2 脱走
夜が更けてきた頃だった
少女は水浴びをしていた。
昨日の男の体液、血液を落としていた。
『……血が乾いて落ちないわね…。
……あの男、身体は大きいのに吸収できる魔力がこれっぽっちも無いし…血はドロドロで落ちないし……。』
ぶつぶつと独り言を呟きながら、小さな手のひらで身体を洗う。
『……まあ、無いよりはマシだったかしら……、数日ぶりの食事だったし……』
そこまで言うと、少女の手が止まった。
少女は後を振り向き、睨んだ。
『……こんな時間に、誰かしら?迷子じゃなさそうだけど。』
少女の後ろの草むらから、屈強な男が姿を現した。
『アー……クソ、なんでバレんだよ。
魔法で気配も消したはずなんだけどなァ…?』
紅いマント、鋼鉄の鎧、蛇のように覗く目は先日の男に似ていた。
『自己紹介からシようか、嬢ちゃん。
俺ァ…ラルト・フォン・ハイツ。
嬢ちゃんは?』
『……レーヴ、』
『……レーヴだけか?名字は?』
『教える必要はないでしょう?』
『………』
男がため息まじりに言う。
『……一応教えてくれよ、墓に刻みたいからな。』
そう言いながら、男は剣を抜く。
『……嬢ちゃんが殺した男…あれは俺の親父でな。』
『…親父は嫌いだったけどよ、殺されちまうと、立場もあるし、気分も悪ィ。』
剣先を少女に向けながら、穏やかな口調で話しかける。
『…嬢ちゃんにも色々あるだろうけどよ、俺は嬢ちゃんを殺さなきゃなんねえ。
抵抗しなきゃ、痛くねえようにできる。』
少女は黙ったまま、顎を突き上げ、首を差し出す。
『…物わかりが良くて助かるぜ。
すまねえな。』
少女の首が地面に転がる
『………ごめんな、嬢ちゃん。
嬢ちゃんはちゃんと、領内の墓地で埋葬してやるからよ。』
男が少女の頭を優しく手で持ち上げる。
『……………哀れね。』
『……!?』
少女の頭が目を開き、男を見つめる。
その眼は、悪魔のように赤黒く渦巻いていた。
次の瞬間、男の視点は反転していた。
(!!?どういうことだ…
…なんで俺の身体がそこにある…!?)
男は、薄れゆく意識の中で、
首を失った自分の身体、
立ち上がる少女の身体、
浮き上がる少女の頭を見ていた。
ぐちち………ぐりぃ…
肉同士が擦れるような不快な音の後、少女の首と胴体は繋がっていた。
『……悪魔に情けをかけるなんて、
本当に哀れな人間……。
………けど、お肉は美味しそう…。』
(悪魔、と聞いて、男は納得したように目を閉じた。)
『…いただきます…』
そう言うと、少女は首無し死体に齧りついた。




