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僕の秘密の場所

作者: 木田 梅子


僕はすごく遠い国に行ったことがある。

ものすごく遠い国。

なんていう国かって?

そんなの知らない。

とにかく遠い国。

目を瞑ると行ける場所。僕だけの秘密の場所。

もちろん、お父さんもお母さんも知らないよ。

みんなが行けるかどうかもわからない。

でも、ぼくが行けたから、もしかしたら行けるのかもしれない。

今日もほら、いつものようにぼくは目を瞑るよ。

深く深く暗い世界に入ると、緩く長い階段が現れる。その階段を大きく一歩ずつ前鑑に登っていくと、アーチ型の扉が見えてくる。

最初はとても小さくみえるけど、登っていくうちにだんだんと大きくみえてくる。

扉の前に到着するとわかる。

ぼくはネジの一本にも満たないサイズだ。

それほど扉は大きい。

ぼくはものすごく小さい人だから、その国に入ってもわからないっておもうかな?

違うんだ。大きいのは扉だけで、その世界で生きている人達は、僕たちの世界と変わりのないサイズ。

でも、入国するには許されたものしか入ることができないから、必ずもぐらが見張っている。

こいつはダメだ!と判断されると穴から飛び出してきて、大きく変身した体で、風を仰ぎ、思い切り扉の外へ吹き飛ばす。そして、バツの印が顔につく。バツの印がついたらもう一生ここにはくることはできない。

