5 悪魔の少年
「すっっっっっげえ馬鹿だね……キミ…」
初対面での言葉だった
正直、自分でも馬鹿をやったと思っているから言い返せなかった。
「舐めてかかって、ばっちり負けるって…どういうギャグ?」
言い過ぎだと思う。
流石に何かを言い返そうとしたが、口が震えてるし、腰も抜けてるし……
とりあえず、肩を貸してもらった。
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「俺はカイ、お前は?」
「私はレーヴ……貴方、種族は?」
「デーモンだよ、下位だけどな。」
デーモン、
最もありふれた悪魔。
悪魔といえばデーモン、
デーモンといえば悪魔、
下位種、中位種、上位種の三種類存在する。
9年前の大悪魔狩りでは、その数により人間に多くの被害を出したが、現在は壊滅的に数が少ない。
「そう…私は淫魔よ。」
「サキュバス?すげえ、初めて見たぜ。」
自己紹介混じりの、他愛もない会話を交わしながら、レーヴはカイの肩を借りて歩く。
「…所で、これは何処に向かってるの?」
「ああ、俺の…っていうか、俺たちの家だよ。」
「……“たち”?」
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「おーし、ここだ、ここ。」
連れてこられたのは、ただの断崖だった。
「親父!ただいま!開けてくれ!」
カイが岩肌に向かってそう叫ぶと、霧のように岩が消え、扉が現れた。
扉を内側から開いたのは、顔に大きな傷をつけた大柄の男…
いや、悪魔だった。欠けているが、角が生えていた。
「カイ…!大きい声を出さなくても扉は現れるって、いつも
言っているだろう…!」
「ごめんごめん…それより、生き残り見つけてきたぜ!」
そう言うと、大柄の悪魔はレーヴの方を向いた。
「何?おお…お嬢ちゃん、サキュバスだな?」
「ええ…レーヴよ、よろしく。
私が淫魔だってわかるのね。」
「俺はガイウス、そりゃあな、お嬢ちゃんは俺の昔の主人に似てるからな。」
「…貴方の昔の主人って?」
「ああ、リーベル様だ。」
その言葉を聞き、レーヴは目を見開いた。
そこまで聞き覚えのある言葉ではないのに…何故…?
胸のざわめきが抑えられない。
「…おい、嬢ちゃん?大丈夫か?」
ガイウスが心配そうに覗き込む。
「…ええ、大丈夫。」
「そうか、とりあえず、立ち話もなんだし、中に入りな。」
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ガイウスは、9年前の大悪魔狩りの生き残りだった。
9年前、盗みに来た人間の賊を追いかけて城外まで出ている間に、
人間に攻め入られ、目の前でリーベルの国が破滅したらしい。
ガイウスはカイの頭を撫でながら言う。
「あんときゃ大変だった。何とか妻とこいつと一緒に逃げたんだが、
もう少しってところで妻が矢に貫かれてな…」
「それは…大変だったわね。」
カイ達の”家”は、小さな火口に作られた村だった。
総勢、約35人、半数以上が老人と子供。
戦えるような人間は至極、少ない。
しかし、村の周りには魔法障壁が施されており、
仮に攻撃を受けても、傷つくことはない。
その魔法を施したのは…
「おい、ガイウス、定例会議の時間だ。来い。」
そう言ってガイウスを連れて行こうとする男。
緑の長い髪に、鋭い目つき、腰に据えた剣には
鞘越しでもわかるほどに魔力が込められている。
この男、旧リーベル軍8番隊長。
蝋燭のクライアスが、村を守る魔法障壁を施したとされている。
「ああ、クライアスさん。
息子が外からサキュバスの女の子を連れてきてね、ちょっと話をしていたところです。」
クライアスがレーヴを見る。
「…そうか、ここは外に比べれば安全だ。
安心して過ごすといい。」
クライアスはそう言うと、ガイウスと共にその場を後にした。
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「…レーヴ、これからどうするつもりなんだ?」
カイがレーヴに話しかける。
「どう…って?」
「お前……ずっと外にいたんだろ?
ちょっと休んだら…出て行っちゃうのか?」
カイは心配そうにそう言いながら、レーヴを覗き込む。
「……そうね、また外に出るのもいいかもしれないわ。
けど、また今日みたいに危ない目に遭うのは嫌。
しばらくはここで過ごさせてもらうかもしれないわね。」
「……そっか。」
そう言って、レーヴに背を向けたカイの姿は、どことなく
嬉しそうだった。
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……奴隷から逃げ出して二日目、やっと定住地を見つけることができた。
カイの話によると、どうやら最近だと悪魔の殺し方を知らない人間の方が少ないらしい。
ここには強い悪魔がいる、何かあっても、逃げ込めば助けてくれるだろう。
それに……ガイウスとクライアスには何故か胸騒ぎを覚える。
そのことについても知る必要があるだろう。
……”国”という大きな悪魔のコミュニティに居た者たちだ。
もしかしたら、自分の出生について知れるかもしれない。
……というか、今日はもう寝よう……。
これ以上難しいことは、明日考えれば…………
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レーヴの寝顔は、普通の少女のように安らかであった。




