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第27章:「予想外の訪問」

夕暮れの太陽が低く空にかかり、街並みをやわらかな橙色に染めていた。

アケミはポケットにスマホをしまったまま、学校での出来事を思い返しながら帰路についていた。


ちょうど荷物をカバンに詰め終えようとしたその時、いつもの軽い調子でコウジが声をかけてきたのだ。


「おーい、アケミ。」

片手を軽く上げながら、彼はにやりと笑う。

「明日さ、みんなで出かけるんだけど、来る?」


「……“みんな”?」

反射的にそう聞き返すアケミの声には、わずかな警戒が滲んでいた。


「まあ、ちょっとした集まりって感じ?友達同士のな。」

コウジは意味ありげにウインクする。

「LINE教えてくれよ。あとで詳細送るわ。」


わずかな違和感を覚えながらも、アケミは自分の連絡先を伝えた。

コウジがこうして事前に何かを企画するのは珍しい。

ましてや「集まり」なんて言葉を使うなど、なおさらだ。


それから三十分も経たないうちに、メッセージが届いた。


――コウジからのメッセージ

『場所送るわ。土曜の昼12時な。あと、水着と着替え持ってこい。黒い門が開いてるから、そこから入れ。』


あまりにも簡潔で、妙に軽い文面。

どこか引っかかるものを感じつつも、アケミは返信せず、ただスマホをしまって小さく息を吐いた。


やがて家に着くと、キッチンから母の声が飛んできた。


「アケミ、おかえり。ちょうどいいところよ、ご飯できてるから座って。」


食卓には、白いご飯に衣のサクサクしたフライ、そしてきゅうりのさっぱりとした和え物が並んでいた。

特別な料理ではない。けれど、どこか心を落ち着かせる家庭の匂いがそこにはあった。


アケミは静かに席につき、黙々と食べ始める。

向かいに座った母はエプロンを外しながら、優しく微笑んでいた。


だがその視線の奥に、ほんのわずかな変化があることに彼は気づく。

フォークでご飯を軽く混ぜながら、じっとこちらを見つめるその表情には、どこか心配そうな色が滲んでいた。


「……どうしたの?」

アケミは単刀直入に尋ねた。


「最近、少し静かすぎる気がして。」

母は柔らかい声で答える。

「なんだか……遠くにいるみたいで。大きくなったとはいえ、あなたはまだ私の子供よ?」


アケミは一瞬だけ視線を逸らし、それからため息をついた。


「今週末、出かけるんだ。」

「コウジに誘われて。“みんな”でって。」


「友達との集まり?」

「……たぶん。」


「女の子も来るのかしら?」


「……来ると思う。」


母はくすっと笑い、少しだけいたずらっぽい表情を見せた。


「いいじゃない。ちゃんと外に出て、人と関わるのは大事よ。」

「あなた、時々全部一人で抱え込んでるみたいに見えるもの。」


「別に……そういうわけじゃない。」

アケミはぼそりと呟く。

「ただ……深く関わりすぎると、面倒なことに巻き込まれそうで。」


「それは“怖い”ってことね。」

母は穏やかに言った。

「でも、それも成長の一部よ。」


それ以上、アケミは何も言わなかった。

ただ黙って食事を続ける。

しかしその言葉は、確かに心のどこかに残っていた。


――その週の間ずっと、彼の頭からそのことは離れなかった。

コウジのことを完全に信用できないわけではない。

同じクラスで、男同士の友人でもある。

それでも――何かが引っかかっていた。


(……気のせい、か。)

(そうだ。ただの思い過ごしだろ。)


そう自分に言い聞かせながらも、不安は消えなかった。


そして土曜日。


三度目の確認で、水着、タオル、着替えをカバンに詰めたことを確かめると、アケミは家を出た。


指定された住所は、中心部から少し離れた住宅街にあった。

そこには大きくて新しい家々が並んでいる。


通りは静かだった。

遠くを走るトラックの音と、鳥のさえずりだけが空気を満たしている。


やがて彼の前に現れたのは、二階建ての大きな家。

白い壁に、高い黒い門。


――メッセージの通り、門はわずかに開いていた。


「……ここ、か?」

スマホで場所を確認する。間違いない。


ゆっくりと門を押すと、かすかに軋む音が響いた。

中には石畳の小道があり、手入れの行き届いた植木と、半月型の噴水が目に入る。


玄関の前に立ち、インターホンを押した。


――チリン、と小さな音。


しばらく待つ。

だが、誰も出てこない。


もう一度押そうとした、その瞬間。


――カチャ。


扉が、ひとりでに開いた。


「……え?」

アケミは思わず声を漏らす。


中からは物音一つ聞こえない。

音楽も、笑い声も、何もない。


慎重に中へ足を踏み入れる。


広々とした室内。

明るい大理石の床、螺旋階段、整えられた家具。

だが――人の気配がまるでなかった。


小さなテーブルの上には、きれいに畳まれたタオルとウォーターサーバー。


アケミは椅子に腰を下ろし、入口の方を見つめる。


「……おかしいだろ。」

小さく呟いた。

「“みんな”って話じゃなかったのかよ……。」


静寂が、じわじわと空間を満たしていく。


数分が過ぎた。

誰も来ない。


スマホを取り出し、コウジに連絡しようとした、その時――


階段の上から、足音が響いた。


コツ、コツ、とゆっくり降りてくる音。


そして――現れた。


アリサだった。


裸足のまま、気だるげな表情で階段を降りてくる。

その身にまとっているのは、黒いビキニ。


視線を逸らすことすらできなかった。

体のラインを強調するトップ。

歩くたびにわずかにずれるショートパンツ。

高い位置で結ばれた金髪のポニーテール。

そして、こちらを見下ろす蜂蜜色の瞳。


まるで、すべてが当然だと言わんばかりに。


「いつからいたの?」

アリサは口元に笑みを浮かべながら問いかけた。


アケミは勢いよく立ち上がる。

椅子が音を立てて揺れた。


「……は?」


混乱で頭が真っ白になる。


「なに、これ……?」


かろうじて絞り出した言葉は、それだけだった。

こんにちは、えへへ。

犬ロシアです。


長い間、ほんとうに――ほんとうに更新がなくてごめんなさい。

いろいろなことがあって、なかなか書くことができませんでした。


でも、こうして戻ってくることができました。


これからは、できるだけコンスタントに更新していきたいと思っています。

またこの物語を、皆さんに楽しんでもらえたら嬉しいです。


これからも、よろしくお願いします。

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