09話 グラビティー
どうやら、あの町での一件以来、俺は指名手配されているようだ。
人に遭遇する度に襲撃されて、逃げることを繰り返す羽目になってしまった。
お陰で、俺は人が殆ど来ない高原を走っていた。
異世界生活もままならないなと思いながら走っていると、前方に何かの影が近づいてくるのが見えた。
『ガギィィ』
音に気づいた時には、俺は地面から離されていく……。
宙ぶらりんになりながら、サイドミラーを見るとなんと、ドラゴンが俺のことを鷲掴みにしながら、空高くへと舞い上がっていた。
ク……クソ……離せ……。
俺は慌てて、エンジンを吹かしてみる。
『ブオオオオオオオオオオオ』
しかし、龍は気にすることなく、更に空高くへと舞い上がっていく。
これならどうだ!
「いしや~きいも! や~きいも!いしや~きいも! や~きいも!」
一か八かだったが、やはり意味は無いようだった。
何かないのか……なにかもっと衝撃のある音……音!?
あるじゃないか! 元から車に備わっている機能『クラクション』が!!
『プオオオオオオオオオオオオ』
大音量のクラクション音が鳴り響いた。
すると、俺は放されて地面へと落ちていく。
し……しまった。このままじゃ地面にぶつかる。
何かないか……何か……そうだ、ロケットを使えば……。
俺は、慌てながらロケットを選択した。
ロケットで俺は、空へと……抗わず下に向けて加速していく。
な……パニックになったせいで、前面が地面に向いてたのを忘れてた。
さ……さらにまずい……どうしよう……どうする……どうして……ハッ!
進化してから、他の項目を調べていなかったことを思い出した。
急げ……急げ……あった!
『強化』が可能になっていた。
俺は、内容も確認せずに強化を実行する。
さぁどうなってる。頼む……。
藁にもすがる思いで、『点検』を開く。
『名称 大型アートトラック 機械式冷凍車』
『ダブル連結』New
連結……このタイミングで荷台が増えやがった!?
俺は、更に加速して地面へと落ちていく……。
『ドオーン!』
「損傷度が100%に到達しました。機能を停止します……」
世界が暗転していき、俺の意識は途絶えた――。
◇
俺は、目を覚ますと日本の部屋の中にいた。何か違和感を感じるが……。
夢……だった……のか……。
そりゃそうだ。死んでトラックになるとか馬鹿げてるもんな。それに異世界へ行って無双どころか、異種交流すら出来ないとかないわ。
さあて、いい加減起きるか。
…………あれ? 俺もしかしてすでに立っているのか!? それにしては部屋全体が高いように見えるが……。
俺は慌てて、右側に振り向く。視界がぱっと切り替わり、視界の片隅にサイドミラーが映る。
……夢じゃねえー!
まさか、あっちで死んで地球に戻ってきたのか。とりあえず、一旦状況を確認してみよう。
カーナビは……ダメだ使えない。死んで全てを失ったのか。
次に、この部屋の違和感だが……まさか……いや……そんな……そうなら前回より最悪じゃないか。
俺は最悪なことに気が付いてしまった。それと同時に突然、背中を何者かに掴まれた。もう、大体の予想はついているが……。
掴んできた正体は、巨人の子供……いや……日本人の子供だった。
そして、俺の現在の姿は……。
「ブウウウウウウン」
男の子は遊び始めた。何を使ってかって? そんなの決まってるさ、俺を使ってにな!
男の子は、何を思ったのか口を開け始めた。そして、その開けた口の中へと俺を運んでいく……。
いやー、舐めないでー! 折角地球に帰れたのに……。
『クソー、絶対に逃げ出してやるからなー!!』
俺は心に固く誓った。
こうして、新たなる地球生活が幕を開けた――。