6 悪魔の戦い方
「ふぃ〜〜〜………、」
スキンヘッドの男が、森にいた。
「ふぃ〜ふぃふぃふぃ〜〜……」
下手くそな口笛を吹きながら。
「ふぃふぃ〜〜……ふぅ、
クソったれ悪魔をぶち殺すと気分がアガるゥ〜〜♪……ふぃ〜〜〜」
男の足元には、2つの死体が転がっていた。
死体の額には、角が生えていたが、2つとも折られている。
「……貴様か、アンドゥとリラを殺したのは。」
そこに、緑髪、角の生えた男が現れた。
「んぉ〜〜??新手じゃねえかよぉ〜、おい。
……しかも、強いなお前。」
「俺の名は『蝋燭のクライアス』、貴様も名乗れ。」
「悪魔狩り、『口笛のマウス・キシャエル』だ…。」
「口笛って…そのまんまね…。」
緑髪の男の後ろから、少女が顔を覗かせた。
「……?なんで人間の女が悪魔に…いや、ちげえか、」
そう言うと、スキンヘッドの男…マウスは懐からモノクルを取り出し、少女を見る。
「……!!おぉ、淫魔…!!やっぱり悪魔をぶち殺すと良いことが起きる…!レアモンじゃねえか!」
「レア物…?」
マウスは、品定めするように、モノクル越しに少女を見つめて……
「……よし、剥製決定!!コレクション23体目だぜ!ふぃ〜〜♪」
「コレクションって……まさか。」
「下級16体、中級5体、上級1体に、淫魔のガキなんて…ふぃ〜〜♪テンションアガるなぁ〜〜…♪」
男は、恍惚とした顔で天を仰ぎ、再度下手くそな口笛を始めた。
「……おっと、無視して悪かったな、えーっと、クライアスだっけ?じゃあ戦るか?」
「……下衆めが、いいだろう、戦ろう。」
そこまで話すと、マウスは腰から、2本の剣を抜き出した。
「…よく見たらお前ェ〜…上級悪魔かよ、27体目に決定だぜ…♪なんて吉日なんだ今日は…ふぃふぃ〜〜…♪」
「来い、マウス・キシャエル。」
『口笛のマウス・キシャエル』と
『蝋燭のクライアス』の戦いが始まった。
「【陽炎】。」
クライアスの姿が、2つ、3つと重なる。
「…!ほう、おもしれぇ…ふぃ〜♪
それがお前の能力か…♪」
3つのクライアスが、キシャエルを囲み、同時に攻撃を仕掛けた。
「ふぃふぃふぃ〜〜ふぃ〜〜♪♪
……そこだッ!」
マウスは、後ろにいたクライアスに反撃。
それ以外のクライアスは、マウスに触れた瞬間に煙の様に消えた。
反撃を受けたクライアスは、切りかかった剣でそのまま防御、胸に剣が触れる前に受け止めた。
「………。」
「なんでバレた!!って気分だろォ〜〜♪教えてやらね〜けどなァ〜♪♪ふぃぃ〜〜ふぃ〜♪」
クライアスは、マウスのもう片手に持つ剣での攻撃をバックステップで回避。
そのまま、木の陰に隠れた。
「お、おいおいおい…淫魔のガキ置いて逃げんのかァ?」
「【陽炎】」
次の瞬間、木の陰から6体のクライアスが姿を表した。
「おお、そういうこと♪」
6体のクライアスは、再度マウスを囲み、攻撃。
「…ふぃぃ〜〜♪んッん〜〜♪そこッ!」
マウスが上に剣を突き上げた。
上から奇襲を仕掛けた7体目のクライアスが、身を翻し剣を回避。着地に乗じて再度攻撃。
だがその剣はマウスに届かず、マウスのもう片方の剣により叩き落とされた。
「相性悪いな〜♪お前、俺と歌うには相性悪いぜェ〜♪♪」
クライアスが攻撃を仕掛るが、マウスは難なくいなす。
そんな状況が続いた。
レーヴはただそれを見ており、手を出すことは出来なかった。
(…あのマウスとかいう男、今の私じゃ勝てないわね。
手を出したらクライアスの攻撃の合間にでも殺される……。)
そう思った時であった。
〈レーヴ、聞こえるか?〉
脳内にクライアスの声が響いた。
(…!?何、今の、幻聴?)
〈……聞こえはするが、喋れないか。
これは【静話】という技術だ。今はできなくても、まあいい。〉
どうやら、戦いの合間にレーヴの脳内に話しかけているらしい。
器用なことだ、実は結構余裕なのかもしれない。
〈あの男、マウスがどうやって俺の本体を見抜いているか、判るか?〉
(……からくりは口笛、アイツが口笛を吹くたびに、私の核が震えるわ。)
〈アイツは口笛に魔力を乗せ、エコーのように俺達の位置を把握しているんだ。
俺の能力では実体のない分身を作り出すことしかできないからな。〉
なるほど、つまり、
クライアスが分身して奇襲
↓
マウスが口笛で本体を見抜く
↓
一度引き、再度奇襲
を繰り返しているわけだ。
とはいえ、これをいつまでも続けているわけにはいかない。
奇襲を繰り返すクライアスより、奇襲待ちをしているマウスの方が体力の減りは遅い。
それに、マウスはまだ手札を出し切っていない様子だ。
〈俺の能力は実体のない分身を作り出すのみ、ならばどうする?〉
(どうするって…分身はやめて真っ向勝負に挑むとか…?)
