【最大火力の少女】2
状況を整理しよう。うん、それしかない。
俺は昨晩、自宅でアニメ『むそおれ』を観て就寝した。それは間違いない。布団にも入ったし、俺が寝巻きにしている高校時代のジャージを現在着用していることからもその事が裏付けられている。ちなみに裸足。やだ、冷えちゃう。
しかし目を覚ましたらそこは森の中で、隊長と呼ばれたオジさんに叩き起された。名前、出身地、魔章?なるものを要求されて、勇者になったり、魔族になったり、奴隷になったりジョブチェンジを経て、現在は両手を拘束されて連行中……と。
(この感じ、もしかして『異世界転移』!?)
足の裏に痛みを感じながら俺は興奮していた。もちろん、痛みにではない。
(ま、まじか!異世界転移しちゃったぜ、おい!どうなるの?俺、勇者とかなっちゃうの?特殊能力を得て無双するの?……うわー!!超カンドー!!)
「あの、なにをそんなにニヤニヤしてるんっすか?」
「いやあ、生誕して二十七年。平凡だった俺の人生も、今日、この時を持って新たな一歩を踏み出すんだなあ、と思って!」
「新たな一歩……まあ、このまま順当に行けば不審人物として牢屋行きですから、前進ではなく後退的な一歩っすね」
「大丈夫!こういう始まりをするラノベもあるから!」
「ら、らのべ?」
先程から俺の話に付き合ってくれているのは、森で出会ったリーヴだ。リーヴは甲冑をカチャカチャ鳴らしながら俺の一歩後ろを歩いている。
「……まあ、まずは拠点で事情説明してもらいますよ。ほら、あれがマウザ。オレたちの町です」
そう言われ、視線を上にあげた。そこには石畳と跳ね橋、木で作られた大きな門と城壁に守られた町が存在した。
「おお……」
跳ね橋を通り抜けると、そこは商店街になっていた。人の行き交いが多く、活気もある。
「よーし、リーヴ以外、いつもの任に戻れ」
前方にいる隊長が声を出すと、周囲にいた人達はすぐさまどこかへ行ってしまった。格好から察するに、彼らは騎士かなにかなのだろう。普段の任、というと町の防衛だろうか。
「リーヴ、お前はオレと坊主を連れて拠点に行くぞ」
「……あの、隊長」
「なんだ?」
「事情説明の前に、靴を調達してもいいっすか?この人、裸足なんで……」
「うおっ!血まみれじゃねぇか!なんで言わなかったんだ?」
「いやぁ、異世界転生したんだと思うと興奮して、痛みなんて感じませんでした!!」
俺が素直に感想を述べると、隊長は苦虫を噛み潰したような顔をする。
「……興奮したのかよ」
どうやら、誤解されてしまったようだ。