夢がない
学園では相変わらずマリアが高位貴族に纏わりついている。
ゲームのように男性陣が聖女にメロメロ、という訳ではなく、どちらかというと監視か。
「それはそれで、夢が無い……。」
キャラ、では無いけれど、知っているゲームのキャラたちが目の前で動いているのを見ると、少し期待するのは許してほしい。
「夢をみたいの?」
耳元でやたら良い声で囁かれて、チェルシーはバッと勢いを付けて振り向く。
声の主を見て、座り込みそうになるのを支えられた。
「じょーじっ、仕事してっ!」
護る筈の令嬢に男性を気安く近付けないで欲しい。心臓に悪いから。
「ごめんね、面白そうだから控えて貰ったんだ。」
にこりと微笑む顔は、どことなく見覚えがある。
「アイザック・マクヴェイだ。よろしく、エディソン嬢。」
しっかり立たせて貰いつつ、自己紹介をされたので、慌ててカーテシーをする。
「チェルシー・エディソンと申します。支えて頂きありがとうございます。」
帝国の王子殿下相手では、それは邪魔など出来まい。
「驚かせてごめんね。顔を上げて。君がナイジェルの婚約者で合ってたかな?」
恐々と身を起こせば、アイザックの背後からナイジェルが駆けてくるのが見える。
「おっ、叔父上っ!」
あっという間に駆けてきて、そのままガバッと抱きつこうとしたが、騎士に襟首を掴まれた。
「お前……一応、その子は私の甥っ子だぞ。」
「そうですね。」
しらっと答えた騎士は、ぱっとナイジェルを放すと、直ぐにアイザックの傍に控えた。
「叔父上、ご無沙汰しています!」
気にしない所を見ると慣れているのか。
ナイジェルが尻尾をぶんぶん振る子犬のようで、少しだけ可愛らしく感じる。
「うん、一週間振りだけれどね。元気そうだね。」
「おじうえってどういうことー?」
後からパタパタと足音を立ててマリアがやってきて、ナイジェルの腕に絡み付いた。
アイザックはナイジェルと年齢が同じ位にしか見えないので、疑問を持つのも不思議ではないが。
「ナイジェル。結婚する前から妾がいるなんて、私に説教されたいのかな?」
「妾?……あぁ、ヘンウィック嬢ですか。違いますよ。いまだに男女の距離感というものを学習出来ないようで……。」
腕をするりと抜いて、間に己の護衛を置くとナイジェルは困ったように言う。
「いっつも、チェルシー様は貴族令嬢としてはしたないって苛めるです!私が孤児院出身で何も知らないからって!」
「え?知らんけど……。」
孤児院出身とまでは知らなくて、思わずぼそりと呟いて、さっと扇で口元を隠す。
聞こえたらしいアイザックが、わずかに驚いたように目を見開いていた。




