3 吸血
ぐびり、ぐびりと喉の音が聞こえる。
切り落とした首から溢れた血を飲んでいる。
口元は大きく血で汚れている。
幾ばくかの時間が流れ、出血が収まると、少女は傷口に齧りつき、また出血させる。
少女が夢中になって肉を貪っていると、朝日が顔を覗かせる。
『うわっ……もう日の出?』
少女は面倒くさそうに呟きながら、魔術で男の死体を焼いた。
少女は、魔術が使えた。
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悪魔は、陽の光が苦手である。
大昔、悪魔が暴れ、大地を汚し、虐殺と暴虐の限りを尽くした。
激怒した月の神『パル』が、天から降りた十柱とともに悪魔と大戦を開始した。
『天神、悪魔狩り』である。
勝利した神らは、敗北した悪魔の血族に『祝福』を刻み込んだ。
『祝福は、悪魔にとって毒である。』
祝福により、悪魔は太陽の下を歩くことを禁じられた。
そして約数十年前、かの淫魔女王『リーベル』が悪魔の祝福を書き換え、大幅に弱体化。
太陽の光に当たると溶けて死ぬ、という祝福から、太陽の光に当たると力が弱くなり、肌が少しヒリヒリする、という祝福にまで書き換えた。
その少し後、絶大な人望を得たリーベルが国を建設、そして人間を力と破壊で支配した。
そして9年前、悪魔狩り『マルタ・イシハラ』によって………
これが、この世界の歴史である。
歴史は巡り、9年後、レーヴは男の死体を骨まで焼き、土に埋め、影に身を隠しながらその場を後にしていた。
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『食べたのは2人……1人目はカスだったけど…2人目はいい魔力してたわね。』
もし…『2人目のレベルの肉』が来るなら、逃げずに待っていたほうが良いのかな…
そこまで考えついて、首を横に振る。
それで殺されたら元も子もないじゃない…
きっとここからは、ただの少女のフリ、死んだフリも通じなくなる。
奴隷生活で枯渇した魔力が回復するまでは、無闇に戦わないようにしよう…。
そして…魔力が回復したら…
『あら?お嬢ちゃん、早起きね!』
口元の血を拭った。
女性、柔らかい声からして一般人…
『…!?お嬢ちゃん、その服の血は…!?』
…服に血ついてるの忘れてた…
どうしよう、無闇に戦わないように、なんて誓ったそばから、
けど…2人食べた今なら、この程度なら殺せるかしら…?
太陽で力が弱まっているとはいえ、人間の女1人くらいなら……
『怪我してるのね…!手当てしてあげるから、ウチに来なさい!』
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『お嬢ちゃん小さいんだから、たっくさん食べなさいね!』
野菜のシチューに、パン、振る舞われた料理はそんな程度だった。
『娘の服もピッタリだし……捨てたもんじゃないわね!』
食卓に置かれた写真立てには、この女と、知らない男、少女と同い年程の娘の写真が写っていた。
『……その、娘さんはどこに…?』
女性は、ぴたりと身体を止めた。
『……死んだわ、5年前、』
『5年前、私が畑に野菜を取りに行ってる間だったわ、その少しの間に、娘は獣に食われて死んだ。』
『……』
『そう、獣だと思っていたのだけれど……
数カ月後の夜、宿にいた悪魔狩りさんが、森から瀕死の悪魔を連れてきたの。』
『宿代の代わりに、って狩られた悪魔は、私にこう言った。』
『お前、ついこの前ぶっ殺した娘に匂いが似てる。』
女がそこまで話すと、少女が口を挟んだ。
『……あの、話が長いです。』
『…………は?』
『話が長いし、面白くも無い。
要するに、娘さんが悪魔に殺された話ですよね?
よくある話だし…もう、いいです。』
女が、顔を赤くして叫んだ。
『あなた!!!食べ物をもらっておいてその態度はなに!!!?礼儀をしらないの!!!!?』
『食べ物をくれ、なんて言った覚えはありませんし、ああ、服はありがとうございます。』
『………ッ!!あなた!!!今すぐこの家から…ッ』
『【発火】。』
女が言い終わる前に、少女が言い終わった。
少女が言い終わると、女の身体は激しく燃え始めた。
『…ッ!!??
あ゛ァ゛あ゛あ゛ッ!!??』
発音もままならないまま、女の身体は黒く焦げ、床に崩れ落ちた。
『よかったですね、娘さんに会えて。』
少女は野菜のシチューを啜った。
『………不味……。』




