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第八話 ただの風景 または猫たちの戯れ・5

 だが事態は急変を迎えた。アジトに到着した途端、警報が鳴ったのだ。鬼哭アルカロイドの出現だ。要するに、出撃だ。

 ぼくは急いでリビングへと向かう。

 そして中に入る。

 ……みんな、ぼくに気づかなかったので、なかなかの絶望がぼくを襲った。

 今ここにはレッドさん以外全員揃っているが、誰もぼくに気づかない。どうして。

「廃工場ね」

 と、モニターを見ながら麗子さんが言った。

「隊長がいないわ」

「じゃ、あたしら先に行くっきゃないでしょ」

「隊長ならすぐ来るし……」

「その通りですね」

「それにしてもトキオ、風邪は大丈夫かな……」

 いるいる。ここにいる。

 相沢さんが立ち上がった。

「麗子。副隊長として指示よろしく」

「了解よ。じゃあみんな、行きましょう」

「了解」

 声を揃えてみんなでゲートに向かったので、ぼくは慌ててその後を追いかける。

 ゲートを潜ったら次元の超越が元に戻るかも。

 と思ったのもあるが、このままここにいても仕方がないというのもあった。レッドさんなら直接現場に来るだろうし一人でいてもさっきまでと同じだ。ぼくは置いてきぼりを喰らわないようにゲートを潜り、やがて、廃工場へと到着した。

 廃工場には鬼哭アルカロイドがたくさんいた。そしてそれを抹消しなければならない。だが今回ぼくがそれに参加することはできなさそうだった。なぜならゲートを潜ってもぼくの状態に変化はなかったからだ。例の靴も履いておらず裸足のままで、当然、みんないまだにぼくに気づかない。

 この時点でぼくはもうダメかもしれないなと思い始めていたが、だが諦めるのはレッドさんにすら対処できないと悟ったときだ。そんなことにならないように祈りながら、ぼくは戦闘体制に入るみんなを眺めた。隊員たちはそれぞれ武法具を手に取り、麗子さんが副隊長として今回の作戦を説明し、指示を出す。そしてみんな廃工場の中を、動く。

 鬼哭アルカロイドもぼくに気づいていないことに気づくのにそれほど時間はかからなかった。ということはさっきぼくが考えた計画はそもそも的外れだったようだ。同じように次元を超越した存在ならぼくを認識するかと思ったが、鬼哭アルカロイドはぼくをすり抜けてその辺りをうろうろと移動している。すり抜ける瞬間は流石に緊張したが手がない以上仕方がなく、そして何事もなくすり抜けたのでいよいよ手がないのだろうかと思う。

 一体ぼくはどうなってしまったのだろう。戦うみんなを眺めながら今改めてぼくは自分の状態について考える。朝目覚めたらこうなっていた。そして気がついたら一気に時間が経っていた。そしてみんな対鬼哭アルカロイドを眺めている。朝から誰にも気づかれない。相沢さんたちにも、友達たちにも、両親にも——。

『変なのがいる』

『何もないよ。おかしな子だね』

 遥か昔に何度か行ってきたやり取り。鬼哭アルカロイドのことをレッドさんに気づかれるまで誰にも気づかれたことはない。ぼくは物心ついた頃は人々の注目を集めたい困ったちゃんとして扱われ、幼稚園の年中さんになる頃には子供ながら諦めていた。異常な子どもだと思われるのは、辛い——幼稚園児であってもそれは辛いことで、だから小学校に上がってからは絶対に誰にも言わないと心に誓った。

 誰にも話を聞いてもらえない、というのは、大いなる絶望だ。それはぼくが幼少時代から強く思っていたことだった。それは誰にも寄り添ってもらえないということであり、誰からも接触されないということだ。確かに両親はぼくを慈しんで育ててくれたがこの件に関してはぼくの話を聞いてくれたことは一度もない。仲の良い友達たちは昔からたくさんいたが、共感し合える仲間はただの一人もいなかった。絶対の孤独だった。しかしそれでも周囲に恵まれていたことははっきり自覚していたので、複雑な孤独を抱えていたのだ。それが四月、中学生になるまで。

 それがレッドさんと出会ったことで初めて共感し合える仲間を手に入れることができた。嬉しかった。それだけではなくクラスで一緒になったばかりの相沢さんや、普通なら関わることのないだろう光里さんだったり、色々な人たちに出会えた。もちろん鬼哭アルカロイドと関わらなかったら関わらなかった人たちだ。だから複雑な気持ちもないわけではない。出会えたのはマイナスがあるからこそ。

 でも、それでも出会えてよかったと思う。

 やっぱり精神的にかなり堪えてき始めているみたいだなと自分でそう思った。感謝の気持ちを持つことは大切なことでもこんなにありがたがっているのは精神的に大ピンチに陥ってきているのだろう。陰陽連のメンバーが誰もぼくに反応も認識もすることもなく、鬼哭アルカロイドにすら気づかれないこの廃工場で、ぼくはかなり堪えていた。

「やあ、遅くなってすまない」

 と、そこにレッドさんが現れた。

「大丈夫かい?」

「平気よ。それじゃ翔悟がこれからの指示を出して」

「おっけ。えーと、トキオは相変わらず欠席だな」

 目の前が真っ白になった。

 レッドさんにすら気づかれないなんて。

 それなら、ぼくはどうすればいいんだ。

 どうすりゃいいんだ。

「じゃ、えーとだね……」

 と、レッドさんは隊長として指示を出し始める。と言っても麗子さんの指示をそのままなぞっているだけだ。今回のミッションは特段のトラブルもなくそのまま抹消を続けていけばなんとかなるのだろう。

 だがぼくはどうなるのだろう。

 終了するまで、ぼくは絶望的な気分でみんなを眺める。みんなそれぞれのやり方で持ってそれぞれに世界を救おうとしている。だがぼくは何もできることなどなく自分のことを救うこともできない。今、この世界は何のために存在しているのだろう。少なくともぼくのためには存在していない。ぼくはそう思う。つくづくそう思うのだった。

「よーし、これでおしまい、と」薙刀を振り払ってやがて最後の一体を消滅させ、レッドさんはみんなに言った。「みんな、お疲れ様」

「お疲れ様。何事もなく何よりだね」

「そうだね明日香。トキオが心配だけどな」ここにいるのに。「ところでトキオ、まだ学校休んでるのかい」

「うん。明日、来れたらいいんだけどな」

 明日、行けたらいいんだけどな。

 明日のことがどうなるのかはわからないけど。

 そのこと自体は、いつものことなのだけれど。

「よっし、それじゃいつものやーつ、行くか!」

 と、そこでふよふよと例の一眼レフが出現した。

 こういう場合、ぼくも一緒に写ったりしたら、心霊写真みたいになったりしないだろうか。あるいはそれでいよいよぼくに気づいてくれやしないだろうか。最後の希望を込めてぼくはみんなと並び、カメラの前に立つ。

「よし、行くぞ! 合言葉は、イエース‼︎」

 そしてパシャリとシャッターが切られる。すると——。


 目覚めたらベッドの中にいた。

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