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第二話 汝はゆうしゃ清き愚か者よ・5

 夜。自宅マンション。

 ぼくはベッドの上に寝転んで、スマホでYouTubeに飽きた頃、ぼんやりと今日のことを思い出す。

 なにもできなくてただついていっただけで不甲斐ない、という気持ちはあるものの、そうは言っても練習で一度も成功させられなかったわけだからいきなり本番でうまくいくわけもない、とも思う。

 ただ、今後もこういったことが続くとなると、そのうち陰陽連から追い出されるんじゃないのか、という不安が若干ある。それはもちろん、鬼哭アルカロイドに襲撃されるレベルで霊力が高まっていって、霊道やアジトを認識できるぐらいだからそうそう追い出されることもないだろうというぐらいに楽天的にはなれているが、それにしてもどうしても今後のことを考えると憂鬱だった。

 別にまだ陰陽連合のことにそれほどの愛着を抱いているわけでもないが、せっかくできたサードプレイスとして何の愛着も抱いていないというわけでもない。もっとも追放されるなら追放されるでそれはまあ仕方のないことではあるのだが、そうなると気になるのは、陰陽連合という秘密組織の存在を知ってしまった自分の処遇である。

 世界の裏の秘密を知ってしまった自分は一体どうなってしまうのだろうという不安がある。

 ただ何となく、戦闘要員から外されて、別の部署に異動とかそういう展開になるのかなぁなどとは思うのだが、ぼくはまだ別の部署なる存在を知らないし、そもそもそんなものがあるのかどうかもわかってはいないのだし。

 そう遠くないうちにまたあのハンマーを出現させる術を得なければならないのではないか。そうしなければ前線に出ることはなくなるのではないか。事務とか雑務とか庶務とか(?)そういった役割になるのかもしれないし、もしもそんな役割がなく追放とかいうことになったとき、ぼくの処遇は、生活は。

 と、そこまで考えた辺りで、ぼくは気づく。

 まあ、なるようになるか。

 言ってもそう大したことにはならないだろう。大体ぼくが考えているようなことなら大昔からあったのだろうし、もしも追放されて秘密を知ったことによる処刑だの何だのそんな闇の歴史が陰陽連合にあったところで現代日本社会でレッドさんがそんなリスクをぼくに負わせてまで中学生のぼくをスカウトするとは思えなかった。そもそもレッドさんは「困ってる子どもたちを救いたい」という動機のもと陰陽連合に参加している。のであれば、いままさに「困ってる」ぼくも最終的には救われるのだろう。それも実戦に投入できるようになるとかそういう展開で救われるのかどうかはわからないが(……しかし戦うことで救われるというのも矛盾があるが)、とにかくぼくは何とかなる。そういえば麗子さんが霊力のピークだとかいつまで経っても力がなくならないとさめざめと言ったことを思い出す。相沢さんや光里さんもそうだろう、このぼくの霊力は最終的には消滅するのかもしれない。そうなったときやはり陰陽連合からすれば用なしということになるのだろうし、ぼくがあのハンマーを出現させられないことなど大したことではないだろう。ぼくはそんなふうに論理展開をしていくことで徐々に安心感を覚え、楽天的になっていった。こういう性格で自分は得をしていると常々思う。

 ただ、それはともかくとして、やはりいつまでもあのハンマーを出現させられないというのはやはりぼくには、不甲斐ない、という気持ちがあり続けている。

 一体どうすれば出てくるのだろう? 対鬼哭アルカロイドのときに出てくる可能性を考えてみたが、今日、結局出てくることはなかった。麗子さんの言ったようになにか条件があるのだと考えた方が妥当だとは思うが、ぼくはやはり戦いたい。そしてそれは何のために? あるいは誰かのために? 例えば世界のために……?

