上に気安く話しかけるな。」
舌打ちしそうな顔でナイジェルがマリアを睨む。
それを受けてマリアが瞳を潤ませ、ナイジェルとアイザックを見上げた。
「ひどぉい。ナイジェル、どうしてそんな意地悪いうのぉ……。」
チラチラとアイザックを見ながら言うマリアに、舌打ちが聞こえてきた。ちなみにナイジェルでは無い。
「ほら、チェルシー様が舌打ちしたぁ!」
「していませんけど?」
地を這うような声が出た。
「舌打ちしたのは私の護衛だよ。貴族令嬢で舌打ちをする子がいたら……ふ、ふふっ、それはとても元気な子だね。」
アイザックが楽しそうに笑いを堪える姿に、チェルシーはちょっと舌打ちしてみようかと血迷った思考になる。
「分かる。」
隣でナイジェルに頷かれて、声に出したかな?とむっと口を結ぶ。
「君は結構顔に出るから。」
ひそりと囁かれて、それは仕方がないと思う。前世の記憶が邪魔をして、貴族令嬢としての仮面が仕事をしない自覚はあった。
「えー、ナイジェルはチェルシー様と仲良いのぉ?」
アイザックに何を話し掛けても護衛が邪魔をするので、話し掛けるのは諦めたらしい。
「婚約者として普通だよ。」
「でも、でも!距離感って言うなら、チェルシー様はナイジェルに近すぎだと思うの!はしたないってチェルシー様がよく怒るでしょ?」
マリアがナイジェルの手を握って、頬を膨らませるので、ぐっと腹に力を入れる。
「そのような仕草するのは、貴族では5歳児位までですよ。先日も注意されたと思いますが?」
しれっとタチアナが嫌味を言う。
ちなみにタチアナは子爵家の三女で、一応男爵家のマリアよりは身分は上だ。
「あー!身分身分って言うのに、チェルシー様のメイドさんは、えらそーなんだねっ。」
「偉そう?」
タチアナはメイドではなく、侍女だしどこも偉そうでは無いと思うので、地味に腹が立つ。
「少なくとも、親しくもない年上の方に、その話し方は無いと思いますよ。身分をどうこう言う前に。」
チェルシーがじろりとマリアを睨み付けると、怯えたような顔になる。
「ほらぁ……すぐ怒る。」
ナイジェルに助けを求めるような視線を向けるマリアに、当のナイジェルはスンッと表情を消した。
「……ナイジェルは、もう少し腹芸というものを身につけた方が良いね。」
アイザックから咎められ、目蓋を伏せるナイジェル。ふたりをマリアが興味深そうに見比べて、にんまりと笑みを浮かべたようだった。