そして、入国を許されたものは小さい穴から顔を出して、薔薇の花のブローチをくれる。

胸元につけろと合図してくる。

それをつけると中に入れる。

ぼくも最初はそうだった。入る時ブローチをつけた。

でも今は、その国の民として許された者のみが着用できるマントをぼくは持っている。

「やぁ、これはこれはムームーさんこんばんは。今日は岬で星の釣り大会があるそうですよ。行かれてはいかがかな」と、もぐらが言ってきた。

ムームーとはぼくのこと。この国の偉い人が付けてくれた。

偉い人の家は、とても小さな家だった。

入り口を入ると真正面に小さな椅子があって、そこに分厚い赤いマントが座布団みたいにお尻の下に敷かれて座っている人がいた。

「お主の名を聞こう」

とぼくを見るなり言ってきたから

元気よく「ムサシです」といった。

その偉い人はぼくの名前がそれなのか、わかってなかったし、名をいえなかった。

「ムサっむささ、ムサさス。うーーん。

お主は今日よりムームーという名前にするが良い」

と、いうことで、このような名になった。

偉い人の一声で、みんなが変わった。

みんなムームー、こっちもムームー、あっちでもムームー。1人も名前のムサシで呼ぶものはいない。ぼくはここではムームーなのだ。

ぼくは実はすごく気に入っている。

名前だけでって思うかもしれないけど、まるで、違う人になったみたいな気持ちになれる。

だからなのか、余計楽しい。

「そうかぁ、星の釣り大会があるのかぁ。あとで見に行ってみよう」

ぼくは、街の入り口に立ち、バラバラに敷き詰められたベージュの石畳の上をまっすぐに歩いた。

道の両脇には店や、この世界の住人たちの住む家が広がっている。

それらは面白い形をしている。

家の主が三角と言えば三角の家。ずれた積み木のような家といえば、ずれた積み木のような家。靴の形の家といえばその形に。ここでは皆自由な思想を持って過ごしている。

「やぁ、ムームーさん。」

うしろからクロコダイルのワッシャーさんがやってきた。ワッシャーさんは黒いマントを付けて、ガニ股で歩くとても紳士なかただ。

「こんばんわワッシャーさん。今日はどちらへ?」

ワッシャーさんは刺していたピンク色の日傘を閉じると、傘を右手で持ち、左の腕をぼくの肩に回してきていった。

「ムームーさん。今日は我が家でパーティがあるんだが来ないかね?。君もきっと気にいる。」

ワッシャーさんはとても自信いっぱいに小さい鼻をぴくぴくさせてぼくを誘ってくれた。

「お誘いしていただいてありがとうございます。では、行きたいところがありますので、その後になってしまいますが寄らせてもらいます。」

「そうかそうか。では、ぜひ楽しみにしていていらっしゃい。はっはっはっ」

ワッシャーさんは嬉しそうに胸を張って、持っていたピンクの傘をさして歩いて行った。

ぼくは面白い人だなぁと思いながら、ぼくもさらに進んだ。バラバラの石畳の道から半分だけ木が敷かれた道に出る。もう片方の道は緑色の草のようなものが敷かれている。

ぼくは木の道ではない草の道の方を歩く。

タンッタタタタタンッタンタンタタタン

前から陽気に飛び跳ねる麒麟のスラリンさんが叩き出される音と共にみえた。

スラリンさんは、とても踊りが上手な方で、いつも踊っている。ぼくは、だいたいこの道で会う。今はタップダンスがお気に入りで、とても良い音色を叩き出している。

「やぁ、ムームーさんこんばんは。今日の私の踊りはどうかな?」

スラリンさんとのすれ違い。

顔と左足が高くまっすぐ空に美しく伸びている。ぼくは見上げるしかできないから、どんな表情をしているのかがわからない。とてもそれが残念で仕方がない。ちゃんとホールのようなところで上から見てみたいといつも思っている。

空に放たれたスラリンさんの声は

下にいるぼくの元に、上からちゃんとして降りてくる。

「とても素敵です。スラリンさんの踊りは大好きです。このリズムもほんとうに素敵」

そうぼくがいうと、スラリンさんは

「そうかい!うれしいなぁ。」

と終わりを迎えた木道をリターンして、「ありがとうー」と言いながら、タップダンスをしながらクルクル回って戻って行った。

ぼくも同じ方向に行くけど、スラリンさんのスピードにはついていけないので、見送るしかなかった。

「もっとずっとそばで見ていたいのになぁ」

残念な気持ちになった。

草の道をぼくは進んでいるけれど、実はこの道は気をつけなくてはいけない。

たまに、葉かげに隠れてリー博士がいるからだ。リー博士のマントは赤いマントで、ところどころ丸い穴が空いている。

マントの下には研究に必要なものがたくさん入ったリュックをせおっている。

このリュックは勝手に光を放つリュックで、博士の危険を知らせるし、教えてくれる。

博士は博士という名の通り、話すととても面白い方だ。

今日は、いそうにない。

竹林の道に入ったぼくは、マントでからだをおおって首元のひもをしっかりしめた。

「そろそろくるかなぁ」

次第に声が聞こえてきた。

ぼくは出来るだけ端によってあるいた。

「私は侍だ!お主はそうではなかろう」

「なんという!私は騎士だ。お主は騎士ではなかろう」

「なんだと!私は侍だ!」

「なんと!私は騎士だ!」

白馬に乗った鎧の騎士と、足が太くしっかりした馬に乗った侍が、それぞれのことを言い合いながら向かってきている。

ぼくはこの2人は少し怖いので、体をマントで覆って横を通り過ぎることにしている。

マントで覆うと、ぼくの体は見えなくなる。

2人は同じことをずっと言い合っている。いつになったら解決するのだろうかと少し気になっている。

そうしてぼくは第一の目的地である、小さな池に着いた。

「月の岬へ」

ぼくはその小さな池に向かってお願いした。

池はゆらゆらと波を打つとそのミスの中から1段ずつ透明な階段が噴き出され、ぼくはその階段を登り始めた。

ぼくはとてもワクワクしていた。

ものすごく楽しいところに向かっているんだけれど、前は後少しというところで行くことができなかった。今日はこのままだといけそうな気がする。一段ずつの階段はあっという間に、月の岬に着いた。まるで登ってないかのようにすんなりと。

ぼくのワクワクがとても大きくなっていた。

ワクワクの場所が見えているからだ。

目に入る先には、小さな小屋があって、その前には緑色の、魔女のとんがり帽をのようなものを被り、背丈を超えるほどの長い棒を持った、背の低い男の人が立っている。そう!この場所がそう。

ぼくはワクワクを抑えられなくて、走り出した。

今日は大丈夫そうだ。

「ぼっちゃん1人ですかい?」

背の低い男の人は、棒を少し傾けながら、ぼくにそう言った。

「そうだよ。ぼくはとても楽しみなんだ。早く乗せてよ!」

ぼくの目にはキラキラした星が出ていた。

「ぼっちゃんは初めてでいらっしゃる。あっしにはわかります。まずは乗る前に、マダムビーの説明を受けてくだせぇ。奥におります。行けばすぐ説明が始まりますんで、ちゃんときいてきてくだせぇ」

