4 悪魔の少年
「すっっっっっげえ馬鹿だね……キミ…」
初対面での言葉だった
正直、自分でも馬鹿をやったと思っているから言い返せなかった。
「舐めてかかって、ばっちり負けるって…どういうギャグ?」
言い過ぎだと思う。
流石に何かを言い返そうとしたが、口が震えてるし、腰も抜けてるし……
とりあえず、肩を貸してもらった。
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「俺はカイ、お前は?」
「私はレーヴ……貴方、種族は?」
「デーモンだよ、下位だけどな。」
デーモン、
最もありふれた悪魔。
悪魔といえばデーモン、
デーモンといえば悪魔、
下位種、中位種、上位種の三種類存在する。
9年前の大悪魔狩りでは、その数により人間に多くの被害を出したが、現在は壊滅的に数が少ない。
「そう…私は淫魔よ。」
「サキュバス?すげえ、初めて見たぜ。」
自己紹介混じりの、他愛もない会話を交わしながら、レーヴはカイの肩を借りて歩く。
「…所で、これは何処に向かってるの?」
「ああ、俺の…っていうか、俺たちの家だよ。」
「……“たち”?」
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「おーし、ここだ、ここ。」
連れてこられたのは、ただの断崖だった。
「親父!ただいま!開けてくれ!」
カイが岩肌に向かってそう叫ぶと、霧のように岩が消え、扉が現れた。
扉を内側から開いたのは、顔に大きな傷をつけた大柄の男…
いや、悪魔だった。欠けているが、角が生えていた。
「カイ…!大きい声を出さなくても扉は現れるって、いつも言っているだろう…!」
「ごめんごめん…それより、生き残り見つけてきたぜ!」
そう言うと、大柄の悪魔はレーヴの方を向いた。
「何?おお…お嬢ちゃん、サキュバスだな?」
「ええ…レーヴよ、よろしく。
私が淫魔だってわかるのね。」
「俺はガイウス、そりゃあな、お嬢ちゃんは俺の昔の主人に似てるからな。」
「…貴方の昔の主人って?」
「ああ、リーベル様だ。」
その言葉を聞き、レーヴは目を見開いた。
リーベル、そこまで聞き覚えのある言葉ではないのに…何故…?
胸のざわめきが抑えられない。
「…おい、嬢ちゃん?大丈夫か?」
ガイウスが心配そうに覗き込む。
「…ええ、大丈夫。」
「そうか、とりあえず、立ち話もなんだし、中に入りな。」
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ガイウスは、9年前の大悪魔狩りの生き残りだった。
9年前、盗みに来た人間の賊を追いかけて城外まで出ている間に人間に攻め入られ、目の前でリーベルの国が破滅したらしい。
ガイウスはカイの頭を撫でながら言う。
「あんときゃ大変だった。何とか妻とこいつと一緒に逃げたんだが、
もう少しってところで妻が矢に貫かれてな…」
「それは…大変だったわね。」
カイ達の”家”は、小さな火口に作られた村だった。
総勢、約35人、半数以上が老人と子供。
戦えるような人間は至極、少ない。
しかし、村の周りには魔法障壁が施されており、
仮に攻撃を受けても、傷つくことはない。
その魔法を施したのは…
「おい、ガイウス、定例会議の時間だ。来い。」
そう言ってガイウスを連れて行こうとする男。
緑の長い髪に、鋭い目つき、腰に据えた剣には
鞘越しでもわかるほどに魔力が込められている。
この男、旧リーベル軍8番隊長。
蝋燭のクライアスが、村を守る魔法障壁を施したとされている。
「ああ、クライアスさん。
息子が外からサキュバスの女の子を連れてきてね、ちょっと話をしていたところです。」
クライアスがレーヴを見る。
「…そうか、ここは外に比べれば安全だ。
安心して過ごすといい。」
クライアスはそう言うと、ガイウスと共にその場を後にした。
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「…レーヴ、これからどうするつもりなんだ?」
カイがレーヴに話しかける。
「どう…って?」
「お前……ずっと外にいたんだろ?