〈武器の能力を使う。〉
武器の能力。
そう言えば、クライアスの武器には膨大な魔力が封じ込められていたのを思い出した。
「おいおいおい…いい加減やり方変えろよォ〜〜?ふぃ〜ふぃふぃ〜♪」
クライアスの姿は2つ。
上にもクライアスの姿はない。
「だぁから無駄だって、いい加減判れよ…?ふぃふぃふぃ〜♪」
マウスが口笛を吹き、左右から攻めるクライアスのうち、左に攻撃を仕掛ける。
クライアスは回避せず、胸、核の位置に攻撃を受けた。
(なっ…!?)
次の瞬間、クライアスは煙のように消えた。
そして、右のクライアスの剣がマウスの背中をなぞった。
「………ぐァはッ…!!
位置変えかよ…!クールじゃねえか…!」
マウスが鮮血を口にしながら。
「お前の剣の能力か…!いいね、ますます…ゴフッ…!欲しくなった!
…お前がそこまで出してくれんならァ…俺も…武器の能力ァ…出さなきゃな…!」
マウスは、背骨を袈裟斬りにされている。
下半身に力が入らず、その場に崩れるように倒れ込んだ。
「……終わったの?」
「いいや、まだだ、悪魔狩りは一度では死なん。」
クライアスがそう言った瞬間、マウスの周りに光が立ち昇る。
『悪魔を狩るものよ、今こそ再び立ち上がる刻。月の女神パルの名において、汝に力を与えん。』
【神々の回復】
どこからか、声と詠唱が聞こえたと思えば、うつぶせに倒れたマウスの背中の傷が消えている。
「………………ふぃ〜〜〜〜♪♪」
マウスは事もなげに立ち上がった。
「あぶねえあぶねえ…死ぬかと…いや、死んだのか。」
「神々の回復は初めてのようだな。」
「あぁ〜…今まで死んだことはねえ、が、存外に良いものだな。」
マウスは自分の身体を確認するように、肩を回したり、首を鳴らしたりしている。
「い…今のは何?クライアス。」
「………悪魔狩りは、神々に愛されている。
『天神・悪魔狩り』の筆頭であったパルの愛情により、一度だけ死を拒絶することができる。」
なんだそれ、ズルい。
そう思った矢先、マウスがクライアスに飛び掛かった。
「ふぃ〜〜♪♪こうなりゃもう!ぜぇ〜〜ったいに絶対に絶対に絶対に絶対に!!お前を俺のコレクションにしてやるぜェ!!」
「先ずは剣の能力を使ってみてから言え。」
「それもそうだなァ!!」
双方が剣を交わしながら、クライアスは大量の分身を作り出し、マウスを囲んだ。
「【陽炎】」
一瞬、マウスの口元が歪んだ。
「【劣等種!殲滅!極悪!黄金波】ァァ!!!」
マウスが、両の剣を掲げ、そう叫んだ。
次の瞬間、マウスの周囲に、黄金の「壁」が出来た。
壁ではない、魔力の波だ。
波ではない、殺意の籠もった「攻撃」だ。
攻撃はクライアスに直撃。
クライアスの分身は一瞬にして煙と化し、本体も同時に吹き飛ばされた。
「────ッ!ぐッ……!」
クライアスは背面の岩に叩きつけられ、岩には亀裂が入り、砕けた。
──数分後、両手脚が砕けたクライアスの前に、マウスが現れた。
「……はァッ…はァッ……」
息を切らしていたのは、マウスだった。
「はァッ………ふぃ…♪…………ぅ゛…ゲホッ…ガフッ……」
「……随分と苦しそうだな。」
「はァ〜……はァ〜……劣等種殲滅…極悪黄金波は、一度きりの大技だ……。
一度使えば…本人の生命力を引き換えに莫大な力を……。」
「…俺をコレクションにするのではなかったか?」
「そう、そうだ、それが…この話のミソだ。
確かに俺は、このままじゃ衰弱して、俺の剣の能力に殺されるが……、俺はコイツを持ってる。」
マウスが懐から小瓶を取り出した。
「回復薬だ…、高くて多くは買えねぇが、有ると無いとでは生存率が違う……。
俺はコイツを飲んで、ゆっくりお前の核を壊して、コレクションにしてやるんだ……。」
マウスが小瓶の栓を抜こうとした…その時。
小瓶が割れた。
「……ッ!!!!???????
………??????……………!??????????
…ッはッ………………!!!????」
マウスが、割れて中身が飛び散ったポーションを見る。
ポーションは土に染み込み、染み込んだ土からは鮮やかな花が咲いた。
「………ふハッ…それでいい、レーヴ。」
クライアスが笑いながら眼を向ける。
マウスも、恐る恐る眼を向ける。
そこには、【火球】撃ち終えた、息を切らしたレーヴが居た。
「ほんとッ……死ぬかと思ったわ…ッ…
クライアス…ッあなたが逃げろって…ッ言わなかったらッ……はァッ…死んでたかも…ッ。」
「こッのッ……!!クソガキがァァ!!!」
最期の力を振り絞り、マウスがレーヴに斬りかかる、が。
マウスの攻撃は、直前で入れ替わったクライアスの分身に当たり、煙に包まれた。
「…分身とガキの入れ替え…ッ
自分だけじゃねえのか…入れ替えれんのは…ッ…。」
「クソったれ…悪魔……がッ…………。」
マウスは、崩れるように倒れ込み、そして起き上がることはなかった。
「……今度こそ、終わったのね…。」
「ああ……すまないが、レーヴ。
両手脚の骨が折れててな…背負えるか?」
口笛のマウスと蝋燭のクライアスの戦いは、レーヴの助力により幕を閉じた。




