第二話 汝はゆうしゃ清き愚か者よ・1
「でさあ、こないだラジオに投稿したら採用されて、そんで番組特製のマグカップ貰えることになったってわけよ。おれすごくね?」
放課後。学校が終わりぼくは名梨と共に下校していた。いつの間にかすごく仲良くなれていて、他にもちらほらと友達はでき始めていたが何だかんだぼくは名梨と一緒にいることが多い。ぼくは自分のことを陰キャとまでは思っていないが、決して陽キャではないため、こんなチャラい名梨みたいな少年がぼくに構ってくるのがどこか不思議な気持ちだが、まあそれは置いといて気に入ってくれているようでなによりだ。
名梨は本人の希望通りバドミントン部に入部して、青春の汗を流しているようだ。それで今日は部活がたまたま休みになってしまったためこうしてぼくと帰路を辿っているというわけである。ちなみにぼくは結局帰宅部だ。部活は強制ではないから結局もなにもないのだが。一応、一通り部活見学には回ったが、いまいちしっくり来るものがなくて帰宅部ということになっている。
というのもあるし、陰陽連合のアジトに寄って帰るというのがぼくの日常になりつつあるというのもある。初めての“戦闘”を見学したのち、まだああいった霊能力者的な事態にはなっていないものの、ぼくは例のアジトにサードプレイス的な感情を抱き始めている。別に日常生活にそこまでのストレスを感じているわけでも何らかのトラブルを抱えているというわけでもないが、親や教師とは違った大人たちのいる空間というものに安心感を覚えているというところだ。実際、鬼哭アルカロイドを認識できるというただ一つの共通点がぼくらをぼくらでいさせてくれいるのだった。
もっとも鬼哭アルカロイドが結局のところ何なのかはいまだによくわかっていない。レッドさんも麗子さんも相沢さんも「何なんでしょうね」というばかりで、どうも彼らとしてはそんなに対象物に興味がないようにぼくには感じられた。刀を振り回すレベルの事態になっているというのに大した興味がないというのもよくわからないが、まあ霊能力者には霊能力者の考え方があるのだろう。
しかしレッドさんは何度も「考え方は人それぞれ」というが、果たして陰陽連合は意思疎通がきちんとできているのだろうかとぼくは疑問に思う。例えば考え方が人それぞれということは鬼哭アルカロイドについての受け取り方は一人一派ということだろうか。まだ他の残り四人のメンバーには会えていないが、その人たちはどういう考え方でもって陰陽連に参加しているのだろう。あれだけの異形の怪物たちを相手に考え方が人それぞれというのはどういうことなのだろうとぼくの興味関心は尽きないばかりだ。
それはともかく、それはそれとしてぼくは中学生生活をそれなりに謳歌しているので、いくら超現実的な出来事を目の当たりにしているからといってそんなに一つのことをいちいち考えているわけにもいかないのだが。それが要するに、ファンタジーではない、ということであり、ぼくの現実はあくまでもリアルにできているということなのだろうと、ぼくはホッとしている。
「ねーフジ、聞いてる?」
物思いに耽る中、名梨が不安そうにぼくに訊ねてきたのでぼくは答える。
「聞いてるよ。何だって?」
「ほら〜聞いてねーじゃん〜。ちょっと遠回りしていいかって」
「どこに?」
「新しくできたドラッグストア」
「別にいいけど、薬でも買うの?」
「ううん〜化粧水と乳液」
普段、そういったものを使わず水だけで洗顔しているぼくである。チャラい外見の名梨はやはりチャラい日用品を使っているようだ。
「別にいいよ」
「やったね。なんかいいのないかな〜」
「普段から使ってるんでしょ。新しいのがいいの?」
「ううん〜前までさっき寄ったコンビニで買ってたんだけど、あそこの商品はしばらくやめることにしたから〜」
「なんで?」
すると名梨はやや真剣な表情で説明を始めた。
「あそこの商品、ゲイの人が開発者なんだけど、その人トランスジェンダー差別がすごいのね。だから不買運動っていうの?」
おやとぼくは思う。
「ゲイの人がトランスジェンダー差別をするの?」
「まあその辺、一枚岩じゃないってことでしょ。それでとにかく買わないことにしてんの。コスパ良かったんだけどね〜」
LGBTの友達でもいるのだろうか、と、何となく思う。しかし名梨もよくやる、と思う。コスパがいいならそのまま使えばいいのにと思うし、名梨はいつも「親が小遣い上げてくんなくてさ〜」と金銭的に困っているようだからあんまり差別がどうとかいうことは考えずに自分のことを優先すればいいのにと思ってしまう。もっとも名梨には名梨の考えがあるのだろう。不買運動という草の根活動にどれほどの効果があるのかもわからない、なにも知らないぼくがいちいち否定するのもよくないと思って、ぼくは特に何の反応も示さなかった。
「ふうん」
「でさ、新しくできたドラッグストアが安い安いって評判なのよ。まだ一度も行ったことないんだけどこれからお世話になったりするかな、どうかなぁ?」
「さあ。気に入るといいね」
「だね〜」
というわけでぼくらはそのまま目的地へとのんびりと向かうのだった。