ちょっと休んだら…出て行っちゃうのか?」
カイは心配そうにそう言いながら、レーヴを覗き込む。
「……そうね、また外に出るのもいいかもしれないわ。
けど、また今日みたいに危ない目に遭うのは嫌。
しばらくはここで過ごさせてもらうかもしれないわね。」
「……そっか。」
そう言って、レーヴに背を向けたカイの姿は、どことなく
嬉しそうだった。
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……奴隷から逃げ出して二日目、やっと定住地を見つけることができた。
カイの話によると、どうやら最近だと悪魔の殺し方を知らない人間の方が少ないらしい。
ここには強い悪魔がいる、何かあっても、逃げ込めば助けてくれるだろう。
それに……ガイウスとクライアスには何故か胸騒ぎを覚える。
そのことについても知る必要があるだろう。
……”国”という大きな悪魔のコミュニティに居た者たちだ。
もしかしたら、自分の出生について知れるかもしれない。
……というか、今日はもう寝よう……。
これ以上難しいことは、明日考えれば…………
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レーヴの寝顔は、普通の少女のように安らかであった。
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目が覚めると、暗い部屋だった。
レーヴは、一瞬でこれが夢だと知覚した。
『…………』
何処かから、レーヴを呼ぶ声が聞こえる。
その方向に向かっていく。
『……ヴ、レーヴ、』
声は、近づくほどに透き通って聞こえるようになった。
『…レーヴ、私の子、レーヴ…
…お願い、アイツを、マルタ・イシハラを…』
声の方向を見渡しても、暗闇が続くだけであった。
しかし、いつの間にか声は、レーヴの耳を裂かんばかりに大きくなっていた。
『………殺して。』
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「……ッ」
目が覚めた、
隣にはカイ、寝息をたてている。
(……変な夢だったわね…、なんで、あんな夢なんか……)
(……マルタ・イシハラ…たしか、私が生まれた年の英雄…
…ガイウスに聞いてみましょうか。)
そう言って、レーヴはガイウスを探して小屋から出た。
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外はとても暗かった。
おそらく深夜であろう、星も見えない夜だった。
村の明かりは軒並み消えていたが、1軒だけ明かりが灯っていた。
「……だから今のままじゃ駄目なんでしょう?
何か新しい手を打たなければいけないのでは?」
(…! ガイウスの声…)
ガイウスは、小屋の中でクライアスと話している様子だった。
それはそれは、重要な話をしているようだった。
(……何か深刻そうね、聞き耳を立てましょうか。)
子供の自分が顔を出せば、「嬢ちゃん、もう寝る時間だぜ?」と言って話を聞かせては貰えないだろう。
そう思ったレーヴの選んだ手段は、盗聴だった。
「だから、やっているだろう、」
「やっていることが的外れだから、何も進展がないのではないですか!?」
ガイウスは半ギレだった。
「ならば言ってみろ!『リーベル様の血を持つものを探すこと』以外で!人間共を駆逐する方法を!」
「言ってるじゃないですか!後続を育てるべきだ!幸い、この村には子供が多く居る!
子供が成長して子を作り、数が増えるまでは待つべきだ!」
「ほう!それはいい方法だな!流石、城が攻め入られている間に人間の盗人などに時間を割いていた貴様らしい!気が遠くなるほど時間がかかるいい手だ!」
「なっ…!?
…クライアスさんの方法も、見つかるまでに気が遠くなるほど時間がかかると思いますが……!?」
「ふん、いつ人間に見つかるかも分からぬ状況だ、ここで賭けに出ずいつ賭けると?」
………話は平行線だ。
確実性は無いが、運が良ければすぐに
結果が出せるクライアスと。
時間はかかるが、確実に結果が出せるガイウス。
…両方同時にやれば? と思うが、そうもいかないらしい。
昼にカイに見つかった事を考えると、ガイウスの言う“後続”というのも、クライアスの指示に従い、悪魔の生き残りを探しているようだ。
……しかし、カイが「サキュバスを初めて見た」と言っていることから察するに、結果は出ていないようだが。
「…そう言えば、ガイウス。
お前の息子が連れてきた娘の種族を聞いていなかったな、下位の悪魔か?」
「ああ、あの子ですね…
あの子は………あッ!!!」
ガイウスが何かに気づいたように、目を見開いていた。
「…さ、淫魔でした…!!」
クライアスの目が、大きく見開かれた。
…レーヴの目も、大きく見開かれた。
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