ぼくはすぐに乗れないのかぁとがっかりしていた。ぼくは奥の部屋に向かった。

3回ノックして扉を手前に引くと、マダムビーがマイクを持って待っていた。

横にいるピアノのクマは、長いつけまつげをつけているからか、目を瞑っているように見えた。ぼくが入ると演奏が始まった。

「んーん。」

マダムビーの隣のピアノには大きな蜂蜜の入ったカメが置いてある。

それをなめながら、歌を伝う

だからその周りは、こぼれたはちみつだらけだ。


「あんーん べちゃべちゃ、ふふんふん。あーんん、ぺちゃぺちゃ。………♪」

はちみつなめながら歌う歌はよくわからなくて、部屋の中は甘い匂いでよりいっぱいになった。

「♪あーん、ぺちゃ。乗ってよし」

ぼくはようやく乗れる許可をもらったから、さっきのところへ向かった。

マダムビーはまだ歌っていたけど、優しく手を振った後に、早く行きなさいとでも言うように手を外へ向け船乗り場の方を指差して何度もその指を突き出した。

ぼくは驚いた。これは知らなかった。

背の小さい魔女帽子を被った人がスラリと背は高く、白いタイツに金色の上着に金色の短いパンツ。お城にいるみたいな人にかわっていた。そして船もとても立派なゴンドラで、キラキラした星屑の上に浮いている。あたりは輝き、透き通るような美しさで、ぼくはとても心地良くなった。

「どうぞ、こちらからお乗りください」

ぼくは王様になったような気分で、乗りこみ、真ん中に座った。

僕とゴンドリエーレだけの静かな時間が流れていた。

滑らかに船は進む。

「はいっ、そっち。これそっち。それそっち。」

「ほいっほいっ、やー、ほいっほい」

なんだか、陽気な声がしてきた。

「今日は星釣りが開かれているので、星を落としているのでしょう。大きさがかたよらないように落とすのも大変な仕事です」

美しいゴンドリエーレが教えてくれた。

星釣りは、空に向かって竿を投げる。

大きなものから小さなもの、星の屑も含めたその重さで競う競技。みんな楽しそうに空を見上げているのがみえる。

「これ、優勝したらどうなるの?」

「優勝したら皆で喜ぶんですよ」

「優勝者を讃えて皆で喜んで、それで終わりです。それはそれはとても幸せな時間ですよ」

ぼくは、その話を聞いて何だかとても幸せで嬉しい気持ちになった。

ぼくも行ってみればよかったかなと、少しおもった。

ゴンドラはゆらりゆらりと弧を描くように降りていきます。ゴンドリエーレとぼくは、月の光の中、金の川ような、たくさんの星の輝きで満ちた川の上を優雅に浮くようにすすんでいた。

街に近づき始めた頃、ひとつの家から大きな音と光が飛び出した。それは皆の瞬きをとめてしまうくらいの大きなもので、一斉に見上げた空には大きく美しい花火が開いていた。花火は3発上がった。最後の形は、ワッシャーさんの顔だった。

屋根を外したワッシャーさんちが街に近づき始めたぼくの船からよく見えた。

ワッシャーさんに誘われたパーティは、とても賑やかで楽しそうだとおもった。でも、半分怖かったかもとも思った。

もうすぐ街に着く。

大きな樫の木のてっぺんの横に、このゴンドラの終点の駅がある。

透明なガラスで出来た駅は、ゴンドラが近づくと仄かに金色に輝く。

ゴンドリエーレは、駅にゴンドラを寄せた。

「お手をどうぞ。素敵な時間をありがとうございました。またのご乗車をお待ちしております。」

ぼくの手をとって、ゴンドラから下ろしてくれたゴンドリエーレは、左手を背にまわし、右手を胸元にと、とても丁寧におじきをしてくれた。ぼくはとても素敵な気持ちになった。

「ぼくはとてもとても乗ってみたかったから、凄く嬉しかったです。ぼくこそとても素敵な時間でした。ありがとうございました」

ぼくは、手を振ると、横にある樫の木に挨拶した。

樫の木は大きな枝をぼくの方に寄せ、ぼくを包んだ。

上から下に樫の枝が交互にぼくを包み、そう優しく包まれて、ぼくは下まで降りることが出来た。

ぼくは空を見上げてゆっくり目を瞑った。

すると微かにピアノの音が聞こえる。

時折音が外れて弾き直す。何だか聞いたことあるなぁ。微かに歌う声も聞こえて来た。あまり上手じゃないその歌は、ぼくのお姉ちゃんだった。

ぼくは、瞑った目をゆっくり開けた。

そこは、現実に見慣れた空間で、大きな地球儀が飾ってある僕の部屋だった。

「お姉ちゃんは僕のことがすきだなぁ。僕はいつもお姉ちゃんに戻される。でも楽しかったなぁ」

僕は寝ていたベッドから起き上がり、お姉ちゃんの元に向かった。

「今度は思い切ってワッシャーさんちに行ってみよう」


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[一言] ほんわかした夢ですねー。 星を釣るイベントが気になります!
2024/01/07 08:55 退会済み
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