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第三話 誰だ苦労は勝手でもしろだなんて言ったのは・2

「ねえねえ、どこから来たの?」

「フランス」

「じゃあフランス人のハーフ?」

「そう」

「でもさっきの英語の授業、すっごい流暢だったね」

「英語なら普段使いだから」

「フランス語は」

「喋れるわ」

 霧島さん、もとい、キリシマさんは一時限目の英語の授業を終えたと思ったら休み時間に教室中の女子たちに囲まれていた。男子たちも混ざりたいだろうに女子たちから「お前たちは近寄るな」という凄まじいオーラを感じ彼女に近づけない。廊下には上級生を含めたたくさんの生徒たちがキリシマさんを見てみたいとやってきていた。

「くそう、おれもお喋りしてぇなぁ」

 などとぼやいている名梨に、ぼくはこう言ってみる。

「相手にされないんじゃないの」

「それはそんな気はする」

 そしてそれは名梨の強がりではない。

「なんかすげー気が強そうだよね、キリシマさん」

 圧倒的威圧感はこいつも感じていたようであり、そしてそれは全員が感じていたようだった。あまり近づくべきではない……と誰しもが思った。しかし一時限目の英語の授業中、彼女の隣に座っていた女子がうっかり消しゴムを落としたら即座にキリシマさんは「はい」と拾って時その子に渡していた。「ありがとう」とその女子がお礼を言うと、彼女はやや顔を崩して「どういたしまして」と返した。全員がその光景を見て、これは近づいてみたい……と思うようになったのだろうか。

 キリシマさんは英語の授業中、姿勢をまっすぐ正して先生の話を聞いていた。そして転校初日だと言うのに当てられた。それを特に気にすることもなく彼女は立ち上がり、教科書に書かれていた英文をとんでもなくきれいな発音で流暢に喋る。まるで小鳥の囀りのような可憐な声に英語教諭含めみんなメロメロ……という感じだろうか。

 しかしぼくは彼女と相沢さんを交互に見ることにやや尽力していた。

 他の生徒たちが彼女に興味津々な一方、相沢さんは特に思うところもないようにぼくには思えた。

 要するに、二人は知り合いなのだろう。

 そして、どういった種類の知り合いか、ということを考えたとき、()()()()()()()()知り合いである可能性もぼくは考える。

 もっとも全ては現時点では想像の範疇だ。

 だからぼくの予測が当たるかどうかは放課後以降にわかるはずだった。

 二時限目の数学では小テストがあり、彼女は真っ先に問題を解いた。転校したばっかりなのにすごいなぁとみんな感嘆する。とにかくキリシマさんは真面目で、生真面目な女の子のようだった。授業中に姿勢を崩すことなど一切なく、ひたすら背丈をピシッと伸ばして先生の話を聞いている。みんなはみんなであっという間に彼女の影響を受けたのか、今日一日は平和に過ぎていった。

 そして放課後。

「あー、キリシマさんとお喋りしたかったなぁ……」

 ぼくは帰宅の準備、名梨はバドミントン部へと向かう直前の時間帯。

「チャンスならいくらでもあるでしょ」

「チャンスは作るものさ」

「作れそう?」

「う、うーむ……」

 キリシマさんは女子たちに一緒に帰ろうと次々に声をかけられたが、用事があるからと次々に返事をして一人で帰るつもりのようだった。みんなしゅんとしていたが、しかしこれはこれからの学校生活が楽しいものになりそうだとみんなワクワクしている。

 しかし……ぼくは今日一日彼女をなんとなく観察していて、思う。

 どうもパワーを抑え込んでいるような?

 なんとなくそう思うだけだが、どうも彼女からは有り余るというか、漲るようなエネルギーを感じる。例えばロングホームルームで次の行事に関してみんながああだこうだと言う中、あるいは自分には関係ないからと会議に参加しない生徒たちがいる中、彼女はなにかを言いたそうにしている、という雰囲気をぼくはずっと感じていた。“まだ来たばかりだから”という理由が彼女を抑え込んでいるようにぼくには思えたのだ。いや、ぼくがそんな雰囲気を感じただけで、キリシマさんの心の中はわからない。しかし……あながち間違ってはいないのではないかという確信にも似た思いがある。それだけ彼女の“気迫”は凄かった。もちろん凄かったもなにも、ぼくが勝手にそう感じただけなのではあるが……。

 とにかく自分を誘う者たちを一人一人礼儀正しく断り、彼女は学校から去っていった。

「お疲れさま」

 河川敷を歩いていると後ろから相沢さんに声をかけられた。

「お疲れさま」

「これからアジトに行くよね?」

「そのつもりだけど」

「一緒に行こう」

「OK」

 しばし無言でぼくらは歩く。

 ぼくは、ぼくの頭の中にあることを相沢さんに訊ねてみてもいいものだろうかと逡巡する。

「ところで葛居くん」

 逡巡していると彼女はぼくに話しかけた。

「なに?」

「今日、私のことをずっと見てたね」

 そうだった。そういえばぼくは相沢さんの動向も気にしていたのだった。

 今日一日相沢さんは“静か”だった。いや、別にいつもはうるさいというわけではない。ただ、普段だったら友達の女子たちとワイワイしているのが日常風景なのに、今日はなんだか一人でいることが多いような気がしていたのだ。もちろんハブられるようになったわけではない。一人でいることが多いように思えたのはいつも一緒にいる女子集団がみんなキリシマさんの方へやってきていたからだ。つまり相沢さんはキリシマさんに特別な興味がない……ということを思った、ということを話してみようとぼくは決意する。

「キリシマさんのことが気になって」

「そうだよね」

「ぼくの予測が当たってるのかな?」

「あるいは、君の力が強くなってるのかもしれないね」

「というと?」

「例えば、あそこ」

 相沢さんはベンチの方に顎をやる。

 中型の鬼哭アルカロイドがそこにいた。

「やっつける必要があるっぽいね」

 なぜか、ふう、と、相沢さんはため息をついた。

「そうだね。“やっつける”んだろうね」

 そのとき——銃声が鳴り響いた。

「えっ」

 するとその鬼哭アルカロイドは光を放って消滅する。

 ぼくは辺りを見渡すが誰もいない。

 なんだ?

 いまの“銃声”は一体?

「隠れてないで出てきたらいいのに」

 と、相沢さんはちょっとした大声で周囲に呼びかけた。

 すると……。

「新人の観察をしてただけよ」

 と、さっきまで誰もいなかったはずの道に“彼女”はいた。

「うーん、なるほどね」と、ぼくは頷く。「やっぱり関係者だったか」

「どこでわかったの?」

 という相沢さんに、

「いや、なんとなくなんだけど」

 そう答えるぼくに、“彼女”は近づいた。

「あなたが新入りね」

「どうも……」

「ちょっと」

 と、相沢さんが一歩前に出た。

「葛居くんはまだわからないことだらけなんだからね」

「わかってるわ。だからこそ鉄は熱いうちに打った方がいいのよ」

 その言葉に、ダメだこりゃ、と、相沢さんは肩をすくめた。

 そして——青い瞳がぼくを貫く。

 彼女は言った。

「改めましてこんにちは。イリス・キリシマです」

 要するに、彼女は陰陽連合の隊員の一人なのであった。

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