焦点距離
君が置いていった写真はまだ
部屋の隅で埃を被ってる
「さよなら」の一言もなかった別れは
ただ僕を突き放したかっただけかな
君だけが剥がれ落ちて舞い上がったかのよう
この頃ベランダで煙草を吸う夜も
なんだかほろ苦い
今でも君が後ろから
抱きついてくれるんじゃないかと
振り返ってしまう
まだあの柔らかな体温が残っているから
流行りの曲が流れるたび
君の姿がフラッシュバックする
そんなことあるわけないって
自分に言い聞かせては
ため息で飛び交うノイズを塗りつぶす
もう君じゃない誰かと笑える日が
いつか来ることを願うけれど
ふと隣を歩く君の幻に
手を伸ばしてしまう
離れようとすればするほど
それは鮮明にうつる
そうか
僕は焦点の内側にいる
僕の目というレンズで
ずっと虚像を見つめていた




