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ナルシスト

作者: らぶ
掲載日:2026/01/27

らぶです。

初投稿につき、至らない点も多くあると思いますが最後までお付き合いいただけると幸いです。

 

 

 あるところに男がいた。


 名をジョンという。


 彼は透明人間だった。


 彼の姿は誰にも見えない。

 存在は認知すらされない。


 ゆえに彼には人間とまともに関わった経験などこれまでに一度もなかった。


 友人はもちろんのこと、彼の両親は存在するかどうかさえも怪しい。


 彼は気づたときには意識をもっていて、言語や社会通念を理解する程度の知識があって、自分が透明人間として誰にも見てもらえないということを知っていた。


 しかし、ジョンは存外に悲観的ではなかった。

 なぜなら彼には夢があった。


 それは、いつの日か透明人間である自分を見つけてくれるような女性と出会って、その人と生涯を添い遂げること。

 人里離れた自然豊かな場所で農耕を営みながら、この世で唯一自分を認識するその誰かと、幸せな家庭を築くこと。

 普通の人間にはなれなくても、ただ一人、自分を認めてくれるだれかさえそばにいてくれるのなら、この長い孤独もきっと晴れるだろう。

 

 幼い少女がいつか白馬に乗った王子が現れるのを待つように、ジョンもまたそんな運命的な出会いを待ち続けていた。




 そんなある日のことである。


 ジョンはいつものように運命の人を探すべく、休日の人波でごった返した大通りを流れに逆らうことなく歩いていると、突如前方から女性の叫び声が上がった。


 穏やかな休日に似つかわしくないその金切り声に、周囲にいた人々も何事かと足を止め、その女性を取り囲んだ。

 そんな周囲の様子に彼女はどこか困惑しながらも、やはり叫び声を上げ続ける。

 しかし、彼女が一体何に怯えているのかは誰にも分からなかった。

 

 ジョンもまた野次馬根性で女とそれを取り囲む群衆へと近づいた。


 より一層、女の悲鳴が大きくなった。


 そうして、次第に彼らはあることに気がついた。

 彼女は先程から執拗に一つの方向だけをみては悲鳴をあげている。

 しかし、そこには特に変わったものは見当たらない。


 ジョンもまた気がついた。

 彼女は自分を見ているのだと。


 そうして、彼のなかで全てが繋がった。


 彼は透明人間ではあるが、彼が触れたり身に付けたりしたものまでは透明にはならない。

 そのため、仮に彼が服を着たとすると周囲からはまるで服がひとりでに浮いているように見える、ということになる。


 ジョンが期待するのはあくまでも運命的な出会いであって、そういた必然的な見つかり方を彼は好まなかった。


 つまり、彼は、彼が認識されない限りにおいては、常に服を着ていない。


 ゆえに彼を見ることができる彼女にとっては、彼の存在は、突如として大通りに現れた全身裸のいかれた変態ということになる。


 彼はしまった、と思った。

 しかし同時に、ついに現れた、とも思った。


 そうして改めて彼女の顔を見てみると、美しく整った容姿に心臓が脈打つのがわかった。


 運命だ。


 奇跡だ。


 これを逃しては次はない。


 大丈夫。確かに、今は警戒されている。


 それもそうだ。いきなり全裸の男が現れたら誰でも怯えて悲鳴をあげる。


 でも、それも今だけだ。


 きっと話せば彼女も分かってくれる。



 そうして打ち解けたら、まずはカフェに行こう。

 おいしいところを知っている。

 きっと彼女も気に入るだろう。


 そうして、今度は百貨店だ。

 彼女に似合うドレスや指輪も見繕わなければならない。


 それが全部すんで、僕がプロボーズしたら。

 そうしたら、僕らは愛しあって。

 子供も産んで。


 きっとこれからは素晴らしい毎日がまっている。


 ジョンは一歩、また一歩と女の方へ歩みを進める。


 その度に彼女は小さく悲鳴をあげながら後退る。


 あと少し。

 あと少しで彼女へと届く。


 まずは警戒をとかなければ。

 明るく、気さくに、フレンドリーに。笑顔で。


 大丈夫僕にならできる。

 こんなときのために、いつも街で人を観察していたのだから。


 あと少し――――――――





































「来ないで!変態!その醜い顔を私に近づけないで!」


















 時が止まったような気がした。


 一瞬の間に何度も彼女の言葉が彼の頭の内を巡ってはその言葉の真意を見いだせずにいた。


 しかし、ほどなくしてそれが何を意味するのかを理解した。


 





 あるところに男がいた。



 名をジョンという。



 彼は透明人間だった。



 彼の姿は誰にも見えない。

 存在は認知すらされない。



 ゆえに、彼の姿は()()()にさえも映らない。




 彼は産まれてから一度も自分の顔を見たことはなかった。




 ジョンは再び歩きだした。

 そうして泣き叫ぶ女の横を静かに通り過ぎると、再び彼を認識しない人の波へと深く潜っていった。


 あとに残ったのは彼が存在した痕跡すらも押し流すような人の流れと、座り込む女に手をさしのべる一人の青年の姿だけだった。


(おしまい)

ご一読ありがとうございました。

よろしければ評価・感想をいただけると僕がハッピーになります。

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