幸せな姫の話
「お母さん、今日もお話聞かせて」
「そうね、じゃあ今日は幸せな姫のお話してあげるわね」
幸せな姫の話
ある国に、それはそれは大層可愛らしい姫がおりました。
その可愛らしさゆえに国中のみんなから愛されていました。
姫はみんなの愛情を受けてすくすくと育ち、やがて美しく成長したのです。
「わー、なんて幸せなお姫様」
「…続けるわね」
ある年、日照りが続いて飢饉が起きました。
姫の国には食料はありません。
このままではみんな飢えてしまいます。
そんな時、隣の国の王子様がやってきてこう言いました。
『姫が私の元に来るのなら食料を分け与えましょう』
姫は王子様の元へ行こうとしましたが、国のみんなは反対しました。
「王子様は悪い人だったの?」
「さあ、どうかしら」
別の国が食料を配ったのでその年の飢饉はどうにか乗り越える事ができました。
みんな姫を渡さずに済んだとほっとしていましたが、姫はいなくなってしまいました。
姫は王子様の元へ行ってしまったのです。
「えっどうして」
「姫は王子様を好きになってしまったのよ。愛する人のそばにいるために姫は国を捨てたの」
「そんなぁ…みんな姫の事が大好きだったのに」
「でもそれは、姫にとっての幸せではなかったの。あなたもよく覚えておきなさい、自分にとっては幸せでも他の人には迷惑なこともあるのよ」
「じゃあ、王子様の元へ行った姫は幸せになれたの?」
「それは…」
あの国には私の幸せはありませんでした。
国の者たちは私の事を「美しい」「愛らしい」と褒めてくれたけど、誰も『私』を見てはいなかったのです。
でも王子様は、私を望んでくれた。
だから私は王子様の元へ行きました。
私は知らなかったのです。
王子様には思う方がいることを。
それでも私は――。
「王子様は他に好きな人がいたの。でもいなくなってしまった」
「ええ…じゃあ姫は…」
「二人は結婚したわ。さっきも言ったけど何がその人の幸せかはその人にしかわからない。でも姫はこう言ったの」
『私は愛する人のそばにいられて幸せです』