 そりゃあもちろん、自分のストレス解消のためだった。

 霊力を使うことでリフレッシュになるのかどうか、そういう原理が霊力にはあるのかどうかはわからないが少なくともぼくには当てはまるようで、前回の神社はなかなかの解放感爽快感が得られたものだった。別に日頃そこまでのストレスやトラブルを抱えた日常を送っているわけではないが、やはり気持ちのいいものは気持ちいい。お気に入りのバナナケーキとブラックコーヒーぐらいにはリフレッシュができる。それでもって“敵”を倒せるなら一石二鳥、ぼくはそういう自己中心的な考え方でもって陰陽連合に参加しているのだということに、いよいよ自覚してきた。

 世界がどうとか社会がどうとかいうことを考えること、悩むことも大切だが、それにしてもまずは自分自身の救済が先決だとぼくは思うのだった。

 というわけで自分の中で陰陽連合との鬼哭アルカロイドとの向き合い方もまとめられたのだから今日はもう寝ようっと、と、起き上がってパジャマに着替えようと思った辺りで——。

 警報が鳴り響いた。

「なっ、なんだ⁉︎」

「トキオ。聞こえるかい」

 頭の中で声がする。レッドさんだ。

「レッドさん?」

 ぼくは声に出して反応する。

「そうだよ。いま、一種の精神感応で君と話をしている」

 精神感応ね。個人情報保護法とかその手の法律に百パーセント引っかかるな。

「なんですか?」

「今日はお疲れ様。助かったよ。ところが例の繁華街でまた鬼哭アルカロイドが出現した」

 ふーんそうなんだ。

「はあ」

「というわけでトキオにも出撃してもらいたいんだがね」

「と言われましても」と、ぼくは時計を見る。もう夜の十時だ。「いま、外出なんてできませんよ。親はまだ起きてますし」

「部屋のドアを開けて」

 なにが何だかわからないが、言われるまでにドアを開けると、そこには霊道が広がっていた。呆気に取られたぼくにレッドさんはこともなげに言った。

「もう開いておいてある」

 しかしまだ気になるポイントはある。

「親がぼくの部屋に来るかも。ぼくになにか用事があるかも」

「もう人払いの術をかけてある。帰還するまで親御さんがトキオに接触することはない」

「はあ」

「トキオの力が必要なんだよね」

 どこか切実にそう言われると、ぼくの心も動いてしまう。

「でもぼく、今日、なにもできませんでしたけど」

「だから今晩、その謎が解明される」

「と、おっしゃいますと」

「文献を調べた。君みたいな人間は昔からちらほらいたみたいなんだよ。非常にレアケースではあるようなんだけどね。だから——トキオに戦い方を教えてあげられる」

 ストレス解消。リフレッシュ。

「はあ」

「トキオだって、いつまでも簡易型の結界術を使っているわけにはいかないぞ」

「何でですか?」

「トキオの霊力は日に日に高まっている。ピークは相当先だ。だからそうなるとトキオに接触してくる鬼哭アルカロイドは簡易型結界では防御しきれなくなってしまう。そうなる前に、君は君で戦い方を習得しておかなければならない。単独行動ができるようにね」

 そう言われると……ぼくの心は更に動く。

 レッドさんは畳みかけるように言った。

「君の身の安全のために」

「わかりました」

 と、ここでぼくはあっさり即答した。

 やはり、このままにしておいていいわけはない。レッドさんの説明は非常にわかりやすかったし、いつまでもこのままでいられるわけではないというのは自分でも予感していたことだった。それに、そのうち単独行動で鬼哭アルカロイドを何とかできるようにしなければならないというのは望んでいたことではあったのだから。

「じゃあ、いまから行きます」

「ありがとう。それじゃまた後で」

 と、そこで精神感応——通信は途切れた。

 よし、と、ぼくは軽く深呼吸して、霊道の中へと突入する。

 ……しかし、こういったことは二十四時間問わず起こる可能性のあることなのかしらん。

 別方向の不安を抱きつつも、ぼくは歩き出す。なぜなら——その方が自分にメリットがあるからなのさ。

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